子育て世代に選ばれる介護事業所とは?保育所効果で人手不足に挑む

子育て世代に選ばれる介護事業所とは?保育所効果で人手不足に挑む

介護職の離職理由として2番目に多いのが「結婚・出産・妊娠・育児のため」。働き続けられる環境さえあれば辞めたくない職員も、ライフステージの変化に合わせて離職するしかないという状況が続いています。

2015年にスタートした子ども・子育て支援新制度における地域型保育事業は、待機児童の9割を占める0~2歳児を受け入れる保育施設の充実を支援するものです。

このような制度を利用して子どもを預けられる環境を整えることで、介護職員の採用や定着には、どのような効果があるのでしょうか。東京都新宿区で、地域型保育事業のひとつ、事業所内保育所を運営する、特別養護老人ホーム もみの樹園の施設長・笛木敏彦さんにお話を伺いました。

0~2歳の園児たちがあたり前にいる風景

――お散歩にでかける子どもたちが手をふってくれて…すっかり癒されてしまいました。特別養護老人ホーム もみの樹園に、事業所内保育所を開設した経緯を教えていただけますか?

私たちは園盛会という社会福祉法人が母体で、1998年に多摩の里 むさしの園、2005年に多摩の里 けやき園を開設しています。もみの樹園は2015年6月に開設したので、ちょうど丸4年になります。

むさしの園とけやき園を運営する中で、勤務していた女性たちが、結婚や出産を理由に相次いで辞めてしまったのです。これはどうにかしなくてはいけないということで、新しく開設するもみの樹園には事業所内保育所を作って、職員の子育ての支援をしたいと考えました。

もみの樹園 施設長・笛木敏彦さん

――自社の先行する2施設で「結婚・出産・妊娠・育児による離職」という課題を実感されたということですね。なぜ地域保育事業としての保育所を開設したのですか?

当初は、職員が結婚や出産などを理由に離職しなくていいように、福利厚生のひとつとして計画に組み込みました。開設にあたって新宿区に、特養・ショートステイ・デイサービス・訪問看護ステーション・保育所の複合施設を作ると申請したところ、区の方から「新宿区の待機児童のために、保育所を地域に開放してほしい」という申し出があったのです。そこで定員を30人として、そのうち20人を地域に開放し、10人を職員枠としてスタートしました。そうすることで地域型保育事業として、地域型保育給付を受け取れるというのも大きなポイントでした。

4年間運営してきて、多いときで7~8人の職員が保育所を利用しています。いまは職員の利用が3人、職員以外の利用が19人で、計22人の子どもたちをお預かりしています。

――保育所を利用している職員の方の反応はどうでしょうか。

もちろん、とても良いですよ。まず送り迎えが楽というのは大きいようです。自転車で保育所まで送って子どもを預け、また自転車に乗って職場に向かうのではなく、一緒に出勤するという感じですからね。送り迎えにかかる時間がほとんどありません。

同じ施設内にいるので何かあればすぐ駆け付けることができますし、安心して働いてくれています。災害時のことを考えると、子どもが近くにいるのは安心できるという声も聞きます。また、勤務時間内で授乳時間を設けるシフトを作成するなど、働きやすさと育児の両立を応援しています。それ以外の時間にも、何かあれば保育士から保護者に直接連絡が入るようになっています。

――勤務中に授乳時間があるというのは、0~2歳児を預かる事業所内保育所ならではですね。他の職員の方は理解してくださっていますか?

施設内に保育所があるということをわかった上で入職しているので、保育所を利用していない職員から不満がでるようなことはありません。自分も利用する立場になるかもしれないという意識が浸透しています。

授乳時間を明示したシフト表を事前に全員で共有しているので、保育所を利用する職員が気兼ねすることもなく、特別扱いされる訳でもなく、自然に運用できています。とはいえ子どもは何があるかわかりませんから、どうしても泣き止まなかったり、お熱がでたりしたときには、フロアリーダーが業務を調整するなどして臨機応変に対応しています。

子育て世代の人材確保にどう影響する?

――事業所内保育所の開設から運営まで、とても順調に進まれている印象を受けました。ここからは「人材確保」をテーマにお話を伺えればと思いますが、事業所内保育所が採用につながっているという実感はありますか?

同法人で運営しているむさしの園やけやき園と比べてみると、20~30代女性の採用が明確に多くなっています。ライフプランとして出産・育児を意識している世代にとって、事業所内保育所がある職場というのは大きな魅力になっているのだと感じます。新宿からほど近いという立地の影響もありますが、もみの樹園は若い職員が多く、平均年齢は34歳です。

――「結婚・出産・妊娠・育児」を理由とした離職についてどうでしょう。

施設の開設から4年の間に、結婚・出産を理由に離職した職員は1人のみです。事業所内保育所を活用して職場に復帰してくれる職員がほとんど。施設のことをよく理解し、経験もある職員が戻ってきてくれるのは大変心強いことです。

――現在は保育所に通う園児のうち、19人が地域の子どもたちだと伺いました。日々施設内の保育所に通うことで、介護職に興味を持つ保護者の方もいらっしゃいますか?

