物価の上昇が続く中で、「自分の給与は最低賃金を下回っていないか」「介護職の賃上げはいつ給与に反映されるのか」と気になっている方もいるでしょう。2025年度の地域別最低賃金の改定内容は、2026年の給与水準にも関わる重要なポイントです。
この記事では、2026年6月時点で公表されている情報をもとに、2025年度の地域別最低賃金の改定内容から、自分の給与明細のチェック方法までわかりやすく解説します。さらに、介護職員等処遇改善加算(以下、処遇改善加算)や事業所ごとの昇給制度など、介護業界ならではの賃上げの仕組みについてもお伝えします。
介護職に関係する最低賃金の最新動向
介護職にも、他の職種と同じく最低賃金法に基づく最低賃金が適用されます。まずは、2025年度の地域別最低賃金の改定内容と、今後注目される制度の考え方を整理しましょう。
2025年度の地域別最低賃金は全国加重平均1,121円に引き上げ
2025年度の地域別最低賃金は、全国加重平均で1,121円となり、前年度の1,055円から66円引き上げられました。発効日は都道府県によって異なり、2025年10月1日以降、全国で順次適用され、次回の改定が行われるまで、各都道府県の地域別最低賃金が適用されます。
地域別最低賃金は、都道府県ごとに定められる最低限の時給額です。介護介護事業所で働く介護職の賃金も、原則として勤務先の所在地に応じた地域別最低賃金以上の額となるよう定められています。
自分の給与明細を見る際は、手取りや総支給額ではなく「最低賃金の計算対象となる賃金」を確認することが大切です。具体的な計算ルールは後述します。
※出典:厚生労働省「令和7年度 地域別最低賃金 全国一覧(p1)」
政府は2020年代に全国平均の最低賃金1,500円を目指す方針
政府は、2020年代に全国平均の最低賃金1,500円を目指す方針を掲げています。今後も地域別最低賃金は段階的に引き上げられる可能性があり、介護職の賃金にも影響すると考えられます。
一方で、介護事業所の収入は介護報酬に左右されます。特別養護老人ホーム、訪問介護、通所介護など、施設形態やサービス種別によって介護報酬の基本単位数や処遇改善加算の算定率が異なるため、最低賃金の上昇が各事業所で一律の大幅な賃上げにつながるとは限りません。
最低賃金を下回らないことは法律上の義務ですが、すでに上回る賃金で働いている場合の昇給幅は、各事業所の給与制度によって変わります。
※出典:内閣官房「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版(p3)」
給与明細のチェック方法と最低賃金の計算ルール
最低賃金を確認する際は、まず計算対象となる賃金を整理し、それを1か月の所定労働時間で割って1時間あたりの賃金を算出します。そのうえで、勤務先の都道府県で定められている地域別最低賃金と比較します。
自分の給与が最低賃金を下回っていないかを確認するには、給与明細の見方を理解しておく必要があります。ここでは、雇用形態ごとの計算方法を整理します。
最低賃金の計算対象となる賃金と除外される手当
最低賃金と比較する際は、給与明細の総支給額ではなく、最低賃金の計算対象となる賃金をもとに確認します。総支給額には、最低賃金の計算からは除外される変動手当(夜勤手当、時間外手当など)が含まれているため、そのまま計算に当てはめると間違えてしまうためです。
これを踏まえたうえで、給与明細のどの項目が計算に含まれ、どの項目が除外されるのか、具体的な内訳を確認しましょう。
| 最低賃金の計算 | 主な項目 | 確認ポイント |
|---|---|---|
| 含まれる (計算対象となる賃金) |
基本給、毎月固定で支払われる手当(職務手当、資格手当、役職手当など) | 通常の労働に対して、毎月固定で支払われる賃金かを確認する |
| 除外される (対象外の手当・割増賃金) |
通勤手当、家族手当、精皆勤手当、時間外手当、休日手当、深夜割増賃金(夜勤手当など)、賞与など | 総支給額に含まれていても、計算からは除外する |
給与明細の総支給額だけを見ると最低賃金を上回っているように見えても、通勤手当や時間外手当、夜勤による深夜割増賃金を除くと、最低賃金を下回るケースも考えられます。疑問がある場合は、給与規程や雇用契約書も併せて確認しましょう。
※出典:厚生労働省「最低賃金額以上かどうかを確認する方法」
月給制(正社員)の介護職の最低賃金の確認方法
月給制の場合は、最低賃金の計算対象となる賃金を、1か月の平均所定労働時間で割って1時間あたりの賃金を出します。
以下の条件で働く場合:
- 基本給:160,000円
- 毎月固定の手当(資格手当など):10,000円
- 1か月の平均所定労働時間:160時間
(160,000円 + 10,000円)÷ 160時間 = 時給換算1,062.5円
