特別養護老人ホームの介護職員として約10年の経験を持つTさん(36歳)は、結婚を機により良い待遇を求めて転職活動を行った結果、2回目の転職でなんと100万円の年収アップを実現しました。昇進などにより現在の年収は500万円前半。転職活動を成功させたポイントは何だったのでしょうか? Tさんに教えてもらいました。
同じ夜勤でも「通し夜勤」と「深夜勤」は大違い
――Tさんは大学卒業後に福祉の道へ?
そうです。大学時代に経験したサ高住でのアルバイトがきっかけで福祉の世界に入りました。
ヘルパーさんのお手伝いをしていると、利用者やご家族にたくさん「ありがとう」と言ってもらえて。「自分が必要とされている」「社会の役に立てている」という実感を強く持てたんです。人からこんなに感謝してもらえる仕事は、介護職ぐらいではないでしょうか。
――なぜ特別養護老人ホームの介護職員に?
移乗やトイレ介助などの基礎スキルをしっかり学びたいと思ったからです。デイサービスや訪問介護の場合は自立度の高い方も多いですが、特別養護老人ホームはそうではないので、総合的に学べる環境が整っていると思いました。
――新卒で入社した会社の決め手は?
何箇所か見学した中で、その施設が一番雰囲気がアットホームでした。50床ぐらいの小さな施設で、皆さん楽しそうに働いていましたね。
その施設では結局2年働き、その後転職して別の特別養護老人ホームに移りました。
――なぜ転職したのでしょう?
アットホームな雰囲気は良かったのですが、人手不足だったので十分に休めなかったんです。
通常、特別養護老人ホームの介護職の夜勤は毎月4~5回だと思いますが、自分は7~8回入っていました。しかも「通し夜勤」ではなく「深夜勤」を採用している職場だったので、体力的にかなりきつかったですね。
――「通し夜勤」と「深夜勤」は何が違うのですか?
まず、労働時間が違います。通し夜勤は16時間勤務で、深夜勤は8時間勤務です。
――となると、「深夜勤」の方が楽なのでは?
いや、実はそうでもないんです。
「通し夜勤」の場合は1回入れば2日働いたカウントになるので、夜勤明けの日とその次の日が必ず休みになります。ところが、「深夜勤」の場合は1日働いたカウントにしかならないので、夜勤明けの次の日が休みになるとは限りません。
つまり「深夜勤」の場合は、夜勤明けの日の夜に出勤するシフトが組まれる可能性があります。実際、自分はほとんど毎日職場に行っているような状態でした。
――プライベートの時間が少なかったのですね。
はい。せっかくの休日なのに睡眠を取るのが最優先になってしまい、遠出なんてとてもできませんでした。
しかも会議が長引いて帰れなかったり、貴重な休みに職場から呼び出されたりすることも多くて。仕事に対する熱意は素晴らしかったのですが、働き方に対する配慮はあまりされていない施設でした。
前職の経験を踏まえて「具体的に質問する」のが面接のポイント
――最初の転職活動はどのように進めたのですか?
転職サイトを中心に、紙媒体の求人情報にも目を通しました。
――どんなポイントを重視しましたか?
「しっかり休みが取れるかどうか」です。具体的に確認したのは、夜勤の種類と回数です。自分は丸一日の休みがほしかったので、「深夜勤」ではなく「通し夜勤」を採用している施設を探しました。
――夜勤の種類はどうチェックしましたか?
求人票の勤務時間を見ました。
深夜勤を採用している施設の場合、「8時間の夜勤なので精神的にも身体的にも楽です」と記載している場合がありますが、先ほどお話したようにその働き方を楽と感じるかどうかは人それぞれです。
求人票上の言葉に惑わされるのではなく、ちゃんと勤務時間を見て、自分にはどういう生活スタイルが合っているのかを考えて選択した方が良いですね。
――他にチェックしたポイントは?
施設の規模を見て、できるだけ大規模な施設を選ぶようにしました。その方が経営難に陥っていたり、人手不足に悩んでいるケースが少ないのではないかと思ったからです。
――面接では何を意識しましたか?
