こんにちは! ウェルミ―ジョブ編集部員の田上です。
「保育の味方!子どももおとなも“共に育つ”ための10ヶ条」では、一般社団法人次世代SMILE協会の杉山舞さんをお迎えし”保育のヒント”を探っていきます。
第四回目のテーマは、「目標を持って続けることの大切さ」。これは、次世代SMILE協会が提唱する「人の可能性を伸ばす10の黄金法則」(以下、10ヶ条)の四つ目に掲げられています。
ー 今回のテーマは、10ヶ条の四つ目「目標を持って続けることの大切さ」です。なぜ「続けること」が、人の可能性を伸ばすうえで大切だと言えるのでしょうか。
杉山さん:「目標を持って続けることの大切さ」は、私たちが何かを継続して達成するうえで、そのプロセスに着目する大切さを表しています。実はこの法則ができた当初は、「続けることの大切さ」という言葉で始まりました。しかし、真意を模索する中で「ただ続けることって意味あるのかな?」という意見があがりました。
自分がそこまで必要と感じていないこと、意味がないと思っていることをやらなければならない時を想像してみてください。ただやみくもに続けていても時間ばかりかかってしまったり、気づいたら目標から離れていたり……ということがあるかもしれません。
単に継続するよりも、その意味や意義を理解することで得られる学びは大きいと言えます。せっかく同じ時間継続するのであれば、それだけ充実した学びや成長になった方が良いですよね。「目標をもつこと」が継続を通した成長のヒントとなれば嬉しいです。
ー “プロセスに着目することが大切”というお話がありましたが、どんな場面でその違いを感じられますか?
杉山さん:例えば、2人の子どもが水泳を習ったとします。
Aちゃん親子は、子どもの健康面や体力面を考え、身の安全を守るうえでも「いずれは25メートルくらい泳げるようになっていた方が良いな」といった保護者の想いで水泳教室に通いはじめたとします。
一方、Bちゃん親子は、子どもと話しながら「水を怖がらずに顔をつけられるようになる」「壁につかまって横歩きをする」「ビート板を使って5メートル泳ぐ」といった目標を立て、クリアしたら「できた!」を共有し、その先水泳を続けるかやめるかを話し合ったとします。
時が経ち、2人とも10メートル泳げるようになった時点で水泳をやめたとします。するとどうでしょうか。Bちゃんは、目標を一つずつクリアするたびに小さな達成感を積み重ねてきたことで、最終的に大きな自信につながったことが想像できます。一方のAちゃんは、達成までの手応えがないままなんとなく水泳をやめてしまったような、少し“諦めに近い感覚”が残ってしまうかもしれません。
| Aちゃん親子 | Bちゃん親子 |
|---|---|
|
・「いつか25m泳げるように…」という保護者発の期待でスタート ・小さな目標設定はなし ・なんとなく続け、なんとなく終了 |
・子どもと一緒に小さな目標を設定 (顔つけ → 横歩き → ビート板5m) ・できた!を共有しながら継続 ・達成感を積み重ねて終了 |
このように、同じ結果が得られてもプロセスが異なることで、全く異なる感情・自信・自己肯定感が創られると思います。単に続けるだけでなく、小さな目標をクリアしながら継続することで自信を蓄積し、自分の目標に主体的に行動できることにつながるかもしれません。
ー 先ほどの例でも、プロセスの違いで得られる体験が変わることがよく伝わりました。単に「続ける」と「目標を持って続ける」の違いはどんなところにあるのでしょうか。
杉山さん:先ほどは、継続する意味を理解して取り組むことで、より早く自分の望む方向を見出し、充実した時間を過ごすことのできる可能性についてお話ししました。その上で「目標を持つ」ことが大切なのは、一つ一つ明確な目標を立てやり切ることで、その達成感が自分自身の自信として積み上がっていくところだと思います。
この目標を達成し積み重ねていく過程では、自分の好きなことや得意とすることが見えてきたり、挑戦する楽しさを見出せたりするようになります。そして、やがて私たちの自信につながり、クリアできたら「次はこうしよう!」といったように、自ら突き進んでいくための原動力にもなってくれます。
