こんにちは! ウェルミ―ジョブ編集部員の田上です。
「保育の味方!子どももおとなも“共に育つ”ための10ヶ条」では、一般社団法人次世代SMILE協会の杉山舞さんをお迎えし”保育のヒント”を探っていきます。
第三回目のテーマは、「気づくことの大切さ」。これは、次世代SMILE協会が提唱する「人の可能性を伸ばす10の黄金法則」(以下、10ヶ条)の三つ目に掲げられています。
ー 今回のテーマは、10ヶ条の三つ目「気づくことの大切さ」です。10ヶ条でいう「気づく」とは、どのようなことを指すのでしょうか。
杉山さん:「気づくことの大切さ」とは、大きく2つの意味を表しています。
1つめは、どれほど多くの「気づきのアンテナ」を張り巡らすことができるか、2つめは、その気づきをどう解釈し、どのような行動につなげるか、ということです。
10ヶ条の中でも「気づくことの大切さ」は、すべてがここから始まると言っても過言ではないほど、人の可能性を伸ばすうえで重要なパーツであると感じます。
「気づく」対象は、幅広く存在します。「こんな所にマンションあったかしら?」といった物に対して、また「ようやく涼しくなって、秋らしいなぁ」といった環境に対する気づき等は、皆さまも日々感じられていることと思います。
しかし今回の10ヶ条では、自分を含む人に対する気づきに着目し、お話ししたいと思います。
まずは、気づきのアンテナについて考えていきたいと思います。
“気づきのアンテナ”を向ける先
- 人:子ども・保護者・同僚など、関わる相手の小さな変化
- 物・環境:季節や温度、部屋の雰囲気などの変化
- 自分:体調や気持ちの揺れ、心の声の変化
➡ アンテナを多方面に向けるほど、保育の質が深まります。
皆さんは、「気づく」ということに、私たちにとってどのような良さがあると思いますか?
例えば、縄跳びを全くできなかった子どもが、縄を1回跳べたとしましょう。その1回の変化に気づき、声をかけることができたら、子どもにとっては自信がつくきっかけとなり、先生にとっては個々の能力や成長を観察する力を養うことにつながります。また、ご自分の髪型を変えた時に、同僚の先生から気づいてもらえたらどんな気持ちになりますか?きっと、変化に気づいてもらえたことを嬉しく思う方が多いのではないでしょうか。
このように、人との関わりの中で「気づき」のアンテナがたくさんある方ほど、人の変化に敏感になれると思います。そして、気持ちを想像したり、相手を喜ばせたりすることにつながり、自然とコミュニケーション力も育まれていきます。
ー “自分”への気づきとは意外でした。詳しく聞かせてください。
例えば、体調があまり優れない時に無理をしてしまうと、状態がより悪化してしまったり、快復に時間がかかってしまったりと悪循環になりますね。しかし、「なんだか身体が重い」「一息入れたい」などの自分の内なる声に気づくことができたら、自分を労われることで体調が酷くならずに、早めに復帰することができる好循環が生まれます。
こうしたことからも、他者、そして自分自身との関わりにおいて、「気づく」アンテナが高く多ければ多いほど、子どもや同僚と共に育つ関係性の構築につながるだけでなく、自分の状態を把握し、パフォーマンスを最大限発揮することができるようになると思います。
私は、保育士の先生方と関わる中で、「ご自分の内なる声」をないがしろにしてしまう先生が多いことに驚かされます。子どもや他者を優先的に考えるあまり、「自分さえ我慢すれば……」とご本人の気持ちが後回しになっているのです。ご自身への気づきを高めることは、心身の健康を維持できると同時に、他者への気づきを高めることにもつながると知ってもらえたら嬉しく思います。
ー ありがとうございます。では、2つめの「気づきの解釈と行動への影響」について、具体的な事例を交えて教えていただけますか。
はい。では、保育士の先生方との関わりの中で印象的だった「怒りの奥にある気づき」のケースをご紹介します。
A先生は、「日ごろから子どもに感情的に怒ってしまい、後々後悔してしまう」という悩みを抱えていました。私は先生に、「怒ることで、その子に何を伝えたいですか?」と聞きました。すると先生はハッとして、その子が注意散漫になることで、怪我をしてしまうのではないかと、常に不安であったことを教えてくれました。そして、周りも見ながら遊んでほしいと望んでいることがわかりました。
