「嚥下(えんげ)」とは?食事のメカニズムと嚥下障害についてわかりやすく解説

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「嚥下(えんげ)」とは?食事のメカニズムと嚥下障害についてわかりやすく解説

食事や水分摂取は私たちの生命維持に欠かせない行為です。その背景には複雑で精密な「嚥下」というメカニズムが働いています。嚥下は、多くの器官と神経系が協調して機能する動作です。

この記事では、嚥下の基本的なメカニズムから嚥下機能の評価方法、障害の原因、対策まで詳しく解説します。

嚥下について知っておくべきこと

嚥下は、私たちが食事や水分飲み込み、胃に送りこむまでの動作を指します。普段意識することなく行っているこの動作の仕組みについて、詳しく見ていきましょう。

嚥下の定義と日常生活での重要性

嚥下とは、口の中にある食べ物や飲み物、唾液などを咽頭、食道を経由して胃まで送り込む一連の動作です。健康な成人では、1日に約500回から1000回の嚥下を無意識に行うと言われています。食事中だけでなく、唾液を飲み込む動作も含めて私たちの日常生活に深く根ざした機能です。

嚥下機能が正常に働くと、私たちは栄養や水分を効率的に摂取でき、同時に気道への誤嚥を防げます。嚥下とは単なる飲み込み動作ではなく、呼吸と密接に関連した生命維持に直結する重要な機能です。また、嚥下は食事に欠かせない機能でもあり、QOLの維持にも大きく関わっています。

嚥下に関わる身体の構造と神経システム

嚥下には深く関わる器官は、口腔、咽頭、喉頭、食道です。口腔では舌、歯、顎、口唇が食塊と送り込みに重要な役割を果たし、咽頭では軟口蓋、咽頭壁、舌根部が協調して食塊を食道へと導きます。喉頭では喉頭蓋、声帯、披裂軟骨(喉頭にある一対の軟骨)などが気道保護のために動作し、食道では上部食道括約筋の弛緩と蠕動運動によって食塊が胃へと運ばれます。

神経系の制御においては、大脳皮質の随意的制御と延髄の嚥下中枢による反射的制御が組み合わさっています。以下に、制御に必要な神経をまとめました。

  • 三叉神経(第V脳神経):咀嚼・舌の運動や感覚を司る
  • 顔面神経(第VII脳神経):舌の感覚や口唇を閉じるのに作用する
  • 舌咽神経(第IX脳神経):舌根・咽頭の運動や感覚を司る
  • 迷走神経(第X脳神経):咽頭・声帯・食道の運動や感覚を司る
  • 舌下神経(第XII脳神経):舌の運動に影響する

これらの脳神経は、嚥下の各段階で重要な役割を担っています。嚥下は解剖学的にも神経学的にも高度に統合されたシステムであり、その複雑さゆえに様々な要因で障害を受けやすい機能です。

嚥下の5期モデルとは?

嚥下のメカニズムを理解するために、臨床的には「嚥下の5期モデル」という概念が広く用いられています。嚥下を5つの連続する段階に分けて説明するもので、先行期、口腔準備期、口腔期、咽頭期、食道期から構成されています。

先行期から口腔準備期まで

先行期は、食べ物を認識し、口に運ぶまでの過程です。この段階では、視覚、嗅覚、触覚などの感覚を使って食べ物の性質を把握します。食べ物の硬さ、温度、粘度などの情報が脳で処理され、唾液の分泌が始まり、消化管の準備に入ります。

口腔準備期では、口の中に取り込まれた食べ物を飲み込みやすい形にする食塊が行われる段階です。歯による咀嚼、舌の動き、唾液との混合によって食べ物は飲み込みやすい食塊へと変化します。咀嚼筋の働きにより上下の顎が協調して動き、舌は食べ物を噛みやすいように歯の上に位置させたり、口の中で転がしたりする動作をとります。

段階 主な動作 関与する器官 制御方法
先行期 食べ物の認識と摂取準備 感覚器官、脳 意識的
口腔準備期 咀嚼と食塊 歯、舌、顎、唾液腺 意識的

口腔期から食道期まで

口腔期では、形成された食塊が舌の動きによって口腔から咽頭へと送り込まれる段階です。舌は前歯の裏である口蓋に押し当てられ、食塊を咽頭に向けて送り込みます。この段階では、軟口蓋が挙上して鼻咽頭を閉鎖し、食塊が鼻腔に逆流するのを防ぎます。口腔期の終了とともに、嚥下反射が引き起こされ、以降は反射的な制御に移行するのです。

咽頭期は嚥下そのもので、約0.5秒という短時間で終わります。嚥下反射により、舌根部と咽頭壁が接触して食塊を食道入口部に向けて推進し、同時に喉頭蓋の下降、声帯の内転、喉頭の挙上によって気道が保護されます。誤嚥のリスクが最も高くなる段階です。

食道期は、輪状咽頭筋が弛緩して食塊の通過を許し、その後の蠕動運動によって食塊が胃へと運ばれる段階です。食道の蠕動運動で、重力とともに食塊を胃へと到達させます。

嚥下障害の原因と症状

嚥下障害は、高齢化の進行とともに重要性が増している医学的課題の一つです。嚥下障害の背景には神経疾患、構造的異常、筋力低下、薬剤の影響など多岐にわたる要因があり、それぞれが単独または複合的に作用して嚥下機能の低下を引き起こします。

