『事例に学ぶ介護リスクマネジメント』の著者に聞く、事故防止活動の新しい考え方

『事例に学ぶ介護リスクマネジメント』の著者に聞く、事故防止活動の新しい考え方

介護現場のリスクマネジメントは年々注目されており、2021年度介護報酬改定では施設系サービスの事業者に安全対策担当者を定めることが義務付けられるなど、リスクマネジメント強化の動きがあります。そこで一読しておきたいのが、書籍『事例に学ぶ介護リスクマネジメント』。著者の山田滋さんによると、「事故の減らない事業者は、事故防止活動に対する考え方を根本的に見直す必要がある」とのこと。まず何から始めるべきなのか、山田さんに解説してもらいました。

「職員の意識が低いから事故が減らない」はウソ

事故防止活動の原理原則を知っておくことは、もちろん必要です。しかし現場においては、個別のトラブルへの対処方法をあらかじめ知っておきたいというニーズが強くあります。そのほうが実用的だからです。

そこで本書では、私が過去20年間に渡って介護雑誌の連載企画で執筆してきた事故事例の中から60個を取り上げ、「転倒・転落」「誤嚥・窒息」「異食」「誤薬」「溺水」「行方不明」「暴力」「原因不明の傷・痣」「送迎事故」「個人情報」の10個のカテゴリー別に対応ポイントを解説しました。現場で辞書のように参照し、介護事故への対応に関する知識の引き出しを増やしてもらえれば幸いです。

介護リスクマネジメントを強化するためには、こうした対処療法的な知識をストックすることも大切ですが、まずは事故防止活動に対する考え方から見直す必要があります。

これまでは「事故は職員のミスが原因で起こる」という考えのもと、「職員がミスをしないように管理する」やり方が一般的でした。でも実際には、人は誰でもミスをするものです。事故防止活動は、そうした前提に立って取り組まなくてはなりません。

その上で、どの施設も必ずやるべきなのは、事故が発生した際、ミスの原因を明らかにすることです。「不注意」で終わらせていては、何も改善しません。全てのミスには必ず原因があります。

そして、ミスが起きても事故につながらない仕組みを作りましょう。例えば、服薬介助の際に、利用者の写真を掲載した「お薬確認シート」を活用する。このシートを見る習慣が職員に定着していれば、万が一職員が服薬介助する薬を間違えて取っていたとしても、服薬介助の直前で取り違いに気づけます。

このように、介護事故の防止は個々の職員の努力だけに頼るのではなく、組織で取り組むことが大切です。まずはこの点を念頭におくことから始めましょう。

介護事故には「防ぐべき事故」と「防げない事故」がある

また、「全ての事故を防ぐことはできない」という考え方も、持っておかなくてはなりません。介護現場には「防ぐべき事故」と「防げない事故」の二種類があり、前者の事故に優先した対策を講じるべきなのです。

例えば、転倒事故が発生した場合、職員が車椅子のブレーキをかけ忘れたことが原因ならば、それは「防ぐべき事故」に該当します。一方、利用者が自分で歩行している際に転倒した場合は、未然に防ぎようがありませんので、「防げない事故」にあたります。

「防げない事故」まで防ごうとすると、利用者の自発的な行動まで抑制しなくてはならなくなります。施設の中で「その人らしい生活」を実現するためには、「防げない事故」があることを家族に理解してもらう必要があるのです。施設の生活にはどのようなリスクがあり、それに対してどのような対策を講じているのかを併せてお伝えすると、理解していただきやすくなります。

ところがここ数年、家族トラブルは急増している印象があります。「家族と信頼関係があるから、大きなトラブルに発展する可能性は低い」と思っていたのに、いざ事故が起きると、家族からの想定外の反応に悩まされるケースが後を絶ちません。

中には訴訟に発展する場合もあります。万が一そうした状況に直面した場合、職員を守れるのは「記録」です。事故報告書を、第三者がまるでその現場にいたかのように理解できるくらい、詳細に書くよう心がけましょう。具体的な描写がなければ、家族に状況を理解してもらうことも、訴訟で争うことも困難になってしまいます。

利用者の尊厳を守ろうとする思いから、事故報告書を詳細に記載することに抵抗のある職員はとても多いのですが、日々の業務記録と事故報告書の記録は全く別物です。暴言があったなら暴言の内容を、セクハラをされたのなら行為の内容を、きちんと記録に残してください。本書ではこうした家族への対応方法を丁寧に解説しているので、ぜひご参照ください。

事故防止活動をしているのに事故が減らない理由

安全ルールの順守や危険発見活動など、ほとんどの介護施設が事故防止活動をしているにも関わらず、事故が多い現場と少ない現場があるのはなぜなのでしょうか。

一つは、発生した事故の情報共有が不十分である可能性があります。事故の情報は宝の山です。発生した事故は隠すことなくきちんと組織内で共有し、どうやったら防げるのかをみんなで考え、対策を講じられる体制をつくりましょう。

それでも事故が一向に減らない場合、考えられる原因は、介護サービスそのものの品質です。ケアの質の低さは、安全性の低さも意味します。しかしケアの質の高い現場では、職員が個別の利用者をよく見て利用者本位の介護を実践しているため、個別の利用者の抱えるリスクが自然と目に入り、予防できるのです。

事故防止活動と介護サービスの品質の維持向上は表裏一体の関係です。自分たちの提供したい介護が本当に実践できているかどうかを振り返りつつ、本書を参考に、介護リスクマネジメントの強化に取り組んでみてください。

プロフィール:山田 滋

早稲田大学卒業と同時に現あいおいニッセイ同和損害保険株式会社入社。14年間支店勤務の後、1996年より東京営業本部にてリスクマネジメント企画立案を担当。2000年4月より介護・福祉施設の経営企画・リスクマネジメント企画立案に携わる。2006年7月より現株式会社インターリスク総研主席コンサルタント、2013年4月よりあいおいニッセイ同和損保、同年5月末退社。高齢者福祉施設や訪問介護事業者と一緒に取り組み、現場で積み上げた実践に基づくリスクマネジメントの方法論は、「わかりやすく実践的」と好評。各種団体や施設の要請により年間150回のセミナーをこなす。

取材・文/一本麻衣

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書籍情報

『事例に学ぶ 介護リスクマネジメント: 事故・トラブル・クレーム対応 60のポイント』
著者:山田 滋
出版社:中央法規出版
発売日:2020年12月10日
定価:2600円+税

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