看護師の人手不足は、医療機関や訪問看護事業所など、さまざまな現場で続いています。その背景には、高齢者医療や在宅医療の需要増加に加え、医療の高度化による業務負担の増加、地域・施設形態による人材の偏在、不規則な勤務形態など、複数の要因があります。
この記事では、看護師の人手不足が続く現状と原因、現場や将来の医療体制に与える影響、人手不足の解消に向けた国や医療機関の取り組みについて解説します。併せて、看護師が無理なく働き続けるための職場選びのポイントも紹介します。
看護師が慢性的な人手不足に陥っている現状
看護師の人手不足は、直近の有効求人倍率から確認できます。また、過去に公表された看護職員の需給推計では、2025年に需要が供給を上回る可能性が示されていました。ここでは、現在の求人状況と、2019年に公表された2025年の需給推計を分けて解説します。
看護師の有効求人倍率
厚生労働省の職業情報提供サイト「job tag」によると、ハローワーク求人統計における看護師の有効求人倍率は、2024年度に全国で2.41倍でした。有効求人倍率が2.41倍ということは、ハローワークの求職者1人に対して約2.4件の求人がある状態を示します。
この数値から、ハローワークを通じた看護師の採用では、求人数が求職者数を上回っていることがわかります。
※出典:厚生労働省「職業情報提供サイト job tag 看護師」
2019年に公表された2025年の看護職員需給推計
2025年には、団塊の世代がすべて75歳以上となり、高齢者医療や介護を支える人材の確保が課題とされていました。厚生労働省が2019年に公表した推計では、2025年における看護職員の需要は、勤務環境の改善状況に応じて約188万~202万人と見込まれていました。一方、供給推計は、推計方法により約175万~182万人で、需要に対して人材が不足する可能性が示されていました。
ここでいう看護職員には、保健師・助産師・看護師・准看護師が含まれます。また、これらは2025年の実績値ではなく、推計時点の条件に基づいて算出された数値です。
当時の推計では、病院だけでなく、在宅医療や介護施設などでも看護職員の需要が増加すると見込まれていました。特に、訪問看護事業所などにおける人材確保が課題として示されています。
※出典:厚生労働省「医療従事者の需給に関する検討会 看護職員需給分科会 中間とりまとめ(概要版)(p2、9)」
看護師の人手不足が続く原因
看護師の人手不足が続く背景には、医療の高度化による業務負担の増加や、地域・施設による人材の偏在、不規則な勤務形態など、複数の要因があります。ここでは、看護師の人手不足を招いている主な原因を解説します。
医療の高度化や役割拡大による業務負担の増加
医療技術の進歩に伴い、看護師には高度な知識や専門的な判断が求められるようになっています。患者さん一人ひとりの状態に応じたケアに加え、医療機器の管理や電子カルテへの入力、多職種との連携など、看護師が担う業務は複雑化しています。
また、医師の働き方改革を背景に、医師が担ってきた業務の一部をほかの医療職へ移すタスク・シフト/シェアも進められています。看護師の専門性を活かせる一方で、人員配置や業務分担が十分に見直されないまま役割が広がると、一人ひとりの業務負担が増え、現場の人手不足感を強める可能性があります。
地域や施設形態による人材の偏在
看護師の人手不足には、地域や施設形態によって人材の確保状況に差があることも関係しています。厚生労働省の資料では、2025年の需給推計において、看護職員の需給状況は都道府県や二次医療圏ごとに異なることが示されています。
施設形態によっても、人材の確保状況には差がみられます。日本看護協会が公表した2024年度のナースセンター登録データでは、訪問看護ステーションや病床規模の小さい病院ほど、求人倍率が高い傾向が示されています。
特に、訪問看護ステーションはほかの施設形態より求人倍率が高く、看護師を確保しにくい状況にあります。施設種類別の求人倍率は、以下のとおりです。
| 施設形態 | 2024年度の求人倍率 | 人材確保の状況 |
|---|---|---|
| 病院(500床以上) | 1.93倍 | 中小規模の病院より低いものの、求人数が求職者数を上回っている |
| 病院(200~499床) | 2.49倍 | 求職者1人に対して約2.5件の求人があり、人材を確保しにくい状況にある |
| 病院(20~199床) | 3.00倍 | 病院のなかで求人倍率が最も高く、人材確保の難しさが目立つ |
| 訪問看護ステーション | 4.54倍 | 施設種類別で求人倍率が最も高く、人材確保が特に難しい状況にある |
