介護現場で「次のトランスをお願いします」と言われ、意味や介助方法がわからず戸惑った経験がある方もいるでしょう。トランスとは、ベッドから車椅子へ移るなどの「移乗動作」を指す介護・医療現場の用語です。
トランス介助では、利用者さんの身体状態や持っている力を確認し、必要な介助量に合った方法を選ぶことが大切です。この記事では、トランスの意味やベッドから車椅子へ移乗する基本的な手順、腰への負担を抑えるボディメカニクス、避けたい行動、福祉用具の活用について解説します。
介護におけるトランス介助とは
介護現場では、ベッドや車椅子などの間を乗り移る動作を支援する場面が多くあります。ここでは、トランスという言葉の意味と、介助を行う目的について解説します。
トランスとは「移乗動作」を指す専門用語
トランスとは、英語の「transfer(トランスファー)」を省略した呼び方で、介護・医療現場では「移乗」を意味します。ベッドや車椅子、便座などの間を乗り移る動作を指します。
トランス介助を行う主な目的と重要性
トランス介助の目的は、利用者さんがベッドから離れて、食事や排泄などの日常生活動作を行えるように支援することです。利用者さんが持っている力を活かして移乗を支援することは、自立支援や離床の促進にもつながります。また、利用者さんの身体状態に合わせて安全に介助することで、転倒や転落などの事故を防ぐことも重要です。
ベッドから車椅子へトランス介助する基本手順
ここでは、ベッドの端に座った姿勢を保ち、介助を受けながら立ち上がれる利用者さんを想定し、ベッドから車椅子へ移乗する基本的な流れを解説します。必要な介助量は利用者さんの身体状態によって異なるため、状態や介護計画を確認したうえで適切な方法を選ぶことが大切です(下記の情報は、厚生労働省の「介護キャリアアップ応援プログラム 介護基礎知識・介護技術テキスト(p11~12)」を参照しています)。
利用者さんの状態と必要な介助量を確認する
介助を始める前に、利用者さんがベッドの端に座った姿勢や立った姿勢を保てるか、足に力を入れられるか、麻痺の有無や程度、痛み、その日の体調などを確認します。
1人での介助が難しい場合や、利用者さん自身で座位・立位を保てない場合は、無理に人力で抱え上げず、複数人での介助や移乗用リフトなどの福祉用具を優先して検討します。
車椅子の位置や周囲の環境を整える
車椅子は利用者さんが移乗しやすい角度でベッドの近くに置き、ブレーキをかけてフットサポートを上げます。車椅子の位置や向きは、麻痺の有無や利用者さんの状態に合わせて調整しましょう。
また、利用者さんの足底が床につくようにベッドの高さを調整し、滑りにくい履物を着用しているか確認します。
車椅子へ移乗して姿勢を整えるまでの6つの流れ
ここでは、ベッドの端に座った姿勢を保ち、介助を受けながら立ち上がれる利用者さんを想定した基本的な流れの一例を紹介します。利用者さんの麻痺や痛み、足に力を入れられるかどうかによって介助方法は異なるため、状態に合わせて無理のない方法を選びましょう。
| ステップ | 動作内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 1.浅く座る | 利用者さんにベッドの端へ浅く座ってもらう | 足底が床についていることを確認する |
| 2.前傾姿勢を取る | 利用者さんに上体を前へ傾けてもらう | 動作の前に声かけを行い、利用者さん自身の力を活かす |
| 3.立ち上がる | 介助者は足を前後に開いて膝を曲げ、利用者さんの身体を支えながら立ち上がりを介助する | 腕や腰の力だけで持ち上げない |
| 4.方向を変える | 利用者さんの足の動きに合わせ、車椅子の方へゆっくり向きを変える | 腰をひねらず、介助者も足を動かして方向を変える |
| 5.車椅子に座る | 利用者さんの身体を支えながら、ゆっくりと車椅子へ座ってもらう | 座面の位置を確認し、急に手を離さない |
| 6.姿勢を整える | 座位を整え、足をフットサポートに乗せる | 身体の傾き、足の位置、衣類や皮膚の挟まりがないか確認する |
腰への負担を抑えるボディメカニクスの活用方法
トランス介助による腰への負担を抑えるには、身体の仕組みを活かしたボディメカニクスを取り入れることが大切です。ここでは、介助者の負担を軽減する身体の使い方と、利用者さんが持っている力を活かすポイントについて解説します(下記の情報は、厚生労働省の「介護キャリアアップ応援プログラム 介護基礎知識・介護技術テキスト(p4)」を参照しています)。