このように、先生は感情のままに怒って後悔している自分に気づき、その根底には「子どもに怪我をしてほしくない」という不安な気持ちがあったことを認識しました。
そこで私は、その不安な気持ちを伝えることで、感情的に気持ちを表出することなく関われるのではないか、と提案しました。その結果、先生は「○○ちゃんが走り回るとお友達とぶつかっちゃうと思うから、先生は心配なのよ。」と話すと、その子は話を聞き、スピードを落としながら歩いてくれたようです。
このように、忙しく過ぎてしまう保育の現場では、自分の行動の根底にどのような想いがあるのかを立ち返る時間はなかなか取れないかもしれません。しかし、一度その想いを振り返り、自分の中のモヤモヤにどう対応したいかを問うことで、ご自身の想いをそのまま行動につなげることができるようになります。
ー つい悪いところに目がいってしまうこともあります。「よい気づき」とはどんなものなのでしょうか。
杉山さん:「気づき」自体に「良い」や「悪い」ということは無く、両方気づいた方が良いと私は感じています。それは、一つの事象は、良いことと悪いことの両面を持ち合わせていると思うからです。
たとえば子どもの行動で考えると、集団活動に参加できず、色々な道具に気が散ってしまう子がいた時、その子を「集中力が足りない!」という見方があるとします。しかし別の視点で考えると、「色々な物に興味を持っている」とも言えますね。
これは、どんな状況や人の性格にも同じようなことがいえると思います。そのため、「よい気づきとは何か?」について考えると、良い面も悪い面も両面を気づくことなのではないかと思います。
そして大切なのは、「良くないところ」を発見した時に、それを「良い面で考えると、どうか?」を変換できることだと感じます。ここは、「変換トレーニング」をすることで、どんどん視点を広げることができます。
試しに、皆さんでやってみましょう!
変換トレーニング例
- 落ち着きがない → アクティブで好奇心旺盛
- ネガティブ思考 → 慎重で注意深い、リスクマネジメントができる
- 起伏が激しい → 感情が豊か、表現力がある
- せっかち → 行動が早い、スピード感がある
いかがでしょうか? 慣れないうちは、両側面をセットで覚えておくことで、俯瞰して見ることができるようになると思います。今までとは違う景色が見えてくるかもしれません。ぜひ試してみてください。
ー 「気づく」ためのまなざしやチカラを培うためにはどういったことを意識するとよいのでしょうか。
杉山さん:「気づく」ための力を養うためには、先ずは、様々なことに興味を持つこと、そして学ぶことが大切だと思います。これは、私たちの気づきが、興味をもっていることや、知識のあることにより反応すると思うからです。
先生方の例で考えると、性格や性質をよく知っている子どもと、初対面の子どもを比較した時、よく知っている子どもに対しての方が、より多くの気づきを得られると思います。それは、初対面の子どもよりも、その子が「こんなことができるようになった」、「青に興味を持つようになった」等の変化や成長に気づきやすいからと言えます。こうしたことからも、私たちが興味をもっていることや、知っていることがあるほど、気づきを得る確率が高まることがわかると思います。
また、日常保育においてもできることがあります。
先生方はよくご存知の通り、子どもは小さな虫に気づいたり、いつもと違う先生の様子を感じとったり、彼らの気づく力は無限大ですよね。そして時に、友達が人と違うことをしていることや、違う様子の時にもいち早く気づき、「◯◯ちゃん、そうじゃないよ」、「◯◯くんは違う肌の色だね」等と伝えてくれます。
すると先生方の中には焦ってしまい、「そういうことは言わないの!」と言っている場面が見られます。このように、「気づいたことを伝える=失礼」、「人と同じであることが安心/良い」、「正しいやり方は1つ」、といった大人の解釈が入ってしまうと、子どもの純粋な「気づき」が「友達への指摘」というように捉え方が変わってしまいます。
しかし、単に気づきを教えてくれたと考えたら、どうでしょうか?違う点に気づいた子どもには、「教えてくれてありがとう。どうすると良くなりそうかな?」と話すことで、子どもと先生が共に考えられるきっかけになりそうです。
| NG対応 | GOOD対応 |
|---|---|
