こんにちは! ウェルミ―ジョブ編集部員の田上です。
「保育の味方!子どももおとなも“共に育つ”ための10ヶ条」では、一般社団法人次世代SMILE協会の杉山舞さんをお迎えし”保育のヒント”を探っていきます。
第五回目のテーマは、「正しい答えは一つではないことの大切さ」。これは、次世代SMILE協会が提唱する「人の可能性を伸ばす10の黄金法則」(以下、10ヶ条)の五つ目に掲げられています。
ー 世間では「何が正しくて、何が間違いか」にこだわる大人も多いと思います。スマイルシップスポーツ(以下、SSS)では、なぜ「正しい答えは一つではないこと」を重視しているのでしょうか。
杉山さん:「正しい答えは一つではないことの大切さ」とは、出来事や事象に対して感じること、考えることが人それぞれ異なり、その一つひとつが正しいことを表しています。
SSSでは、子どもの自由な発想や表現を育んでいきたいという想いがあります。その際、コーチの持つ答えや考えだけが「正しい答え」になってしまうと、子どもたちはその世界の中でしか成長できなくなってしまう可能性があります。
たとえば鉄棒ひとつとっても、大人が「難しいもの」と思い込んで指導してしまうと、鉄棒本来の楽しさが伝わりにくくなる可能性があります。初めて触れる子どもにとっては「楽しい」「面白い」と感じる子もいれば、「難しい」と感じる子もいるでしょう。
SSSのコーチは「正しい答えは一つではない」という姿勢を大切にしながら、子どもたちと同じ世界を見て一人ひとりが何を感じ、何に興味を持っているのかを一緒に探していきたいと考えています。
私たち大人はこれまでの経験を通して、好きなこと・得意なことだけでなく、苦手なことも分かるようになってきます。そうした自分なりの「正しい答え」を大切にしつつ、「この子にとってはどうだろう?」と視点を広げてみると、面白い発見があるかもしれません。
ー 子ども・大人を問わず「正しい答えは一つ」だと視野が狭くなっているとき、どのように心を拡げていくと良いのでしょうか。
杉山さん:視野が狭くなっているとき、様々な事象(ルール)に対して「こうあるべき」という想いが強くなりすぎる傾向があるのではないかと思います。信念を持つこと自体はとても素敵なことですが、それが強すぎると知らず知らずのうちに相手に押し付けてしまったり、相手の可能性を育むことを抑えてしまったりと、他者との関係性において勿体ない結果を生んでしまうように思います。
心を拡げるために、自分の「こうあるべき」を一度明確にし、そのうえで「ここまではOKかもしれない」という許容範囲を考えてみることをおすすめします。
実際にSSSを導入したある園のA先生は、「話をよく聞き、積極的に取り組んでほしい」という強い想いを持っていました。そのため、参加しない子どもに「やってみたら楽しいよ、やってみようよ」、「この前できていたじゃない、またできるよ」と声をかけ続けた結果、子どもは泣いてクラスに戻ってしまったそうです。
このように活動に取り組むことだけが正解になってしまうと、本来スポーツで得られる「人のことを見る」、「応援する」といった様々な力を育む機会を奪ってしまう可能性があることがわかります。
A先生から相談を受けた際、元々感じていた正しい答えから「まぁそれもいいか!」と思える子どもの行動を共に考えました。
・説明を聞いている
・お友だちの様子を見ている
・お友だちを応援している
・部分的にでも取り組んでいる
こうした行動も「それもいい」と捉えられるようになると、先生自身の気持ちが楽になり、子どもをほめる場面が増えたと教えてくださいました。
ストイックな先生ほどこうした思考になりやすいと感じますが、ご自身のOK範囲を考えてみることで、今まで気づかなかった子どもの姿やご自身の新たな一面を発見できるかもしれません。
ー 人を傷つけたり、危ないことなど「間違っていること」を伝える必要がある場面では、どのように関わるとよいでしょうか。
杉山さん:人として大切なことを伝えることはとても大事ですよね。その際には、なぜそれが大切なのかを一緒に考えたり、まだ子どもが幼くて分からない場合は丁寧に教えたりすることが必要だと思います。
たとえば、お友だちのことを叩いたり順番を抜かしたりする場面は、保育の集団生活の中で日々起こり得ることです。その時に相手がどう思うか、自分が同じことをされたらどう感じるか、といった対話を通して感情やそれに伴った行動について理解を深めていくことが大切だと感じます。
もう一つ重要なポイントは「伝えて終わりにしないこと」です。改善できたときに
「お友だちのことを考えられたね」
「順番、守れたね」
と承認することで、子どもは「これでいいんだ」と自信を持って理解することにつながります。
ー SSSにおける「正しさ」とは何でしょうか?