ここでもう一つ大切にしたいポイントがあります。それは、目標を高くしすぎないことです。目標や夢が大きければ大きいほど、一気にそこへ到達することはできないですよね。そのため、そこからブレイクダウンして小さな目標としていくことで、実行可能なタスクに変えていくことが大切です。これは、子どもの習い事においても同じことが言えます。
大きな夢や目標をそのまま追うのではなく、実行可能な“小さなステップ”に分解することで、日々の達成感が生まれ、続ける力や挑戦する原動力につながります。
保護者の方から「どこまで続けるといいのか?」と相談を受けることがありますが、こうした“小さな目標に分ける視点”は、続けるかどうかを考える場面でもとても役に立ちます。
ー 「続ける」とは、どれくらいの時間軸で考えるとよいのでしょうか。
杉山さん:時間軸で考えると、基本はあまり長くない方が良いと感じています。「目標を高くしすぎないことがポイント」とお伝えしたように、達成感を得られる間隔を短くすることで自信を得られやすくなるように思います。
けれども、年齢や発達、個々の性格によってもその時間をどれくらいにするかは変わってくるように思います。例えば、忍耐強く、チャレンジングな課題を好む子どもがいた場合、簡単に達成できてしまう目標より、少し頑張ることで達成できるところを設定することで、よりその子の可能性が伸びると考えられます。
そういった場合には、少し難しい目標(時間も少し長めになる)を一緒に考えることで、忍耐強さを活かしつつ、課題を達成する楽しさを体験することができると思います。
ー 目標に届かなかったり、続けられなくなった時、大人にはどんなサポートができるのでしょうか。
杉山さん:まずはその目標設定が「今の子どもに適していたのか」を振り返る良い機会だと思います。その目標に対してかけられる時間は確保できていたでしょうか? 目標をクリアできる上で必要なスキル・知識は持っていたでしょうか? その目標達成を助けてくれる周囲の協力を、十分に得ることはできたでしょうか? などなど……。
- ✔ 目標に取り組む時間は確保できていたか?
- ✔ 必要なスキル・知識は備わっていたか?
- ✔ 周囲の協力は得られていたか?
目標を達成するうえで必要な時間、スキル、知識、周囲の協力を含めて、その時の子どもを知ることがヒントになると感じています。つまり、この目標設定をプロセスとして考えることが、可能性を広げることにつながるといえます。
これは例えばスポーツや受験といった大きな目標に関して、結果を目標にすると勝つか負けるか、受かるか落ちるかになります。そうすると、負けたら失敗、落ちたら失敗となり、続けることができなくなってしまいますね。結果を大きな目標として設定することは良いと思いますが、そのために何をすべきかを具体的に考え、小さなプロセスを設定できると良いと思います。
以前保育園で、先生が子どもたちにテニスを教えていた際、「子どもたちの集中力が続かないし、なかなかスキルが上がらない」と相談を受けたことがあります。その様子を見てみると、やろうとしていたことが、その子どもたちには難度が高いことが分かりました。
私はその先生に、まずは勇気をもってレベルを下げて、子どもたちができそうなことを考えてもらいました。すると子どもの集中力がみるみるうちに回復し、楽しみながらテニスに取り組むことができました。そして、少しずつ段階を経ていくことで難しいレベルのメニューも達成することができた、と報告してくださいました。
その時先生は、レベル設定の重要性を理解してくださり、「子どもたちができなかった時に、段階を下げる勇気を持ちます!」と言ってくれたことが印象に残っています。
| Before | After |
|---|---|
| メニューの難易度が高かった | 難易度を調整し、取り組みやすい内容に変更 |
| 集中が続きにくい状態が見られた | 集中が持続しやすい状況が生まれた |
| 取り組みに対する手応えが得られづらかった | 達成経験が積み重なり、上達が見られた |
