介護現場で利用者さんから「耳かきをしてほしい」と頼まれたら、対応に迷う方もいるでしょう。利用者さんのためを思って行ったケアが「医療行為」に該当し、不適切な処置とみなされる可能性もあります。この記事では、耳かきが医療行為に該当しない条件や、爪切りなど他の日常的ケアとの境界線、現場での判断基準、安全に行うための確認事項と注意点について詳しく解説します。
介護職員ができる「耳かき」の範囲とは?
日常的な耳かきは医療行為には当たらないため、介護職員でも行うことができます。ただし、どんな状態でも実施してよいわけではなく、安全に行うための条件が定められています。ここでは、介護職員が対応できる範囲と、医療機関に任せる必要があるケースを整理しました。
原則として「耳垢を取り除くこと」は介護職員ができる範囲
厚生労働省のガイドラインでは、耳垢を取り除くことは、耳垢塞栓(じこうそくせん)の除去を除き、原則として医行為ではない行為として整理されています。清潔保持を目的として外耳道(耳の穴)に異常がない状態で耳垢を取り除く範囲であれば、医療資格をもたない介護職員でも実施できます。
※出典:厚生労働省「令和6年度老人保健健康増進等事業 原則として医行為ではない行為に関するガイドライン(p98)」
介護職員だけで対応せず看護職員へ相談が必要な条件
以下の条件に該当する場合は、介護職員だけで耳かきを実施せず、まずは看護職員へ相談する必要があります。
- 耳の中に湿疹、傷、炎症、または耳だれなどの異常がある場合
- 耳垢が固まって耳の穴を完全に塞いでいる「耳垢塞栓」の状態である場合
- 利用者さんが落ち着かず頭部を急に動かすおそれがあるなど、安全に実施できない場合
これらは介護職員だけで判断せず、まずは看護職員へ相談し、必要に応じて医師の診察につなげる必要がある状態です。
※出典:厚生労働省「令和6年度老人保健健康増進等事業 原則として医行為ではない行為に関するガイドライン(p98)」
判断に迷ったときは「病変・専門性・安全性」で確認する
厚生労働省の通知では、耳かきのほか、爪切りや血圧測定なども、一定の条件を満たせば医師法などには抵触しないとされています。ただし、実際の現場では、利用者さんの状態によって判断が分かれることもあります。
介護職員が判断に迷う場合は、「病変がないか」「専門的な判断や技術を必要としないか」「利用者さんが安全に受けられる状態か」を確認し、少しでも不安があれば看護職員へ相談することが大切です。
耳かきと似た日常的ケアにおける医療行為との境界線
ここでは、耳かきと同様に判断が分かれやすい爪切りや口腔ケア、血圧測定などについて、医療行為に該当するかどうかを整理します。行為ごとに介護職員が実施できる条件を確認し、迷った場合に速やかに看護職員へ相談できるようにしておきましょう。
【一覧表】日常的ケアにおける対応範囲のまとめ
主な日常的ケアについて、介護職員が実施できる条件と、介護職員だけで対応せず看護職員へ相談する必要があるケースをまとめました。
| 項目 | 介護職員が実施できる条件 | 単独で対応せず看護職員へ相談する必要があるケース |
|---|---|---|
| 耳かき | 外耳道に異常がなく、耳垢を取り除くのみの場合 | 耳垢塞栓がある、または外耳炎などの炎症がある |
| 爪切り | 爪や周囲の皮膚に異常(炎症・化膿など)がない場合 | 重度の巻き爪、爪周囲炎、糖尿病などによる専門管理が必要な場合 |
| 血圧測定 | 状態が安定している利用者さんに対し、自動血圧測定器を用いて測定する場合 | 水銀血圧計など、専門的な聴診技術を必要とする場合 |
| 口腔ケア | 日常的な歯磨き、粘膜の清掃 | 重度の歯周病などがある場合や、治療を目的とした処置が必要な場合 |
※出典:厚生労働省「令和6年度老人保健健康増進等事業 原則として医行為ではない行為に関するガイドライン(p26、89、95、98)」
共通する判断基準は「異常の有無」と「専門的判断の必要性」
爪切りにおいても、耳かきと同じ「病変の有無」が判断基準です。通常の爪切りは生活援助の一部ですが、糖尿病などの疾患がある方の場合、わずかな傷が感染症を招くおそれがあります。専門的な管理を要する場合は、看護職員や医師に相談しましょう。
血圧測定についても、利用者さんの状態が安定していることを前提として、自動血圧測定器を用いた測定であれば介護職員でも行えるとされています。一方で、水銀血圧計など専門的な聴診技術を要する方法は、看護職員などが対応する範囲と考えましょう。口腔ケアも同様に、日常的な清掃は介護職員の範囲ですが、疾患部位の治療を目的とした処置は医療行為にあたります。
介護職員・ヘルパーの求人情報はこちら介護現場で耳かきを安全に行うための確認事項と注意点
ここでは、法的基準を満たしたうえで、実際に耳かきを行う際の確認事項と注意点について解説します。高齢者の特性を理解し、事故を未然に防ぐための環境設定や器具の選び方を押さえておきましょう。
実施前に耳の状態と利用者さんの様子を確認する
