選ばれるデイサービスの作り方 ~病院も注目するスポーツ×エンタメの独自プログラム~

選ばれるデイサービスの作り方 ~病院も注目するスポーツ×エンタメの独自プログラム~

午前10時、朝早くから汗を流す人で賑わうスポーツジムに、高年齢層の会員が続々と到着します。神奈川県横浜市にあるスポーツジム「ワイズ・パーク あざみ野」では、10~13時はデイサービスの時間。早朝の利用者と入れ替わりで、ジム内は要支援・要介護認定を受けた高齢者でいっぱいになります。

ここでは、大学の研究機関や病院からも注目を集める、「運動」と「エンターテイメント」を組み合わせたプログラムが行われています。

スポーツジムで、なぜデイサービス?

――ワイズ・パーク あざみ野を運営する、ワイズ・スポーツ&エンターテイメント代表の山本晃永さんは、サッカー日本代表やプロ野球選手を担当するなど、スポーツ界から信頼の厚いアスレティックトレーナー。そんなスポーツの専門家が、なぜデイサービス事業に乗り出されたのですか?

もともと契約アスリートのパーソナルトレーニング、学生スポーツ選手のリハビリ施設を作るつもりでした。この客層は夕方からの利用が基本で、日中の時間が空いてしまいます。日中の有効活用を考えていた頃にちょうどスポーツ庁ができ、スポーツを通じた国民の健康増進に注力する流れがありました。

そこで2012年に、ジュニアから高齢者まで幅広い年代にスポーツを通したサポートを行う“トータルライフサポート”を掲げて「ワイズ・パーク」を設立し、地域にパーソナルトレーニングの場を提供しようと考えました。

体の痛みや悪いところがそれぞれ違う高齢者こそ、個別性が必要です。集団の運動プログラムでは個々の身体状況に関わらず同じプログラムを行いますが、これはアスリートでは考えられません。

高齢者も同じで、体力や筋力、不調などの身体状況に合わせて、プログラムを組む必要があると考えました。一人ひとりに最適な改善のためのトレーニングを提案できるパーソナルトレーニングの利点が、高齢者向けの事業に活かせると思ったのです。

ワイズ・パーク あざみ野店

――パーソナルトレーニングという専門性を、高齢者向け事業へと拡大されたのですね。今日も群馬県から医療関係者の方が研修に来ていますが、事業の状況はいかがでしょうか?

現在、自社運営のあざみ野店、芦花公園店のほかに、フランチャイズ店舗のワイズ・パーク 青森センター店でもデイサービス事業を展開しています。今秋、茨城県にも契約する競輪選手が法人を起業し、フランチャイズ店舗をオープンする予定です。また、群馬県のつつじメンタルホスピタルと虹の郷すわという介護福祉施設には、「のれん分け」という形でプログラムを提供しています。新たに群馬県にある鶴ケ谷病院のデイケアへの導入も決まり、今後も「のれん分け」は拡大していきそうです。

病院からの研修希望も多い、注目の“独自プログラム”とは

――魅力的なプログラムであるからこそ注目され、事業を拡大されているのだと思います。どのようなプログラムなのか教えていただけますか?

体だけではなく心も元気になっていただくことを目的に、「最適運動」と「エンタメプログラム」を組み合わせています。身体機能の向上に加えて、脳を活性化し、感情を豊かにしていくプログラムです。

――失礼ですが、「運動」と違って「エンタメ」は専門外ですよね。エンタメプログラムとはどこから生まれたのでしょうか。

デイサービスとなると、自らの意思でスポーツジムに通う通常のお客様とは違い、運動にネガティブな方もいらっしゃいます。運動が苦手な方にも楽しく過ごしてもらえるように、エンターテイメントの要素は必要だと考えていました。

劇団四季で21年間主役を演じ続けてきたトップ俳優・井上智恵さん。「サウンド・オブ・ミュージック」や「キャッツ」、「美女と野獣」など代表作多数

ちょうど、あざみ野には劇団四季の稽古場がありまして、現在エンタメプログラムを担当している舞台俳優の井上智恵が、怪我のリハビリでジムに通っていました。

演劇やミュージカルの素晴らしさを福祉の現場にも伝えたいという彼女の思いもあり、劇団四季を退団してデイサービス事業に参加してもらい、エンタメプログラムを作りあげました。

――運動だけでなく、エンターテイメントの専門家のノウハウも詰まったプログラムなのですね。だんだんと魅力の秘密がわかってきました。まずはエンタメプログラムについて詳しく教えていただけますか?