※出典1:厚生労働省「看護師等(看護職員)の確保を巡る状況(p12、68)」
※出典2:公益社団法人日本看護協会「2024年度「ナースセンター登録データに基づく看護職の求職・求人・就職に関する分析」結果(p5)」
不規則な勤務形態とライフイベントによる離職
交代制勤務や夜勤による不規則な生活は、看護師の心身や私生活に影響を及ぼす場合があります。特に、結婚や出産、育児、介護などのライフイベントを迎えた際に、従来と同じ勤務を続けることが難しくなり、離職を選ぶケースがあります。
また、一度現場を離れると、医療知識や技術の変化に対する不安から、復職をためらう人もいます。短時間勤務や夜勤回数の調整など、生活状況に応じた働き方を選べる環境が整っていない職場では、離職した有資格者が復職しにくく、人手不足につながる可能性があります。
責任の重さと給与・待遇への不満
看護師は、患者さんの命や安全にかかわる責任を担う一方で、給与や評価、勤務条件に不満を感じることがあります。業務量や責任に対して待遇が見合っていないと感じる状態が続くと、仕事への意欲が低下し、転職や離職を検討する要因になり得ます。
また、業務前後の申し送りや記録、院内研修などが勤務時間外に及ぶ職場では、実際の拘束時間が長くなりやすく、心身の疲労につながります。給与だけでなく、時間外労働の管理や評価制度を含めた勤務環境への不満が、人材の定着を妨げる一因となる可能性があります。
看護師の人手不足が現場と将来の医療体制に与える影響
看護師の人手不足が続くと、勤務する看護師の心身の負担が増えるだけでなく、患者さんへのケアや地域の医療提供体制にも影響する可能性があります。ここでは、看護師の人手不足によって生じる主な影響を解説します。
看護師1人あたりの負担が増える
必要な人員を確保できない職場では、限られた看護師で業務を分担するため、一人ひとりの業務量や心身の負担が増えやすくなります。休息を十分に取れない状態や強いストレスが続くと、慢性的な疲労や仕事への意欲の低下につながるおそれがあります。
看護師の疲弊によって離職者が増えると、残った看護師の負担がさらに大きくなり、人材が定着しにくくなる悪循環が生じる可能性があります。
医療安全や患者さんへのケアに影響する
看護師が多くの業務を抱える状況では、確認や記録、患者さんの状態を観察するための時間を十分に確保できない可能性があります。人手不足によって業務負担が増えると、医療安全や患者さんへのケアに、次のような影響が生じるおそれがあります。
- 与薬や処置に伴う確認作業の負担が増える
- 患者さんの状態変化を観察する時間を確保しにくくなる
- 記録や情報共有が遅れやすくなる
- 患者さん一人ひとりへの説明や細やかなケアが十分に行えなくなる
病床機能や地域医療体制の維持が難しくなる
必要な看護師を確保できない状態が続くと、医療機関が予定している病床や医療機能を十分に運用できなくなる可能性があります。
2011年度から2013年度末を対象とした島根県の地域医療再生計画では、看護師不足により、2007年12月や2009年1月・4月、2010年4月に、県内の複数の病院で病棟や療養病床の一部を休止した事例が示されています。過去の一地域における事例ではあるものの、看護師を確保できないことが病床機能の維持に影響する場合があることがわかります。
※出典:島根県「島根県地域医療再生計画」
看護師・准看護師の求人情報はこちら看護師の人手不足解消に向けた取り組み
国は、看護職員の確保に向けて、「新規養成」「復職支援」「定着促進」を三本柱とした取り組みを進めています。医療機関でも、ICT・医療DXによる業務効率化や勤務環境の整備が行われています。ここでは、国や医療機関が進める主な取り組みを紹介します。
なお、国の施策における「看護職員」には、保健師、助産師、看護師、准看護師が含まれます。
ICT・医療DX導入による業務効率化
医療機関では、看護記録の音声入力やナースコールとスマートフォンの連携、情報の自動入力など、ICT・医療DXを活用した業務効率化が進められています。記録や情報共有にかかる時間を削減することで、看護師の業務負担を軽減し、患者さんへのケアに充てる時間を確保することが目的です。
ただし、システムを導入するだけで業務が効率化するとは限りません。現場の課題を整理したうえで、業務の進め方や役割分担も併せて見直すことが重要です。
※出典:厚生労働省「これからはじめる看護DX事例紹介 病院編」
看護職員の新規養成を支える取り組み