介助を始める前に、耳の中を見て「赤み」「腫れ」「耳だれ」がないかを確認しましょう。また、利用者さんが耳を触っていないか、かゆみや痛みを訴えていないかもチェックします。少しでも普段と違う様子が見られたり、耳垢がかたく、簡単に取り除けなかったりする場合は介助を中止し、看護職員へ速やかに相談しましょう。耳かき前の確認は、事故防止の第一歩です。
安全な器具を選び、耳の奥まで入れない
介護現場では、事業所のルールに沿って、耳かきや綿棒など清潔な器具を使用します。高齢者は皮膚が薄く傷つきやすいため、かたい器具を強く当てたり、耳の奥まで入れたりしないことが大切です。
姿勢と照明を整え、無理に取ろうとしない
安全な介助には、利用者さんと介助者双方の安定した姿勢が不可欠です。利用者さんに頭を動かさないよう声をかけ、頭部が安定した状態で行いましょう。耳かきや綿棒は耳の入り口から1cm程度までにとどめ、奥へ押し込まないことが大切です。
耳の中がよく見えるよう十分な明るさを確保し、影を作らない角度で介助を行います。また、介助者の手元が不安定になると、利用者さんを傷つけるおそれがあります。無理な体勢をとらず、安全なケアを提供しましょう。
「耳かきをしてほしい」と頼まれたときの断り方と看護職員・医療機関との連携
ここでは、介護職員だけで対応するのが難しい耳かきを依頼された際の、利用者さんやご家族への対応方法と多職種連携について解説します。信頼関係を維持しながら、安全のために「介護職員ではできないこと」を丁寧に伝える姿勢が大切です。
利用者さんやご家族に納得してもらうための説明フレーズ
耳かきを断る際は「利用者さんの安全と健康を守るため」という視点で説明しましょう。たとえば、「耳の中が少し赤くなっているため、今触ると炎症を悪化させるおそれがあります。念のため、今日は看護職員に確認してもらいましょう」と伝えてみてください。安全面を考えた判断であることを伝えると、利用者さんやご家族の安心と納得につながりやすくなります。
異常を発見した際の看護職員・医師への報告基準
耳の中の異常や、耳垢が固まって取れない状態を確認した際は、速やかに看護職員や医師に報告しましょう。「いつから」「どのような状態か(赤み、痛み、耳垢の色やかたさ)」を具体的に伝えます。
たとえば、「右耳の入り口付近が少し赤くなっており、ご本人もかゆみを訴えています」など、客観的な事実を報告すると看護職員による的確かつ迅速な判断につながりやすくなります。介護職員による細やかな観察と速やかな情報共有は、事故防止や適切な医療連携につながります。
施設での対応が難しく、医療機関の受診が必要になるケースとは
施設内での対応が難しい耳垢塞栓や、外耳炎などの疾患が疑われる場合は、耳鼻咽喉科の受診が必要になります。特に耳垢が完全に詰まっている場合、無理に除去しようとすると強い痛みや出血を伴うおそれがあります。介護職員の独断で対処せず、まずは看護職員などに速やかに引き継ぎましょう。
状態に注意を払い、医療機関へ適切につなげることも、利用者さんの生活の質(QOL)を守る介護業務の1つです。
介護職員が医療行為との境界線で迷わないための知識の深め方と職場環境
ここでは、医療行為との境界線を学ぶ方法や、相談しやすい職場環境の大切さについて解説します。正しい知識の習得は、利用者さんの安全を守るだけでなく、専門職として落ち着いて判断するためにも大切です。
判断基準を正しく知り、介護職員自身と利用者さんを守る
耳かきは日常的なケアに見えますが、油断すると事故につながる場合があります。万が一の事態を防ぐためにも、厚生労働省の通知などを通して判断基準を理解しておきましょう。根拠に基づいて判断できれば、万が一トラブルが起きた際にも、対応の妥当性を説明しやすくなります。
また、施設内の研修や日々の業務のなかで、看護職員と具体的な事例を共有していくことも、介護職員ができる範囲と連携する範囲の境界線を深く理解する助けになります。正しい知識をもつことで、判断に迷ったときも看護職員などへ相談しやすくなり、落ち着いて日々の業務に取り組みやすくなります。
いつでも看護職員や医師に相談できる連携体制が整った職場を選ぶ
医療的ケアの判断基準が明確で、研修制度が整っている職場では、介護職員一人ひとりがケアに関する知識や技術を高めやすくなります。そのため、介護職員が単独で判断の責任や事故リスクを抱え込みにくくなります。また、多職種連携が活発な施設では、迷ったときにすぐ看護職員や医師に相談しやすいため、安心してスキルアップに励めます。
長く介護の仕事を続けるためにも、手厚い教育体制や相談しやすい連携体制が整った職場を選ぶことが大切です。
この記事では、耳かきが医療行為に該当するかどうかの判断基準や、安全な介助の手順について解説しました。原則として耳かきは医療行為ではありませんが、耳の状態によっては看護職員や医師への引き継ぎが必要です。正しい知識をもって、利用者さんにとって安全なケアにつなげていきましょう。
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執筆者:ウェルミーマガジン編集部
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