保育所は施設の6階にあるので、保護者の方は毎朝施設の中を通ります。「老人ホーム」と聞くと世間一般的に、どうしてもマイナスなイメージを持つ方が多いですが、実際に施設内に入ってみると印象が変わったりするものです。過去には介護職に興味を持って、パートから始めてみたいと言ってくださる保護者の方もいらっしゃいました。

園児と入居者だけじゃない、“交流”から生まれる好循環

写真奥のガラス窓の先が保育所

――保育所があることで介護の現場にどのような影響があるか伺いたいのですが、見学させていただいて、保育所とリハビリ室が開放的につながっていることに驚きました。

園児たちが過ごす空間と、ご入居者がリハビリをする空間とをガラス窓で仕切ることで、お互いの様子を見ることができるつくりになっています。また、バルコニーは共通のスペースなので、必然的に交流が生まれています。

――交流が生まれることで、どのような効果がありますか?

核家族でおばあちゃん、おじいちゃんと同居していない園児が多いので、ご入居者と触れ合うことは、子どもたちにとっていい経験になっています。ご入居者は小さい子を見るとにっこりとしたり、リハビリ室から保育所の様子が見えることでリハビリのやる気がでるなどの好影響があります。0~2歳の子どもたちを見るとついつい笑顔になってしまいますよね。

保育所とリハビリ室をつなぐ共有バルコニー

――施設の1階にはテラスのあるオープンカフェもありますが、ご入居者と地域住民との交流も生まれそうですね。

駅前という立地もあり、地域のランドマークとしての役割を果たしたいという思いもありまして、地域交流は活発です。1階のカフェは、ご入居者とそのご家族だけでなく、地域の皆さんにもよくご利用いただいています。

1階にあるカフェ。ランチメニューもある

駅前の通りに面したスペースで餅つき大会をしたことがあるのですが、通りかかった地域の人がどんどん集まってきて、大変賑わいました。近くに日本語学校がありまして、そこの学生が餅つきをしてみたいと言うので飛び入り参加してもらうなど、異文化交流もあります。

他に、お祭りの神輿の休憩所に使ってもらったり、施設内の多目的ホールを町内会の会合に使ってもらったりと、垣根のない関係づくりを目指しています。イベントはもちろん自由参加ですが、ご入居者には積極的にお声かけして参加を促しています。

下落合というエリアは、新宿からすぐの立地でありながら、いい意味でローカル色が強いと思います。町内会がしっかり機能しているので、町内会のメンバーと連動することで、自然と交流が深まっています。

イベントの際に撮影された集合写真

――年齢や国籍も違う様々な人たちと交流があることは、ご入居者にもいい刺激になりそうですね。餅つき大会などのイベントは、職員の方が企画されるのですか?

イベントの開催はどうしても業務の負担になりますから、能動的に企画してもらうというのは、なかなか難しいですね。職員との日々の会話の中で企画をお願いしてみるなど、直接声をかけて促しています。毎年、新入社員には必ずお願いするようにしています。

イベントを仕切るプレッシャーや時間的な負担もあるので大変だと思いますが、いざ準備を始めてみると、楽しみながら取り組んでくれているようです。毎日の決まった業務だけではなかなか身につかない、人を楽しませるにはどうしたらいいか、という発想力が鍛えられています。施設内の人間関係だけでなく、地域の様々な人たちとの関わりが生まれるので、いい気分転換になっていると思います。

――地域交流が職員の皆さんの成長にもつながっているのですね。施設内ですれ違う職員の皆さんは笑顔が多く、はつらつと働いている印象です。

介護職は大変な仕事ではありますが、笑顔がない職場はつらいですよね。ご入居者にも笑顔で接しないと、笑顔になってくれる訳がありません。元気な挨拶と笑顔を大切にしています。

――笑顔で働ける職場を実現するために、気をつけていることなどはありますか?

一人ひとりに直接声をかけることを大切にしています。全職員が集まる集会もあるのですが、そこで施設の理念や行動指針を話しても、一人ひとりには届きにくいものです。あるいは紙に書き出して施設内に掲げても、それを見るだけで自分ごととして捉えることは難しいと思います。

一人ひとりの職員と日々話をするなかで、施設として目指す姿やどのように成長してほしいかなど、共通のマインドを持てるようにしています。地域交流イベントの企画依頼も、その一環です。「もうすぐ子どもの日だけど何かできないかな?」「こんなことをしてみたら面白そうだね」など、アイデアを気軽に話すなどしています。

すれ違う職員には毎日声をかけますし、職員からも気兼ねなく話かけてくれます。職員から提案があって、それがご入居者のためになることであれば、基本的にNGを出すことはありません。施設の内でも外でも、みんなが活気づくような交流が多く生まれる環境にしたいですね。

取材協力:特別養護老人ホーム もみの樹園

総居宅数150室、全室個室の特別養護老人ホーム、ショートステイ、訪問看護ステーション、運動機能向上型デイサービス、保育所を運営。オープンカフェを併設し、駅前の立地を活かした地域交流の場としても機能している。

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