#4 「対話」からはじまる認知症ケア【前編】

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#4 「対話」からはじまる認知症ケア【前編】

こんにちは。NPO法人「未来をつくるkaigoカフェ」代表の高瀬比左子です。

認知症ケアに関わるなかで私が大切にしているのは「対話」を通じてその人らしさに寄り添うこと

知識やマニュアルだけでは届かない、その人の人生や価値観に向き合う姿勢が、ケアの出発点になると感じています。

本記事【前編】では、そうした“ケアの原点”について、私自身の経験や現場での対話を交えながらお話しします。【後編】では、現場で多く寄せられる悩みや声かけの工夫、そして“自分自身のケア”についてもご紹介します。

#5 「対話」からはじまる認知症ケア【後編】はこちらから

「認知症」とは何かを、もう一度捉えなおす

認知症とは、病気の名前ではなく、脳の疾患などによって記憶・判断力・言語などの認知機能が低下し、日常生活に支障をきたす状態の総称です。

原因となる疾患の代表格は「アルツハイマー型認知症」や「脳血管性認知症」など。進行のスピードや症状の出方も個人差が大きく、一括りにできない複雑さがあります。

白黒写真のアルバムを見る高齢女性の手

でも、私はこう思います。

「認知症」は、”その人らしさ”が失われるものではなく、”その人らしさ”と私たちの関わり方が変化するということ。つまり、ケアする側の「視線」や「姿勢」が問われる場面でもあるのです。

かかわり方を見直す3つの視点

認知症ケアには、特別な魔法があるわけではありません。けれど、毎日の中で少しの見方や言葉を変えるだけで、大きく関係が変わることもあります。ここでは、現場でよく話題になるポイントを3つご紹介します。

1. 否定しない。“共感”からはじまる声かけ

「もう何回も同じこと言ってるよ」
「それは違うって言ってるでしょう」

そんな風につい口をついて出そうになる言葉。でも、これらは相手を不安がらせたり自尊心を損なうことにつながります。

大切なのは「今、その人にとって何がリアルか」を理解しようとする姿勢

「そうなんですね」「教えてくれてありがとうございます」と受け止め、否定ではなく共感から入る声かけが、その人の世界を守ります。

2. 感情に飲み込まれないためにできること

認知症の方の中には、怒りや混乱、不安といった感情を激しく表現される方もいます。そのとき、私たちが同じように動揺したり、感情的になってしまうと、関係が崩れてしまいます。

「この感情は、何から生まれているのだろう」

冷静に見つめる視点を持つこと。たとえ表現が荒くても、その背景にある不安や困りごとに気づければ、適切な関わりが見えてきます。

3. 「できること」を見つける視点が、自己効力感を支える

「もう何もできなくなってしまった」―そんなふうにご家族や現場の職員が感じてしまうこともあります。

でも、「できること」は必ずあります。たとえ小さなことでも「〇〇さん、今できましたね!」と伝えることで、自信や生きがいを支えるケアになります。

車いすに座る高齢女性の手を握る介護士の女性

専門性とは「心の動き」に気づけること

「優しく接する」「怒らないようにする」―たしかに大事なことですが、それだけでは専門職とは言えません。

認知症ケアの専門性とは「その人の人生に寄り添いながら、科学的・実践的な知見をもとに支えること」です。

たとえば、BPSD(行動・心理症状)への対応。原因をアセスメントし、環境調整や関わり方を見直すことで、症状が和らぐケースも多くあります。現場での気づきや工夫こそが、まさに“専門性”の積み重ねなのです。

「わかっていても難しい」現場の声から考える

「怒らないようにしたいけど、つい感情的になってしまう」
「わかってはいるけど、忙しくて丁寧に関われない」

そんな声を、介護職の皆さんからよく聞きます。

でも、それは“ちゃんと向き合おうとしている証拠”です。感情が動くということは、そこに“人と人との関係”があるということ。完璧じゃなくても、まず「自分の感情を見つめる力」も専門性のひとつなのです。

私が「ケアの軸」に出会った日

忘れられない出来事があります。

グループホームで働き始めて数年が経った頃、ある女性の入居者との関わりが、私にとって認知症ケアの本質を見つめ直すきっかけになりました。

その方は、毎朝決まって台所に立ち「今日のお味噌汁は私が作るから」とおっしゃるのです。最初のうちは「危ないので職員がやりますね」とやんわり制止していました。でも、そのたびにその方の表情が曇っていくのを見て、ふと立ち止まりました。もしかしたら「味噌汁を作る」という行為そのものに、特別な意味があるのではないかと感じたのです。

ご家族にお話をうかがうと「母はずっと専業主婦で、朝ごはんを作るのが日課だった」と教えてくださいました。それを聞いて、私は「この人の人生に寄り添うケアとは何か」を深く考えるようになりました。

次の日から、味噌汁づくりを“役割”としてお願いしてみました。具材の下ごしらえを一緒にして、仕上げは職員がサポート。それだけで、その方は表情が明るくなり、他の入居者との会話も増えていったのです。

味噌汁料理

認知症のケアというと、「できないことを補う支援」が中心になりがちですが、“その人が大切にしてきた役割をどう守るか”という視点が、とても大切です。

この体験は、今でも私のケアの軸になっています。

「忘れてしまったこと」ではなく、「大切にしてきた価値観」に目を向けること。

ケアとは、目に見える支援だけでなく、対話を通して“その人らしさ”に触れていくことだと、あらためて感じています。

高瀬 比左子(たかせ ひさこ)

執筆者:高瀬 比左子(たかせ ひさこ)

特定非営利活動法人未来をつくるkaigoカフェ主宰。介護福祉士・社会福祉士・ケアマネジャー。2000年に介護職を始め、2012年にkaigoカフェを設立。全国で語り合いの場を展開し、講演・執筆などを通じ介護の魅力を発信中。

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