エンタメプログラムは、デイサービスの始まりに行う「オープニングエンタメ」20分、終わりに行う「フィナーレエンタメ」20分という2部構成になっています。

オープニングエンタメは、呼吸法や舌の体操から始まり、劇団四季の発声訓練を高齢者向けにした発声法で表情筋を動かします。笑いの効果でやる気を向上させていく「ワハハ体操」、トレーニングメソッドで大切にしている11の動きを楽しく音楽に合わせて行う「Y‘s体操」で締めくくります。

アップテンポな音楽に合わせて動くY‘s体操。ジム内にビート音が響き渡る

フィナーレエンタメは日本歌曲を題材にした音楽プログラムです。ミュージカル俳優の訓練法をもとにした専門的な方法で歌を練習し、段階的にハンドベルの演奏も練習します。2つのことを同時に行うことをデュアルタスクといって脳活性に効果があると言われますが、楽譜を読み、発声し、ハンドベル、足踏みと、それ以上のことを周りの方と協調しながら行っていくので、脳活性には相当な効果があると思っています。最後に口腔体操で締めくくりです。

――実際に拝見して、20分間に要素がたっぷり詰まったプログラムですね。最後の口腔体操は「宴会の締め」のようで驚きました

5本締めのリズムで手を叩きながら発声するので、「宴会の締め」のようですよね。今日の発声法は「ら行」なので、「ら・り・る・れ・ろ」を手拍子に合わせて唱えます。

認知症の方は、「いまどこにいるのか、何をしているのか」わからないこともあります。5本締めをしたらデイサービスが終わり、という習慣をつけることで、少しでも安心してもらえたらと思っています。ちょうどお昼前なので、口腔体操をすることで、美味しくお昼ごはんを食べてもらいたいという思いもあります。

プログラムのさらなる向上のため、井上さんは介護分野の勉強を続けている

――エンタメプログラムの間に行う、「最適運動」の方はどのような内容なのでしょうか?

体の状態や動作を確認する「身体評価」を行って個々に合ったトレーニングメニューを作成します。不調箇所には物理療法や運動療法のメニュー、筋力を高めたい部分はトレーニングマシンも使い、強度や回数、セット数など個々に合わせたプログラムを組み、トレーナーと一緒にトレーニングしていくものです。身体評価は3カ月ごとに行います。

具体的にはトレーナーとマンツーマンのパーソナルトレーニング、マシンを使った筋力トレーニング、有酸素トレーニング、足趾機能向上のトレーニング、日常動作向上トレーニングを順に行っていきます。

エアロバイクやトレッドミル、ニューステップなど身体状況に合わせたマシンを使う有酸素トレーニング

ご家族との連絡に使っている「宿題帳」では、個々の強化すべきポイントに合わせた自宅でできるトレーニングを紹介しています。月に15回以上、自宅でトレーニングをした方には表彰状をお渡ししています。

個々の課題に合わせたトレーニングメニューを提案

――トレーニングマシンを使った筋力トレーニングもあるのですね。マシンは高齢者向けのものですか?

子どもから高齢者まで使える、自社開発のトレーニングマシンを使っています。パーソナルトレーニングで行っている機能的な動きの習得と筋力の向上を同時に効率的に行えるように開発してきました。負荷は安全性を考え油圧式にしたので、ゆっくり動かすと負荷が小さく、早く動かすと負荷が大きくなります。

Jリーガーや競輪選手などプロアスリートも同じ器具を使っていますよ。筋肉は短くなりながら力を発揮するのと、伸びながらブレーキを掛けるように力を発揮する2つのパターンがありますが、伸びながら力を発揮するパターンは、筋肉に強い負荷がかかり痛めてしまったり、筋肉痛にもなりやすいと言われます。油圧式ならば短くなりながら力を発揮するパターンだけのトレーニングになるので、高齢者の使用も安心です。

また筋力アップの効果を高めるために、スピードをモニタリングして、負荷調整と回数やセット数を決めていく最新のトレーニング理論を採用しています。

――足趾トレーニングについても教えてください。

大阪大学大学院で高齢者の転倒予防などを研究する山下教授と連携して、エビデンスに基づく足趾トレーニングにも力を入れています。まずはアスリートの疲労回復を目的に導入している高濃度炭酸泉を足浴として足を温めて、アロマオイルでトリートメントすることで、血行を良くして足を動きやすくします。

そして、足の指を広げる「足指パッド」をつけて、足指をぎゅっと握るような関節運動や筋力トレーニング、脳活性効果もある手と足でジャンケンをする運動などを行います。足指のトラブルには本人も家族も気づいていないことが多いものです。何か気になることがあればその場で看護師が確認して、対応を判断しています。

足趾トレーニングの効果を日常動作につなげる動作向上トレーニングについても、トレーナーが個別にアドバイスしながら進めます。

トレーナーが動きを確認しながら行う日常動作向上トレーニング

――休憩時間に皆さん何か食べているようですが、おやつの提供もあるのですね?

