2026年2月17日、東京・浜松町の株式会社エス・エム・エス本社にて、NPO法人「未来をつくるkaigoカフェ」との共催イベント「『ここで働きたい』が生まれる職場とは?~働きがい×キャリアデザイン~」が開催されました。
深刻な人手不足に直面する介護業界では、今、「選ばれる職場」と「そうでない職場」の二極化が起こっています。人材が集まり定着する組織と、欠員が補充できない組織の差はどこにあるのか。
本レポートでは、3名のゲストスピーカーによる実践報告と、現場スタッフや経営層など、立場の垣根を超えて行われた対話の様子をお届けします。
【イベント概要】
日時:2026年2月17日(火)19:00~21:00
会場:株式会社エス・エム・エス 本社
主催:NPO法人「未来をつくるkaigoカフェ」(代表:高瀬 比左子さん)
共催:株式会社エス・エム・エス
プログラム:
- オープニング:なぜ今、介護現場に対話が必要なのか
- ゲストスピーチ(3名):『ここで働きたい』が生まれる職場づくりの実践
- 対話セッション:立場を超えたグループディスカッション
【登壇者プロフィール】
脇 健仁さん(株式会社ゆりかご 代表取締役 / 茨城県訪問介護協議会 副会長)
サラリーマンから介護業界へ転身し、訪問介護の立ち上げに携わる。訪問介護員・管理者として働きながら、介護福祉士、ケアマネジャーに加え、社会福祉士、精神保健福祉士を取得。さらに看護師資格も取得し、訪問看護ステーションや定期巡回・随時対応型訪問介護看護も立ち上げ、現在に至る。
鞆 隼人さん(特別養護老人ホーム恵の里 ユニットリーダー兼フロアリーダー)
施設介護一筋で17年目というキャリアを持ち、現場の最前線でユニットリーダー兼フロアリーダーとしてチーム運営の要を担う。施設内での新人研修や実技講習の講師も務め、豊かな現場経験に基づいた若手育成やケア技術の向上に貢献している。
井口 健一郎さん(社会福祉法人 小田原福祉会 理事 / 特別養護老人ホーム潤生園 施設長)
同法人の理事、特別養護老人ホーム施設長、エリアマネジャーとして複数事業所を統括し、経営・人事・現場を横断的に統括するマネジメントを行っている。厚生労働省関連委員や国の調査研究事業に多数参画する傍ら、桜美林大学で教鞭を執る。現場の実践と国の政策をつなぐ架け橋として多角的に活動中。
オープニング:なぜ今、介護現場に対話が必要なのか
高瀬 比左子さん
はじめに、高瀬さんが現場のリアルな課題と対話の重要性について触れました。ご自身が施設や居宅のケアマネジャーとして働く中で、人手不足や制度改正などの影響により、疲弊していく職員の姿を目の当たりにしてきたといいます。
職場の仕組みを整えようとする一方で、思いを言葉にする場が後回しにされている現状を指摘し、「本当は人が足りない今だからこそ、対話が必要なのではないか」と参加者に投げかけました。
日常の小さな声かけや問い直しから生まれる変化が、『ここで働きたい』と思える職場を作っていくのだと私は思います」と語ります。
さらに、本イベントについて、「管理職だから、経営者だから、現場職員だからという肩書きを一度横に置いて、介護やケアに関わる一人の人として語り合えたら嬉しいです」と締めくくり、参加者が心を開いて対話できる温かい空気を作り出しました。
(会場全体に温かい雰囲気を作り出す高瀬さん)
ゲストスピーチ①:心理的安全性を可視化し、関係性の質を高める組織づくりの実践
脇 健仁さん
脇さんは、茨城県で事業を展開する中で、「心理的安全性」と「理念」を軸とした組織づくりについて語りました。
かつて人材不足や離職に悩んだ経験から、「求人募集」ではなく、今いる職員同士の「関係性の質を高める」ことに注力。エドモンドソンの考え方をもとに、心理的安全性をアンケートで可視化し、現場のリアルな課題と向き合ってきたといいます。また、心理的安全性の向上には、リーダーの行動も大切であると考え、「職員が管理職を評価する」機会を設けた取り組みにも触れました。その結果、1年間で管理職の評価が一部向上したと紹介しました。
また、理念の浸透においては、組織でやる以上、最優先すべきは「職員の家族」、続いて「仲間や同僚」、その後に「利用者様」であるという定義を強調しました。このように職員やその家族を第一に守る姿勢こそが、『ここで働きたい』と心から思える、選ばれる職場づくりにつながる……。そうした思いが伝わるお話に、会場の参加者もうなずきながら耳を傾けていました。
(笑いを交えながら熱意を持って語ってくださる脇さん)
ゲストスピーチ②:現場の「当たり前」を問い直し、やりがいを見つけ出す