この事例からも、保護者や保育士といったその子どもをよく理解する大人が、共に目標を考えていただくことで、その子が継続することを通して成長する鍵となることがよくわかりますね! 高みを目指すほどスムーズにいかないことはあると思いますが、そんな時こそハードルを下げる勇気を持ってみることをおすすめしたいです。
ー 杉山さんご自身や、現場で出会った方々が「続けたことで生まれた変化」のエピソードがあれば教えてください。
杉山さん:私たちがこの「目標をもって続ける」ことの実践でルーティンワークを使うことがあります。これはイチロー選手が使用していたことでも有名ですが、自分のやりたいことを達成するために小さな目標を羅列したリストのようなものです。
私の姉、杉山愛も現役当時は30ものルーティンワークがあり、起床後の呼吸法に始まり、ストレッチ、朝食……といったことを毎日、何十年も続けていました。そこまで多くはなくても、ルーティンワークによって自分が望む生活に近づけた保育士の先生のこんなエピソードが印象深く残っています。
C先生は、保育の仕事が終わると疲れてしまい自分の時間を取る余裕もなく、休日も疲れすぎて寝て終わってしまう生活を送っていました。平日は帰宅するとぐしゃぐしゃになったベッドにすぐ寝てしまうこともあり、休日には料理を作りたいと思っていたのに、台所に食事のトレーや汚れた食器が溜まっている状態を見ると、そんな気にもならない……。「こんな生活で良いのかな…」と落ち込んでしまうことを教えてくれました。
C先生とのお話を通して、先生の起床と食事を少し変えることを一緒に考えてルーティンワークに落としてみました。このルーティンワークでも先ほどお話しした目標と同じように、変えたいと思うことを一気に羅列するのではなく、自分ができそうなことを記載することが大切です。そして、80%達成できたら次の目標を加える、という形で行っていきます。
C先生は、自分のルーティンの中に「朝ベッドメイキングをする」「コンビニで買ってきたものを食器に移してから食べる」という目標を入れました。これらを1週間やってみると、C先生は「帰ってきた時に整ったベッドを見ると気持ちが良い!」、「食器に移して食べると、同じコンビニのごはんもおいしく感じる」と教えてくれました。
そしてそれを楽しみながら継続することができたC先生は、少しずつ片づけをする気になったり、休日には料理を作る気になったり、人と出かけたりと、次々と生活に変化が起きていったのです。
日々にメリハリがもどり、保育も休日もイキイキと過ごせるようになったC先生の姿から、「目標を持って続けることの大切さ」を実感しました。私はこの変化にとても驚かされると同時に、小さな達成感の積み重ねが成せる業を実感しました。
今回の「目標をもって続ける」ことにおいても、どのように目標を設定するかがとても大切であることが見えてきたと思います。その過程では、子どもの現状を知ることや、何を達成したいかを具体的にするといった作業が必要となり、正に大人と子どもが共に育つ機会であると感じています。この考え方が、みなさんが目標を立てて続けていくうえで、少しでも楽しさを感じられるヒントになれば嬉しいです。
【編集後記】
杉山さんのお話から、目標を「続ける」だけでなく、小さなステップに分けて取り組むことの大切さを改めて感じました。子どもが自分のペースで“できた!”を積み重ねていくプロセスは、大人にとっても気づきや学びにつながりますね。
うまくいかない時こそ、目標を下げる勇気を持つこと。そうした柔らかな関わりが、子どもの自信や主体性を育てていくのだと実感しました。
次回は、10ヶ条の五つ目「正しい答えは一つではないことの大切さ」です。どうぞお楽しみに!
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インタビュイー:杉山 舞(すぎやま まい)
一般社団法人 次世代SMILE協会 主任研究員。社会福祉士。国際バカロレア教員資格(初等教育プログラム:PYP)保有。「共に育つ=共育」を理念に、保育者や保護者、子どもたちが互いに学び合うプログラムを企画・運営。スポーツを通じて“生きる力=人間力”を育む「スマイルシップスポーツ」を実践し、保育や子育て現場への応用にも力を注いでいる。母は元プロテニスプレーヤー・杉山愛さんのコーチを務めた杉山芙沙子さん。