| 「そういうことは言わないの!」と注意する | 「教えてくれてありがとう。どうすると良くなりそうかな?」と共に考える |
| 気づきを“指摘”として捉える | 気づきを“発見”として受け止める |
また、肌の色の違いに気づいた子どもには、「そうだね、みんな違う肌の色を持っていて、たまたま日本人は似た色だけど、世界にはたくさん素敵な色の肌を持っている人たちがいるんだよ」といったことを共有する機会になり得ます。
先生方や保護者の皆さまの日常は、こうした子どもの気づきと関わるチャンスに溢れていると思います。大人が考える「当たり前」を少し横に置いて、彼らの気づきをそのまま受け止めてみると様々な発見や学びがあるかもしれません。
ただ、上記は長期的に行っていくことで習得できますが、直ぐにでもできることがあります。それは、例えば先生同士、または子どもやパートナーと、「外見だけで気づく良いところ」を伝え合うというゲームです。これは、2人1組になり、30秒(もっと短くてもOK!)という限られた時間の中で一人ずつ行います。一人が相手を褒めまくり、もう一人はひたすら褒めを受け止める、という時間です。
私たちは、毎回研修の中でこのゲームを行いますが、皆が笑顔になって大盛り上がりになります。そして普段、「思っていても口に出して伝えていない」ということにも気づく先生がいます。
私たち日本人の生活や習慣の中では、「気づきを伝える」ことをあまり行ってきていないかもしれませんが、「褒めてもらえると嬉しい!」と多くの先生が感じていらっしゃいます。こうしたことからも、やはり気づいたことを口に出して伝える、ということがコミュニケーションで大切なことも伺えますね。
ー 「気づくこと」によって、子どもや大人にどんな変化が生まれたか、印象に残っているエピソードがあれば教えてください。
杉山さん:冒頭にも「すべてがここから始まると言っても過言ではないくらい、人の可能性を伸ばすうえで重要なパーツ」と申しげたように、「気づき」によって園の先生方の変化に立ち会えることがありました。
A園ではスマイルシップスポーツ(以下、SSS)を導入し、OJTの中で当協会の認定コーチが指導することを通して、先生方のみでも指導することができるよう学んでもらっていました。
SSSでは、先ずは楽しむことを軸とし、子どもが自主的に考えながら取り組むことを大切にしています。そのため、時に道具の持ち方や種目のルールなどを違った方法でやりたい子どもに対し、無理に直さず対話をしながら見守っていることがあります。
そこに気づいた一人の先生が、「子どもたちにやらせるのではなく、自分たちで考えさせることは保育でも必要だと感じたので、職員会議で話し合いました。」と教えてくれました。この気づきが発端となり、常に正しいことを教えようとするところから、子どもの自由な発想や創造力を重視する関わりへと変わっていきました。
先生方も笑顔が増し、全体的に前向きな声かけが溢れるようになりました。そして何よりも、子どもたちが、以前は失敗すると泣き崩れ、なかなかセッションに戻ってこられなかったところから、挑戦を恐れず勝負することが好きな人たちへと変わっていったのです。
このように、一人の先生の気づきからはじまり、それを聞いた先生方の行動の変化が、子どもたちのあり方をここまで変えてしまうことを目の当たりにし、改めて「気づくことの大切さ」の大きさを実感しました。
これまでの2つの法則に引き続き、「気づくことの大切さ」においても、子どもの気づきを通して大人も共に学び成長することができる、正に「共育モデル」を実現する考え方だと思います。また、「内なる気づき」を大切にしていただくことで、ご自身の幸せを満たしつつ、子どもや他者への気づきが増すことで、より豊かなコミュニケーションが育まれていくと感じます。
もしも現在、「自分さえ我慢すれば……」と気持ちを抑えている方は、ご自分の気づきに耳を傾け、受け止めるところからスタートしてはいかがでしょうか。
【編集後記】
杉山さんのお話を通して、「気づくこと」は子どもや周囲を思いやるだけでなく、自分を大切にする第一歩でもあると感じました。
忙しい日々の中ではつい見過ごしてしまう小さな変化も、丁寧に受け止めることで関係性が深まり、自分の心にも余白が生まれます。
「気づき」は誰かを育てるだけでなく、自分自身を育てる力でもある—そんなメッセージが印象に残りました。
次回は10ヶ条の「目標を持って続けることの大切さ」。どうぞお楽しみに!