ここで気になるのが、介護業界特有の「処遇改善加算」の扱いです。処遇改善加算による賃金改善分は、毎月決まって支払われる基本給や固定手当として支給されている場合、最低賃金の計算対象となる賃金に含まれます。
一方で、臨時に支払われる一時金や賞与として支給される場合は除外されます。「処遇改善加算だから一律で除外される」とは言い切れないため、自分の給与ではどのような支給方法になっているかを確認することが大切です。
※出典:厚生労働省「介護職員等処遇改善加算に関するQ&A(p7)」
時給制(パート・アルバイト)の計算・確認方法
パート・アルバイトや契約社員など、時給で働いている場合は、現在の自分の時給が勤務先の都道府県の「地域別最低賃金」を下回っていないかを直接確認します。
たとえば、給与明細上の時給が地域別最低賃金を上回っているように見えても、それが通勤手当や早朝・夜間の割増分を含んだ金額である場合は注意が必要です。手当などを除外した純粋な「基本時給」で比較した結果、最低賃金を下回っていたというケースもあるため注意が必要です。
最低賃金を下回っている可能性がある場合の対処法
自分で計算してみて最低賃金を下回っている可能性がある場合は、まず職場の事務担当者や施設長などの管理者に確認しましょう。給与明細の項目名だけでは判断しにくいこともあるため、どの手当が最低賃金の計算対象となる賃金に含まれるのかを確認する必要があります。
職場に確認しても解決しない場合や、説明に納得できない場合は、労働基準監督署や都道府県労働局の相談窓口に相談できます。最低賃金は法律で定められた基準のため、原則として事業所の経営状況にかかわらず守る必要があります。
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介護業界ならではの「賃上げの仕組み」と給与の変化
介護職の給与が上がるタイミングや上がり幅は、他の業界とは少し異なる特徴を持っています。ここでは、介護業界特有の「賃上げの仕組み」と、実際に給与が「どのように変わるか」を雇用形態ごとに解説します。
介護職特有の「賃上げの仕組み」は2つの軸で決まる
一般的な企業では、企業の業績アップが主な賃上げの原資となりますが、介護施設の収入は国が定める「介護報酬」に左右されます。そのため、介護職の賃上げは主に「最低賃金による底上げ」と「処遇改善加算による還元」の2つの軸が組み合わさって行われます。
- 地域別最低賃金の引き上げ:法律に基づく給与の「底上げ」です。現在の給与が最低賃金付近にあるパート・アルバイトや、月給制の正社員の給与が見直されるきっかけになります。
- 処遇改善加算の算定・拡充:介護職員の待遇を良くするために国から支給される加算金です。これが事業所を通じて、基本給のベースアップや毎月の処遇改善手当、ボーナスなどの形で還元されます。
この「最低賃金による底上げ」と「処遇改善加算による還元」の両輪が機能することで給与に反映されるのが、介護業界ならではの仕組みです。
賃上げで給与はどう変わる?時給100円アップのシミュレーション
賃上げの仕組みを踏まえたうえで、実際に時給(または時給換算額)が上がった場合、収入にどの程度の差が出るのでしょうか。時給が100円上がった場合のシミュレーションを見てみましょう。月160時間働く方では、月収が16,000円増える計算になります。
| 項目 | 改定前の例 | 時給100円アップ後 |
|---|---|---|
| 時給 | 1,100円 | 1,200円 |
| 月160時間勤務の場合 | 176,000円 | 192,000円 |
| 月収差 | - | +16,000円 |
| 年収差 | - | +192,000円 |
※上記は、時給が100円上がった場合の単純計算です。実際の給与は、勤務時間、夜勤回数、手当、社会保険料、税金などによって変わります。
パート・アルバイトは時給の直接的な見直しが起きやすい
パート・アルバイトは、時給で賃金が決まることが多いため、地域別最低賃金の改定による影響を直接受けやすい働き方です。現在の時給が地域別最低賃金に近い場合は、改定後の最低賃金を下回らないように時給が見直されます。
ただし、時給がすでに新しい最低賃金を上回っている場合、対象となるパート・アルバイトの時給が一律に引き上げられるとは限りません。事業所の給与制度や処遇改善加算の配分方針によって、昇給の有無や金額は変わります。
正社員は基本給の底上げや手当の増額として反映される
正社員の場合、時給換算額が最低賃金を下回るのを防ぐため、「基本給のベースアップ」や「毎月固定の処遇改善手当の増額」といった形で給与が変わる傾向にあります。