せっかくトレーニングをしても、栄養補給をしなくては筋力がつかないので、公認スポーツ栄養士が考案したプロテインクッキーを提供しています。すぐ近くにあるベーカリー「もあ」のオーナーがスポーツジムに通っているご縁で、レシピと大量のプロテインをお渡しして焼いてもらっています。

スポーツ栄養士が考案したプロテインクッキー

――スポーツやエンターテイメントのプロだけでなく、大学教授からご近所のベーカリーまで、様々な専門家の力が集結したプログラムなのですね。

各分野の専門家に入ってもらうことで、デイサービスの独自性が高まり、魅力的なものになると思っています。

ほかに、香りのアプローチとしてアロマの専門家も加わっています。デイサービスの始まりには集中力を高め、身体を活性化させる香り。たくさんの人が集まるので抗菌作用があるものにしています。終了時間が近づくと、副交感神経を刺激してリラックスし、呼吸が楽になるような香りに変えています。

プログラムをより楽しく効果的にするためには、自社の専門性に偏らず、他者に協力を仰ぎながら柔軟に作り上げていくことが大切だと思います。

プログラムの効率化ノウハウ&人材活用

――スポーツジムとの時間的なすみ分けはどうなっていますか?

10~13時のデイサービスの時間以外は、スポーツジムとして運営しています。7時30分~10時までと13時~夕方までの時間は、地域の方の利用が多いですね。マシンを使ったり、パーソナルトレーニングやボディケアを受けたりしています。夕方~22時までは、プロのアスリートや学生スポーツ選手のリハビリやトレーニングが多くなります。デイサービスは、10~12時、11~13時の2時間(要支援者向け)と、10~13時の3時間(要介護者向け)があります。

――個々の身体状況に合わせてマシンの回数などが違う「最適運動」のプログラムは、運営が複雑ではないかと思うのですが、何人で運営しているのでしょうか。

1日20~24名程度の利用者様に対して、デイサービスの運営スタッフは、トレーナー2人、アロマ担当2人、看護師1人の計5人です。各自担当の配置につき、利用者様が各トレーニングをぐるぐると回っていく、サーキットトレーニングのような形をとっています。

マニュアル化していて役割が明確なので、各自が機能的に動くことができ、少人数での運営が可能になっています。

個々の運動の強度や回数は、3カ月に一度の身体評価を元にあらかじめ決定しています。とはいえ、当日の様子を見て不調があれば、スタッフで情報共有し、マシンの回数を減らすなど調整しています。研修をしっかり積んだ、ある程度経験のあるトレーナーをひとり配置できれば、そのスタッフが司令塔となってうまく機能するようになっています。

――トレーナーにはデイサービス専門の方がいるのでしょうか?

デイサービス専門のトレーナーはいません。午前中はデイサービス、午後は担当している学生スポーツチームの指導やジムに残ってパーソナルトレーニング指導など、シフト組みで運用しています。公認アスレティックトレーナーのほか、理学療法士、あん摩マッサージ指圧師、柔道整復師、鍼灸師の資格を持つトレーナーが所属しています。

若年層のトレーナーが多い中、人生の大先輩である利用者様と関わることは、トレーナーの成長に良い影響を与えていると思います。幅広い年代のお客様と関わることで経験値やコミュニケーション能力を高め、プロのトレーナーに成長していきます。言葉遣いが幼い部分を直してもらうなど、利用者様も孫を育てているような感覚のようです。

最近では、デイサービスを担当したくて入社するトレーナーもいますよ。介護の分野にスポーツトレーナーという立場から貢献できることに、価値を感じているスタッフが多いようです。

――ほかの職種の採用についてはいかがでしょう。

看護師とアロマのスタッフは、10~13時のデイサービスの時間のみ、パートタイム勤務でお願いしています。短時間勤務であることもあり、同じ地域に住む育児中の有資格者がすぐに見つかりました。送迎ドライバーは、タクシー会社を定年退職したスポーツジムの会員の方が、パートタイムで働いてくれています。社員はトレーナーの2名、あるいはそのうちの1名はパートタイムでも運営ができるようにしています。

――元・劇団四季の井上智恵さんによる「エンタメプログラム」を、ほかのスタッフが行うのは難しいのではないかと思ってしまいます。

社員に対しても、フランチャイズ店や「のれん分け」先のスタッフに対しても、井上が講師となり、マニュアル資料とOJTでしっかり研修しています。3日間の研修で習得してもらえる育成プログラムです。もちろん向き不向きはありますが、スポーツトレーナーや病院スタッフの方々も、講習3日目には堂々とプログラムを進行していますよ。

月に1回、井上が新しいプログラムを作り、その様子を撮影して各所へ送ります。映像をもとに練習してもらい、毎月のプログラムを更新していきます。フランチャイズ店や「のれん分け」先には、定期的にデイサービスの様子をチェックし、プログラムの質を担保しています。

要介護度の維持・改善状況は?