鞆 隼人さん
鞆さんは、特別養護老人ホームに長年勤務する中で見えてきた、働きがいの見つけ方について話しました。
かつては、決められた時間に作業をこなすだけの画一的なケアに疑問を感じていたといいます。そんな中、お風呂を嫌がる利用者様に対し、その方が好きだった「手紙」を書いて入浴を促したところ、自らお風呂に入ってくれた出来事を紹介しました。そのとき初めて利用者様から心のこもった感謝の言葉をもらい、「これで飯食っていくんやな」と感じたことが、自身の原点になっていると振り返ります。
現在は統括的な立場で、大規模施設の改革にも取り組んでいます。「やりたいケア」にどう近づけていくかを職員みんなで考えていくことに、改めてやりがいを見出したといいます。
さらに、「今、目の前にいる人たちにどう自分が関わっていくか」という姿勢の大切さを参加者に伝えました。
(オンライン参加で会場に語りかけてくださる鞆さん)
ゲストスピーチ③:人が辞めない施設が、最高のケアを実現する
井口 健一郎さん
井口さんは、離職率が高く赤字続きだった施設を、「チームづくり」と「現場に任せる仕組み」によって立て直してきた経験を紹介しました。結果として、3年間で新卒21名のうち18名が定着し、平均年齢26.5歳という若返りを果たしています。
「人が辞めないから残業がない。残業がないから職員がイライラしない」。そう話すように、職員にゆとりが生まれた現場では、お年寄りも不安を感じにくくなり、ナースコールが鳴らない穏やかな時間が流れるのだといいます。介護の質は、その場の「匂い」や「表情」に表れる……。そんな言葉からも、現場を大切にする姿勢が伝わってきました。
また、全職員と定期的に1on1ミーティングを行う取り組みにも触れました。ICT導入の際も施設長がすべてを決めるのではなく、まずは現場で試し、職員自身が「必要だ」と判断したものを採用していくとのこと。「自分たちで職場をつくる」という感覚を大切にしている事例として紹介していました。
(モニターを見ながらハキハキと語ってくださる井口さん)
対話セッション:立場を超えて「問い」を共有する
スピーチ後のワークショップでは、現場スタッフから経営層まで、多様な参加者が「自分の職場で今何を実現すべきなのか」について語り合いました。登壇者もグループに加わり、参加者に直接アドバイスが送られるシーンや活発な意見交換が行われる場面が多くありました。
ディスカッション後は、一部のグループで挙がった意見を全員で共有し、まさに「明日への小さな変化を生むきっかけづくり」が行われていました。
(終始明るい雰囲気で実施されたディスカッションの様子)
編集後記
介護業界全体で人手不足が叫ばれる中、今回のkaigoカフェを通して「職員が辞めない組織」が実在することに強い希望を感じました。
共通していたのは、制度や仕組みを整える前に、まずは「一人の人間」として職員の想いや家族を何より大切にする姿勢です。現場の「声」が組織全体に届く対話の文化があるからこそ、多くの職員がやりがいを感じ、それが利用者様へのより良いケアへとつながっています。
「対話が当たり前にある職場」が、これからの介護業界の未来を明るく照らしていく。そんな確かな希望を感じる機会となりました。ウェルミージョブでは、『ここで働きたい』に出会える機会を、今後も増やしていきたいと思います。
関連キーワード
執筆者:ウェルミーマガジン編集部
介護・医療・障害福祉・保育に関連するお役立ち情報や楽しいコンテンツを随時発信中!みなさんの『自分に合った「ここで働きたい!」に出会える』を目指します。求人サイト<ウェルミージョブ>は会員登録数180万!
関連記事
-
【イベントレポート】もしも介護保険がなくなったらケアはどうなる?~制度のこれからと保険外サービスの可能性を考える~
NEWS -
ドラマ『勿忘草の咲く町で ~安曇野診療記~』福本莉子さん&菅生新樹さん特別インタビュー
NEWS -
「献身」だけで燃え尽きないために。医療福祉の現場でイキイキと働き続けるための「折れない心」と「組織の力」とは―早稲田大学・森永雄太教授インタビュー
NEWS -
「ありがとう」だけでは食べられない。人を支える職業こそ「正当な対価」を求めるべき――NHK連続テレビ小説『風、薫る』原案者・田中ひかるさん特別インタビュー(後編)
NEWS -
「職業・看護師」誕生の裏には、二人のシングルマザーがいた――NHK連続テレビ小説『風、薫る』原案者・田中ひかるさん特別インタビュー(前編)
NEWS -
「看護の日」はいつ?由来や看護業界の動向をチェック
NEWS