『社労士が書いた 介護「人財」の採用・育成・定着のための職場作り』の著者に聞く、人材が定着する職場のつくり方

『社労士が書いた 介護「人財」の採用・育成・定着のための職場作り』の著者に聞く、人材が定着する職場のつくり方

採用しても、人がどんどん辞めていってしまう……。介護業界の事業者にとって、人材に関する悩みは尽きません。どうすれば人材の定着率は高まるのでしょうか? 今回ご紹介する書籍『社労士が書いた 介護「人財」の採用・育成・定着のための職場作り』の著者である林正人さんによると、良い職場には「働きがい」と「働きやすさ」が備わっており、どちらも大切にすることがポイントとのこと。一体どういうことなのか、林さんに解説していただきました。

どんなに働きやすい職場でも、「働きがい」がなければ長く働けない

社会保険労務士として介護業界と関わりを持つようになり、今年で9年が経ちます。この業界と深く関わるうちに、どの事業者にも共通の悩みが存在することを知りました。それは、「人の採用・育成・定着」です。人が集まらない、集まってもすぐに辞めてしまうという事態に、多くの事業者が直面していたのです。

この問題を解決するために最も大切なのは、「職場作り」だと考えています。そこで、私が実際に現場で効果を実感できた取り組みをご紹介することで、介護業界の職場作りに役立てていただきたいとの思いから、本書を執筆しました。

本書のメインテーマは、「働きがい」と「働きやすさ」です。

「働きやすさ」とは、職員一人ひとりの事情に合わせた働き方が可能であること。労働時間の短縮や、育児休業などのルールを導入することで実現が可能です。最近は介護業界でも力を入れる事業者が増えてきました。

一方、「働きがい」とは、一言で言うと「やりがい」です。働くことによって感じられる精神的な満足度とも言えるでしょう。ところが、「働きがい」を高める取り組みを積極的に行っている事業者の数は、まだ十分ではありません。

一つデータをご紹介しましょう。現在進行中の2021年度介護報酬改定に向けた議論の中で厚生労働省が発表した「勤務継続に関するアンケート結果」によると、勤務継続にあたり重要と思うことの1位は「仕事へのやりがいがある」(36.6%)でした。どんなに「働きやすさ」が整っていたとしても、仕事へのやりがいが感じられなければ、人は辞めてしまいます。「働きがい」と「働きやすさ」は、職場作りの両輪であり、どちらも同じように大切な要素なのです。

介護業界こそ「1on1ミーティング」を実施すべき理由

そもそも「働きがい」とは、何によって作られるものなのでしょうか?

介護業界では、お客様へのサービス内容は国により定められているため、事業者によって仕事内容が大きく変わることは基本的にはありません。では、やりがいを感じる職場とそうでない職場は、一体何が違うのか。

その答えは、「自分のやっている仕事が職場のメンバーから認められている実感があるかどうか」です。誰もが承認欲求を抱えている以上、「自分の働きが認められている」と思えることは、働く側にとって何よりありがたいのです。

そうした承認欲求を満たし、「働きがい」を感じてもらうための施策としてお勧めなのが、一対一の面談、いわゆる1on1ミーティングです。これを定期的にやっている職場とそうでない職場を比べると、定着率に圧倒的な差があることが、データからも明らかになっています。

面談では、単なる雑談だけではなく、テーマを持って話してみてください。例えば、人事評価制度に基づく評価項目を軸にフォローアップしていく。目標に対する進捗状況を確認し、意見交換をする。その中で、悩みがあればちゃんと聞き、必要に応じてアドバイスやサポートを行いましょう。

1on1ミーティングはさまざまな業界で行われていますが、介護業界での重要性は特に高いと考えています。介護の仕事はご利用者や同僚と常に接触するため、人間関係が仕事の満足度に及ぼす影響が非常に大きいのです。そんな中、「認めてられていないかもしれない」と思いながら働くのは、苦痛に他なりません。「自分は認められている」と思える機会があるだけで、かなり働きやすくなるはずです。

また、介護現場では、自分の努力に比例して利用者が必ずしも回復していくわけではないため、職員はストレスや悩みを抱えやすい状況に置かれています。だからこそ、職員に「働きがい」を感じてもらうためには、「ケアをする人へのケア」に率先して取り組まなければならないのです。