――こちらのあざみ野店では、1日の人数は20~24程度と伺いましたが、要支援・要介護度の分布はいかがでしょうか?

現在、要支援認定者が37人、要介護認定者が50人です。要介護度1の方が30人と一番多く、要介護度が低い方が多い傾向です。要介護度4の方は2人となっています。男女比はほぼ5:5で、地域のデイサービスと比べてみると男性が多い傾向です。

――要支援・要介護度の改善についても教えてください。

要支援1・2の方は年齢を重ねるとともに、どうしても介護度が高まってしまう傾向にありますが、要介護度の維持・改善度については90%以上をキープしています。

頸椎麻痺で要介護度4だった方が1年目で要支援認定まで回復し、2年足らずで保険外となって、通常のフィットネス会員になったという例もあり、プログラムの効果を実感しています。

――介護保険外まで改善されて、フィットネス会員に移行するというのは理想的ですね。フィットネス会員とデイサービスの利用者様との交流はあるのですか?

あざみ野店ではなかなか実現していないのですが、青森山田高校の男子新体操部監督が代表を務めるワイズ・パーク 青森センター店では、青森山田高校のスポーツ選手とデイサービスの利用者様との交流があります。

同店がメディカルサポートを担当しているサッカー部が全国大会で優勝した年には、デイサービスの時間中も、試合の応援で盛り上がりました。サッカー部のメンバーが応援のお礼を伝えに、デイサービスの時間に訪れてくれるなど、時間帯は違っても同じ施設を使っている仲間、という関係が築けています。

スポーツ×エンタメ×デイサービス事業への思い

――今後の展望についてお聞かせください。

より効果的なサービスを提供できるように、地域の病院との連携を強くしていければと思っています。病院の整形外科、病院のリハビリ、地域のデイサービスとで相互に密なコミュニケーションをとっていくことができれば、要介護度の変化にも迅速に対応できるようになります。スポーツジムの兼ね合いで、病院のスポーツドクターとは連携がとれているものの、組織同士の連携はこれから深めていきたいと思っています。

スポーツジムの兼ね合いで、病院のスポーツ医学の医師とは連携がとれているものの、組織同士の連携はこれから深めていきたいと思っています。

今年で7年目となるデイサービス事業。命や生きがいに関わる仕事をしているのだと実感することが多々あります。車いすで来ていた方がどんどん回復され、無表情だった方が感情豊かになるなど、明らかな変化を感じることは大きな喜びです。

井上智恵のコンサートを定期的に開催していて、それを見に行くことを楽しみにしている利用者様が多くいらっしゃいます。身体の不調から観劇を諦めていた方が、昔のように舞台を見に行くためにリハビリを頑張る様子を見ていると、エンターテイメントの力を感じます。

スポーツの力とエンターテイメントの力で、体も心も元気にするプログラムを、これからも進化させていきたいと思います。

山本晃永

株式会社ワイズ・スポーツ&エンターテイメント 代表取締役社長

日本スポーツ協会公認 アスレティックトレーナー

全米アスレティックトレーナー協会公認 アスレティックトレーナー

順天堂大学院スポーツ科学研究科博士課程前期修了

サッカー日本代表やプロ野球チームの指導、多くのトップアスリートや俳優のパーソナルトレーナーとして活躍。スポーツ医科学をもとにオリジナルの運動メソッドを開発し、ジュニア世代の育成や、高齢者のデイサービスなど事業を展開している。東京スポーツ・レクリエーション専門学校の講師も務める。

取材協力:ワイズ・パーク あざみ野

子どもから高齢者まで、全世代を対象にした運動プログラムを提供するマイクロジム。パーソナルトレーニング、デイサービス、スポーツチームのサポートなど事業は多岐に渡る。元プロ野球選手の仁志敏久氏が運営サポートを務め、野球教室や指導者座談会など、野球アカデミー事業も展開している。

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監修者 カイゴジョブ編集部

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