基本給が上がった場合は、時間外手当や賞与の計算基礎額も上がるため、長期的な年収アップにつながりやすくなります。一方で、手当として支給額が増えた場合は、賞与や退職金の計算には反映されないケースもあります。賃上げがあった際は、「基本給が上がったのか」「手当が増えたのか」まで確認することが大切です。
収入アップを目指すときに確認したい介護事業所のポイント
賃上げの有無だけでなく、基本給や手当への反映方法を確認することは、職場選びでも大切です。安定して収入アップを目指したい場合は、賃金改善の取り組みがわかる事業所かどうかを確認しましょう。
基本給と手当のバランスを確認する
求人票を見る際は、月収例だけで判断せず、基本給と手当の内訳を確認しましょう。夜勤手当や時間外手当を含めた月収例は高く見えても、基本給が低い場合、賞与や退職金の計算で不利になることがあります。
安定した収入を重視する場合は、基本給の水準、昇給制度、賞与の有無、資格手当、処遇改善手当の支給方法を総合的に確認することが大切です。特に、最低賃金の引き上げが続く中では、給与制度を定期的に見直している事業所のほうが、長期的な収入の安定につながりやすいといえます。
資格取得や役割に応じた昇給制度を確認する
介護職が収入を上げるには、資格取得や役割の変化がカギになります。介護職員初任者研修や介護福祉士実務者研修、介護福祉士などの資格に応じた手当の有無を確認することが大切です。
また、ユニットリーダーや主任、サービス提供責任者といった役割に応じた手当が設定されている事業所もあります。特に処遇改善加算を算定している事業所では、経験や技能のある介護職員に対して給与を高く配分(傾斜配分)することがあるため、長く働くことでどのように収入が上がっていくかを見据えておくことがポイントです。
処遇改善加算の算定状況や配分方針を確認する
介護職の賃金改善に取り組む事業所では、処遇改善加算の算定状況や、介護職への配分方針を説明していることがあります。求人票や採用ページで「処遇改善加算」「加算の配分方針」「昇給制度」などの記載を確認しましょう。
面接では、「処遇改善加算はどのような形で給与に反映されていますか」と確認するのも1つの方法です。基本給に反映されるのか、毎月の手当なのか、一時金なのかを確認すると、長期的な収入の見通しを立てやすくなります。
介護職の最低賃金に関するよくある質問(FAQ)
最後に、介護職の最低賃金や賃上げに関するよくある質問を整理します。
Q.介護福祉士の資格手当は最低賃金の計算に含まれますか?
A.資格手当が毎月決まって支払われる通常の賃金であれば、最低賃金の計算対象となる賃金に含まれるのが一般的です。ただし、臨時的に支払われる手当や賞与として扱われる場合は、最低賃金の計算対象となる賃金に含まれないことがあります。給与規程や給与明細で、どのような性質の手当なのかを確認しましょう。
Q.夜勤手当は最低賃金の計算に含まれますか?
A.深夜労働に対する割増賃金は、最低賃金の計算対象となる賃金には含まれません。夜勤手当の中に通常の労働に対する手当と深夜割増分が混在している場合は、内訳を確認する必要があります。夜勤込みの総支給額ではなく、最低賃金の計算対象となる賃金で判断しましょう。
※出典:e-Gov法令検索「最低賃金法施行規則」
Q.経営が苦しい事業所でも最低賃金は守る必要がありますか?
A.はい。最低賃金は法律で定められた基準のため、原則として事業所の経営状況にかかわらず守る必要があります。事業所が介護職を地域別最低賃金より低い額で働かせることはできません。
Q.2026年に給与が上がらない場合は転職すべきですか?
A.2026年に給与がすぐ上がらないからといって、勤務先の制度対応が直ちに不十分とは限りません。すでに現在の給与が最低賃金を上回っているケースや、処遇改善加算による賃上げ分が後から賞与や一時金として支給されることもあります。
まずは、勤務先の処遇改善加算の算定状況、賃上げ計画、昇給制度、基本給への反映方針を確認しましょう。説明が不十分だったり、長期的な昇給の見通しが立てにくかったりする場合は、より条件が明確な職場を比較するのも1つの方法です。
この記事では、2025年度の地域別最低賃金の改定内容、自分の給与明細のチェックルール、そして介護職ならではの賃上げの仕組みを解説しました。介護職の給与は、最低賃金だけでなく、基本給、資格手当、夜勤手当、処遇改善加算、事業所の昇給制度によって変わります。
まずは給与明細をもとに、最低賃金の計算対象となる賃金が地域別最低賃金を下回っていないかを確認しましょう。そのうえで、処遇改善加算の支給方法や昇給制度を確認し、納得して働き続けられる職場かどうかを考えることが大切です。
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執筆者:ウェルミーマガジン編集部
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