嚥下障害を引き起こす主な疾患と要因

神経疾患は嚥下障害の重要な原因の一つで、脳血管疾患(脳梗塞、脳出血)、パーキンソン病、認知症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症などが代表的です。脳血管疾患では病変部位により異なる嚥下障害のパターンを示し、例えば、延髄の病変では嚥下反射の消失や遅延が、大脳皮質の病変では随意的な嚥下開始の困難が生じます。パーキンソン病では筋強剛や振戦により口腔準備期や口腔送り込み期の障害が目立ち、食塊や舌の運動に支障をきたします。

構造的な要因としては、頭頸部腫瘍やその治療による解剖学的変化、食道狭窄、逆流性食道炎、加齢による変化などがあります。頭頸部の放射線治療後には組織の線維化や唾液分泌低下が生じ、長期的な嚥下機能低下の原因となります。また、高齢者の場合、咽頭・喉頭の感覚低下、筋力低下、反射機能の衰えなどが複合的に作用し、嚥下機能の全般的な低下が生じやすくなるでしょう。

嚥下障害の症状と誤嚥性肺炎のリスク

嚥下障害の症状は、明らかな症状から微細な変化まで様々な形で現れます。典型的な症状には、飲み込み時のむせ、咳き込み、食事時間の延長、食事量の減少、体重減少などがあります。また、声質の変化、食後の痰の増加、発熱の反復なども主な症状です。しかし、高齢者や神経疾患の患者の場合「サイレント・アスピレーション」と呼ばれる無症状の誤嚥が問題となることが多く、明らかな症状がないまま誤嚥性肺炎を発症するリスクが高まります。

さらに、誤嚥性肺炎は嚥下障害の重篤な合併症の一つで、日本人の死因上位を占める重要な疾患です。誤嚥により口腔・咽頭の細菌が気道内に侵入し、肺炎を引き起こします。特に高齢者では免疫機能の低下、口腔ケアの不備、基礎疾患などにより誤嚥性肺炎のリスクが高い傾向です。誤嚥性肺炎の予防には、適切な嚥下機能評価と個別化された対策の実施が欠かせません。

嚥下機能の評価と対策

嚥下機能の評価は、安全かつ効果的に栄養を摂取するための第一歩であり、多職種のチームアプローチによって包括的に実施されます。評価方法は、身体に負担の少ないスクリーニング検査から精密な機器を用いた検査まで様々で、患者の状態や目的に応じて選択されます。

嚥下機能評価の方法と専門的検査

嚥下機能評価は、患者や家族から嚥下障害の発症時期や症状を聞き取るところから始まります。ベッドサイドでの簡便なスクリーニング検査と、専門的検査を組み合わせて評価を行います。

嚥下内視鏡検査(VE)は、内視鏡を鼻腔から挿入して咽頭・喉頭の構造と機能を直接観察する検査です。検査結果に基づいて、患者に適した食事形態や摂食方法、リハビリテーション内容を決定します。

評価方法 検査内容 評価項目 利点 欠点
病歴聴取 患者・家族からの
情報収集
発症時期
進行パターン
関連症状
原因推定可能
患者の身体的な負担が少ない
主観的な情報となる傾向がある
RSST 30秒間の
唾液を嚥下した回数の測定
嚥下反射の有無 簡便
身体的負担が少ない
指示が入らない患者には不可
MWST 3mlの水による
嚥下評価
誤嚥の有無 標準化された方法
簡便
誤嚥リスクあり
FT 食物を用いた
嚥下評価
実際の摂食状況 実際の食事に
近い状態で評価可能
誤嚥リスクあり
VE 内視鏡による
咽頭・喉頭観察
唾液・食物の貯留
誤嚥の有無
構造・機能の
観察が可能
身体的負担が大きい
VF X線透視下で
嚥下動態の観察
嚥下の全過程
各段階の問題点
リアルタイムで
詳しく評価できる
放射線被曝の可能性がある

嚥下障害への対策と予防的なケア方法

嚥下障害への対策は、原因疾患の治療、代償的アプローチ、機能改善訓練、環境調整など多角的なアプローチが必要です。食事形態の調整では、嚥下調整食の国際基準であるIDDSI(International Dysphagia Diet Standardisation Initiative)に基づいた段階的な食事提供が行われます。液体には適切なとろみ付けを行い、固形物は適切な硬さと大きさに調整して、安全な経口摂取を促進します。とろみの程度はごく薄いとろみ、薄いとろみ、中間のとろみ、濃いとろみの4段階に分類され、患者の嚥下機能に応じて選択可能です。

嚥下リハビリテーションでは、間接訓練と直接訓練を組み合わせます。間接訓練には口腔機能訓練、呼吸訓練、嚥下反射促通訓練があり、食物を用いずに機能改善を図ります。直接訓練では実際の食物を用いて段階的に機能向上を目指し、適切な姿勢や摂食方法の指導も必要です。口腔ケアは誤嚥予防に重要で、口腔内細菌を減らし誤嚥性肺炎のリスクを軽減します。専門的なケア用品の使用や定期的な歯科受診、適切なブラッシング技術の習得が効果的です。

この記事では、嚥下の基本的な定義から始まり、5期モデルや嚥下障害の原因と症状、そして評価方法と対策について解説しました。嚥下は私たちの生命維持に欠かせない機能です。嚥下機能を理解し、適切な対策を講じれば、多くの人がより安全で快適な生活ができるようになります。嚥下に関する知識を深めることで、患者さんやご利用者の方々により良いケアを提供できるはずです。日々の実践の中で、この知識を活用して多くの方の安全を支えてください。

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ウェルミーマガジン編集部

執筆者:ウェルミーマガジン編集部

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