介助者の負担を軽減するボディメカニクスの基本原則
トランス介助では、足を前後に開いて支持基底面を広げる、膝を曲げて重心を低くする、利用者さんとの距離を近づけるといった身体の使い方を意識します。
方向を変えるときは腰だけをひねらず、介助者自身も足を動かして身体全体の向きを変えましょう。腕や腰だけに力を集中させず、脚などの大きな筋肉を使うことが負担の軽減につながります。
利用者さんの残存機能を活かす
ボディメカニクスと併せて、利用者さんが持っている力を活かすことも大切です。自分で上体を前へ傾けてもらう、足に力を入れてもらう、手すりを持ってもらうなど、できる動作を確認しながら介助します。
利用者さん自身が動作に参加することで、介助者の身体的な負担を抑えられるだけでなく、自立支援にもつながります。ただし、無理に動作を求めず、その日の体調や身体状態に合わせて介助方法を調整しましょう。
トランス介助で避けたい行動
トランス介助では、力任せに利用者さんを持ち上げたり、声掛けをせずに動作を始めたりすると、利用者さんにも介助者にも負担がかかります。ここでは、安全に介助するために避けたい行動を解説します。
力任せに利用者さんを持ち上げる
利用者さんを腕や腰の力だけで持ち上げると、介助者の身体に大きな負担がかかります。足を前後に開いて重心を低くし、利用者さんとの距離を近づけるなど、ボディメカニクスを活用しましょう。
利用者さんが自分で前傾姿勢を取る、足に力を入れるなど、できる動作を活かすことも大切です。1人での介助が難しい場合は、無理に抱え上げず、複数人での介助や福祉用具の使用を検討します。
声かけをせずに介助を始める
これから行う動作を伝えずに身体へ触れると、利用者さんを驚かせたり、介助への抵抗を招いたりする可能性があります。「今から立ち上がります」「車椅子の方へ向きを変えます」など、動作を始める前にわかりやすく声かけを行いましょう。
利用者さんの反応を確認しながら動作を進めることで、互いにタイミングを合わせやすくなり、安全でスムーズなトランス介助につながります。
※出典:厚生労働省「介護キャリアアップ応援プログラム 介護基礎知識・介護技術テキスト(p1)」
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利用者さんの状態によっては、人力だけで移乗を介助すると、介助者の腰に大きな負担がかかります。利用者さんの座位保持や立位保持の状態に応じて、スライディングボードや移乗用リフトなどの福祉用具を活用することが大切です(下記の情報は、厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針(p9~10)」を参照しています)。
ノーリフティングケアの考え方
ノーリフティングケア(持ち上げない介護)とは、介助者の力だけで利用者さんを抱え上げず、利用者さんの残存機能や福祉用具を活用して介助する考え方です。
全介助が必要な利用者さんにはリフトなどを積極的に使用し、原則として人力による抱え上げを行わないことが示されています。また、利用者さんが座位保持できる場合はスライディングボード、立位保持できる場合はスタンディングマシーンなどの使用を含めて検討し、利用者さんに適した方法で移乗介助を行うことが大切です。
スライディングボードや移乗用リフトを活用する
スライディングボードは、座位を保てる利用者さんがベッドと車椅子などの間を移乗する際に使用する福祉用具です。移乗する場所の間にボードを渡し、その上を滑るように移動することで、人力による抱え上げを避けやすくなります。
移乗用リフトは、座位や立位を保つことが難しく、全介助が必要な利用者さんの移乗を支援する福祉用具です。吊り具などで利用者さんの身体を支えながら移動するため、介助者が人力で抱え上げる必要がなく、腰への負担を抑えられます。
この記事では、介護現場におけるトランスの意味や基本的な手順、腰への負担を抑えるボディメカニクス、福祉用具の活用について解説しました。トランス介助では、利用者さんの身体状態や持っている力を確認し、必要な介助量に合った方法を選ぶことが大切です。力任せに抱え上げず、動作前の声かけや安全確認を行いながら、利用者さんと介助者の双方に負担の少ない介助を目指しましょう。
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執筆者:ウェルミーマガジン編集部
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