労働環境に関しては求人票に書かれていない要素があるかもしれないので、「休日に呼び出されることはありますか」「会議が長引いて帰れないことはありませんか」など、自分の経験を踏まえて具体的に質問しました。
その結果、休みの取りやすさに関してはかなり納得できる職場に転職できました。前職で苦労した経験が役立ちましたね。
この職場では約2年働き、その後、今の職場に転職しました。
施設の「母体事業」が黒字なら、介護職への還元があるかも
――2つ目の職場から転職したのはなぜですか?
結婚して子どもができたと同時に、収入面での不安が出てきたからです。
実は1回目の転職では、給料はほとんど変わりませんでした。年収は350万円だったのが350~400万円になった程度。扶養手当はありませんでした。
もっと良い給料がもらえる職場があるはずだと思い、転職サイトで粘り強く求人を探した結果、転職後の年収を100万円も上げることができたんです。
――100万円も⁉ 求人はどのように探したのですか?
施設の母体となる事業に注目して探し、面接ではその事業の経営状況(赤字か黒字か)を確認しました。
一般的に、大規模な施設は保育園や幼稚園、病院など他の事業も営んでいる場合が多いです。私は救護施設が母体の施設に転職しました。
――救護施設とは?
生活保護者など日常生活を送るのが困難な人を一時的に預かり、社会復帰を支援する施設です。私が転職した施設では救護施設の事業は毎年黒字のため、その収益を介護事業に分配できているそうです。
介護事業は赤字になりやすい事業ですが、母体となる事業が黒字ならばその収益が介護職の給料に反映される場合があります。母体となる事業のチェックは非常に大事だなと思いました。
――母体となる事業はどうチェックしましたか?
施設のホームページを見て、会社概要欄や法人の歴史を紹介しているページをチェックしました。
――他に求人の選定で意識したことは?
毎月のように求人を出している職場は避けました。いかにも人手不足な気がしたので……。
オープニングではないのに、介護職だけでなくケアマネや管理者、施設長といったあらゆる職種を一遍に募集している職場も避けました。もしかしたら大きなトラブルが発生していたり、人間関係が悪かったりする可能性があると思ったからです。
あくまでも自分の考えですが、なかなか求人を出さない職場の方が待遇面では優れている可能性が高いと思い、急がず粘り強く行動しました。
――求人の頻度はどうやって調べたのですか?
転職サイトには3か月間ぐらい登録していて、気になる求人を定期的にチェックしていました。
求人の頻度や内容から施設の状況を見極めるためには、ある程度時間をかけて長期的に転職活動に取り組む必要があると思います。
「介護職は給料が低い」は思い込み。長期的に求人を探してみて
――今までにサービス種類を変えようと思ったことは?
ないですね。80年、90年という長い時間を生きてきた方の最後の人生に関われるのは、すごくいい仕事だなと思っていて。単純に特別養護老人ホームが好きなんです。介護の仕事は辞めたくないですね。
――今後については?
現場の仕事を10年間やってきたので、今後はケアマネや相談員にも挑戦してみたいです。現場経験を活かしつつ相談援助の経験も積んで、介護を極めたいと思います。
――最後に読者へメッセージをお願いします。
「介護職はどこに行っても給料が低い」と思って年収アップを諦めてしまっている方もいると思いますが、それはもったいないと感じます。
自分は現在の職場に転職して5年が経ち、今では年収500万円前半になりました。介護職でも一般企業並みの給料がもらえる職場は、少ないですが存在します。
良い条件の職場に出合うためには運も必要ですが、まずは探してみることが大切。腰を据えてじっくりと転職活動に取り組んでほしいなと思います。
インタビューを終えて
年収の大幅アップには何か特別な裏技があったのかと思いきや、転職サイトで粘り強く求人を探すというとてもシンプルな方法でした。しかし着実で確実な方法です。誰でもできるはずなのに、実際に時間をかけて取り組む人は少ないのかもしれません。まずは転職サイトに登録して、諦めずに求人をチェックしてみることが、転職で給料を上げる一番の近道だと実感させてくれるお話でした。監修者 カイゴジョブ編集部
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