看護職員を安定して確保するため、看護師等養成所の運営や施設・設備の整備など、新たな看護師の養成を支える取り組みが行われています。養成段階から学習環境を整え、看護職を目指す人が必要な知識や技術を身につけられるよう支援しています。
※出典:厚生労働省「看護課関係予算の概要(p25)」
看護職員の定着を支える就業・生活環境の整備
看護職員の離職を防ぎ、働き続けられる環境を整えるため、短時間勤務や夜勤の免除・回数調整など、個々の事情に応じた勤務形態の導入が進められています。また、院内保育所や宿舎、休憩スペースの整備など、育児との両立や生活面・心身の負担軽減を支える取り組みも行われています。
勤務時間や働き方の選択肢を増やし、生活を支える環境を整えることは、出産や育児、介護などのライフイベントを迎えた看護職員の離職防止や定着につながります。
※出典:厚生労働省「看護職員確保に向けた取り組み(p3、30)」
潜在看護師の復職支援
都道府県ナースセンターでは、無料職業紹介や就業相談、再就業支援研修などを通じて、離職中の看護師の復職を支援しています。ブランクによる知識や技術への不安に対応し、本人の希望や生活状況に合った職場への再就業を後押ししています。
※出典:厚生労働省 看護職のキャリアと働き方支援サイト「ブランクを経て働く」
人手不足の影響を受けにくい職場を選ぶポイント
看護師が無理なく働き続けるには、求人票に記載された条件だけでなく、人手不足によって業務負担が偏っていないかを確認することが重要です。ここでは、応募先を検討する際に確認したいポイントを解説します。
看護配置基準と実際の勤務体制を確認する
求人票に記載された看護配置基準だけでなく、実際に勤務している看護師の人数や夜勤体制も確認しましょう。看護配置基準を満たしていても、休職者や欠員の状況によっては、勤務する看護師の負担が大きくなっている場合があります。
面接や職場見学では、夜勤を担当する人数や回数、休憩を取れる体制、欠員が生じた際の対応などを尋ねると、人手不足による負担の偏りを把握しやすくなります。
人材の定着状況や支援制度の利用実績を確認する
人手不足が続いている職場かを見極めるには、離職率や平均勤続年数、休暇制度の利用実績などを確認することが大切です。有給休暇の取得率や育児休業からの復職実績、短時間勤務制度の利用状況を確認すると、看護師が定着しやすい職場かを判断できます。
また、研修やeラーニング、資格取得支援などについても、勤務時間内に受講できるか、費用の補助があるかまで確認しましょう。人手不足のなかでも、看護師の成長や働き続けやすさを支える体制が整っているかを見極めることが重要です。
求人情報や面接、職場見学では、以下の項目を確認しましょう。
| チェック項目 | 人手不足の影響が抑えられている状態 | 人手不足の影響が疑われる状態 |
|---|---|---|
| 時間外労働 | 時間外労働の実績が公開され、勤怠が客観的に管理されている | 残業が常態化し、求人票の記載と実際の退勤時刻に差がある |
| 有給休暇 | 取得率や取得日数が確認でき、希望日に申請しやすい | 人手不足を理由に休暇を取得しにくい |
| 離職・定着状況 | 平均勤続年数や離職率が公開され、急な退職が少ない | 短期間での退職や欠員募集が繰り返されている |
| 勤務体制 | 夜勤人数や回数、休憩体制、欠員時の対応が明確である | 欠員を既存の看護師で補い、夜勤回数や受け持ち人数が増えている |
| 教育・キャリア支援 | 研修時間や費用負担、資格取得支援の利用条件が明確である | 人手不足を理由に研修へ参加しにくい、または勤務時間外の受講が多い |
表に挙げた項目のうち、1つが当てはまるだけで職場の良しあしが決まるわけではありません。実際の勤務体制や制度の利用実績など、複数の情報を組み合わせて判断しましょう。
この記事では、看護師の人手不足が続く現状や原因、現場と将来の医療体制に与える影響、人手不足の解消に向けた取り組みについて解説しました。看護師の人手不足には、医療の高度化による業務負担の増加や、地域・施設形態による人材の偏在、不規則な勤務形態など、複数の要因が関係しています。無理なく働き続けるためには、求人票の条件だけでなく、実際の人員配置や勤務体制、休暇制度の利用実績、教育体制なども確認し、自身の希望や生活状況に合った職場を選ぶことが大切です。
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執筆者:ウェルミーマガジン編集部
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