#5 「対話」からはじまる認知症ケア【後編】

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#5 「対話」からはじまる認知症ケア【後編】

こんにちは。NPO法人「未来をつくるkaigoカフェ」代表の高瀬比左子です。

介護職として認知症ケアに関わるとき、避けて通れないのが"人との関係の難しさ"です。

ケアの現場では、正解が見つからないことの連続。それでも私たちは向き合い、悩み、立ち止まりながらも、支え続けていきます。

前回に引き続き、今回のテーマも「認知症ケア」。特に難しいとされる「声かけの影響」「家族との関係性」「看取りの場面」、そして「介護職自身の感情」について考えていきましょう。

#4 「対話」からはじまる認知症ケア【前編】はこちらから

その声かけ、もしかしたら症状を深めていませんか?

「だから言ったでしょ」
「何回も同じこと言わないで」
こうした言葉は、現場で"つい"出てしまいやすいものです。

でも認知症の方にとっては、「できない」「忘れてしまった」と感じるたびに、不安と混乱が積み重なっていきます。

私が出会ったあるご利用者が、何も話さなくなってしまったことがありました。振り返ると、その方は「それは違うでしょ」「また同じこと言ってる」と繰り返し否定されていたのです。

「どうせ否定されるなら、もう話さない」―そう感じたのかもしれません。

声かけはケアの"入口"。たった一言が安心にも不信にもつながります。だからこそ、ときどき自分の声を見直すことが大切です。

介護職と利用者の女性

感情をぶつけそうになるとき、どうすればいい?

感情のコントロールは、介護職にとって永遠のテーマです。

「わかっていても、怒ってしまう」そうした悩みは、私のもとにも数多く寄せられます。

でも人間ですから、感情が動くのは自然なこと。大切なのは、その感情に気づき、飲み込まれすぎないことです。

たとえば「何度も同じことを聞かれてイライラした」とき、「私は疲れているのかもしれない」「この人は不安だから繰り返しているのかも」と内省できれば、ケアの質は変わります。

私は感情が揺れたとき、「深呼吸して一歩引く」ことを意識しています。言葉よりも"間"が、気持ちを和らげてくれることもあるのです。

家族とケアチームになるために

家族は、利用者さんをもっとも近くで支える存在であり、同時にもっとも心が揺れる存在でもあります。

「母が変わってしまったようで悲しい」
「自分が責められているように感じる」
そんな葛藤を抱えているご家族に、私たち介護職がどう寄り添えるか。

あるご家族は「毎日怒ってしまって自己嫌悪なんです」と涙ながらに話してくださいました。

利用者の家族の男性

私は「それでも毎日向き合っていること自体がすごいですよ」とお伝えしました。すると「初めてそう言ってもらえました」と笑顔に。

家族を責めず、気持ちを受け止める。"教える"のではなく、"共に悩む"。その姿勢が信頼関係を築く第一歩になります。

看取りの場面で大切にしたいこと

認知症が進行し、言葉や反応が少なくなっていくと、「この人は何を望んでいるのだろう」と不安になることがあります。

でも、言葉が少なくても、"その人らしさ"は消えていません。

大切なのは、今までのその人の人生を知ること。ご家族や記録から「好きだったもの」「大事にしていた習慣」を知り、それを日々のケアに織り込んでいくこと。

ある高齢者施設では、「最期まで○○さんの好きだった音楽を流していた」ことで、ご家族から「穏やかに旅立てたと思う」と感謝の言葉をもらったそうです。

看取りは、人生の最終章。

医療や延命の選択だけでなく、「どう生きたいか」「どこで、誰と、どんな時間を過ごしたいか」に寄り添える視点を持ちたいと思います。

コラム

おわりに~問い続ける専門性を、あなたと共に~

認知症ケアにおいて、一番大切なことは何でしょうか? 知識? 技術? それとも経験?

私が思うのは、「問い続ける力」だと思います。

「この人にとって、いま一番安心できる言葉はなんだろう?」
「どうしたら、この方らしい時間を取り戻せるだろう?」
そんな問いを持ち続けることこそ、ケアの専門性であり本質です。

もし今あなたが悩んでいるなら、それは"良いケアをしたい"という気持ちがある証拠。その気持ちがある限り、あなたのケアは必ず誰かの支えになっています。

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高瀬 比左子(たかせ ひさこ)

執筆者:高瀬 比左子(たかせ ひさこ)

特定非営利活動法人未来をつくるkaigoカフェ主宰。介護福祉士・社会福祉士・ケアマネジャー。2000年に介護職を始め、2012年にkaigoカフェを設立。全国で語り合いの場を展開し、講演・執筆などを通じ介護の魅力を発信中。

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