さらに、1on1ミーティングを通じて職員の声を聞くことで、その内容を職場のルール作りに活かし、「働きやすさ」の改善につなげることもできるでしょう。一人ひとりの声をしっかりと聞く機会さえ設ければ、定着率は高まるのです。

しかし、残念なことに、こうした取り組みが十分にできている事業者は、まだほとんどありません。障害となっているのは、業界特有の「面談の時間を取りにくい」という物理的な制約です。例えば、訪問介護であれば、職員は職場にいないので簡単には会えませんし、施設であれば、職員との出勤時間を重ねるシフトを作るだけでも一苦労です。

ところが世の中には、年間で8000回も1on1ミーティングを行なっている事業者が存在します。職員600人規模のその事業者は、トップでさえ、役員クラスと月に70回は面談をしていると聞きました。全てオンラインで対応することによって、移動時間の無駄を削減しているそうです。

「時間がないからできない」とあきらめるのは簡単です。そうではなく、「働きがい」を高める必要性を認識し、1on1ミーティングの時間を作り出す方法を真剣に考える。職員が定着する職場を作るためには、こうした努力が必要なのではないでしょうか。

「働きがい」の創出については、面談以外にもさまざまなアプローチがあります。本書の第二章で詳しく説明していますので、併せてご参照ください。

キャリアパス制度を正しく運用して、納得のいく給料を出せる職場に

働きがいを作る上でもう一つ大事なのは、キャリアパス制度の設計です。

介護職員の賃金向上を目的とした介護職員処遇改善加算の要件を満たし、高い加算率を得るためには、事業者がキャリアパス制度を運用する必要があるのは周知のことと思います。しかし多くの事業者では、「●●ができるようになれば、いくら給料が上がる」というルールが、仕組みとして十分に機能していないのが実情です。

先にご紹介した、厚生労働省による「勤務継続に関するアンケート結果」によると、勤務継続にあたり重要に思うことの第2位は、「能力や仕事の内容を反映した給与体系」(31.4%)でした。職員は単に高い給料を求めているわけではなく、仕事に応じた給料を得られる環境を求めているのです。

本著の第Ⅴ章に、このキャリアパス制度を運用するための手順を具体的に示しています。制度の運用に課題を感じている事業者の皆様に、ご参考にしていただければと思います。

私がさまざまな介護業界の経営者とお話ししていて感じるのは、介護業界の経営者はものすごく努力されているということ。社長自ら動き回り、日々忙しく過ごすのは、決して悪いことではありません。

ただ、あまりにも時間がないために、経営者として本来取り組むべき業務が抜け落ちてしまっていることが少なくないように思います。本を読んだり、他の事業者を訪問したりして、積極的に情報を取りに行く。自分の事業所を良くよくするために何が大切なのかを考える。そうした活動にも意識して取り組む必要があるのではないでしょうか。

本書には、ここで紹介した「人材の定着」に関する内容だけでなく、辞めない人材を採用するためのノウハウや、人材育成のポイント、労務管理の留意点などを幅広く掲載しています。「働きがい」も「働きやすさ」もある素晴らしい職場を実現する一歩を踏み出す際に、本書をぜひお役立てください。

プロフィール:林 正人

社会保険労務士。社会保険労務士法人ヒューマンスキルコンサルティング代表社員、「人を大切にする経営学会」会員。慶応義塾大学法学部卒業。法政大学大学院政策創造科修士課程修了。大学卒業後、企画、営業、人事労務などの仕事に携わり、その後、子会社の社長として経営者の経験も積む。2012年社会保険労務士として独立。独立後は介護・福祉・医療に特化した社労士事務所として、労務管理だけでなく、人材の育成と組織活性化のコンサルティング支援を主要業務としている。各地の社会福祉協議会、商工会議所等での講演やセミナー・研修は年間60回を超える。

取材・文/一本麻衣

書籍情報

『社労士が書いた 介護「人財」の採用・育成・定着のための職場作り: コンサルティング支援の実践』
著者:林 正人
出版社:税理経理協会
発売日:2020年9月1日
定価:2300円+税

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