杉山さん:SSSではまず「正しさ」が多様であることを互いに知ることを大切にしています。それは自分や周りの人の意見、考え、そして存在そのものが大切であることにつながっています。
SSSではスポーツを通じてコミュニケーションを学びますが、スポーツにはルールがあり、全員が楽しむためにはそのルールを守ることが求められます。
たとえば、周りを見ずに道具を振り回せば他の人を怪我させてしまうかもしれませんし、人の気持ちを考えずに発言すれば相手の感情を傷つけてしまうかもしれません。そうした意味でSSSの現場における「正しさ」は、楽しむことを通して、子どもとコーチが共に作り上げている感覚だと感じています。
この「正しさを共に作り上げる」経験の中で、印象深く残っているエピソードがあります。
ある園での野球活動でメニューの難度が上がったときのことです。「よし!負けないぞ!」と前向きになる子もいれば、不安そうな表情を見せる子もいました。
その様子に気づきながらも、子ども同士で何かを話し合っている様子が見られたため、私はやる気満々の子どもからメニューを進めようとしました。
すると、話し合っていた子どもの一人が私のところに来て「〇〇ちゃんは追いかけられるのが嫌みたいだから、誰も追いかけないのも選べるようにするのはどう?」と提案してくれたのです。
その言葉から、子どもたちの人を思いやる気持ちや、どうすれば全員が楽しめるかを考える力、そして「そのクラスの正しさ」を感じることができ、私はとても感動しました。その子から「正しい答え」をもらい、すぐにその案を実行したことで、それぞれの気持ちに寄り添った形でチャレンジを楽しむことができました。
このような経験から私は、SSSでの「正しさ」は子どもたちの中にあり、それを引き出し共に考えることがコーチに求められていると学びました。
ー 「正しい答えは一つではない」ことを知ったことで、子どもたちにはどんな変化がありましたか。
杉山さん:私がSSSに取り組みはじめた頃、「サークルタイム」という振り返りの時間で学んだエピソードがあります。
あるとき、一人の子が「面白くなかった」と教えてくれました。私は少し驚くと同時に、「楽しそうに参加してくれていたけれど……何がいけなかったのだろう?」と、心の中で焦りを感じたことを覚えています。
しかし同時に、面白くなかったことを聞いてみたいと思い、その子に尋ねてみました。
私:「そうなんだね。面白くなかったんだね。何が面白くなかったの?教えて」
子ども:「あのね、窓が白かったから」
私:「……!! 窓が白くて、お外が見られなかったから面白くなかったの?」
子ども:(うなずく)
私:「そうか、白くて電車が見えなかったのが面白くなかったんだね。教えてくれてありがとう」
このやり取りを通して、活動そのものとは異なる視点で子どもの気持ちを教えてくれたことがわかりました。子どもは大人よりもずっと広く多角的に世界を見ていると、あらためて実感した瞬間でもありました。
仮にその場で子どもの言葉を受け止めきれずにいたら、「楽しいことは一つくらいあったはずだよね?」と無理に引き出したり、「楽しくなかったんだね、ごめんね」と勝手に落ち込んだりしたかもしれません。そして何よりも、この子の気づきや見ている世界を知ることなく終わっていたように思います。
この出来事をきっかけに、「正しい答えは一つではない」という考え方が、子どもの気づきや可能性を拡げるうえで欠かせないものだと改めて感じました。
先生方や保護者の皆さまも、子どもが自分の考えとは異なる発言や行動をとった際、何がその行動の元となっているのかを考えたり、どうしてそう思うのかを聞いてみたりすることで、想像していなかった発想を学ぶことができるかもしれません。ぜひその世界を楽しんでみてはいかがでしょうか。
【編集後記】
杉山さんのお話を通して、「正しい答えは一つではない」という視点が、子どもだけでなく大人自身の心にも余白をもたらしてくれると感じました。
日々の中で立ち止まり、子どもの言葉や行動に耳を傾けてみること。その小さな「気づき」が、関係性を深め、共に育つ時間につながっていくのかもしれません。
次回は10ヶ条の「絶対評価であることの大切さ」をテーマにお届けします。どうぞお楽しみに!
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インタビュイー:杉山 舞(すぎやま まい)
一般社団法人 次世代SMILE協会 主任研究員。社会福祉士。国際バカロレア教員資格(初等教育プログラム:PYP)保有。「共に育つ=共育」を理念に、保育者や保護者、子どもたちが互いに学び合うプログラムを企画・運営。スポーツを通じて“生きる力=人間力”を育む「スマイルシップスポーツ」を実践し、保育や子育て現場への応用にも力を注いでいる。母は元プロテニスプレーヤー・杉山愛さんのコーチを務めた杉山芙沙子さん。