保育の味方!子どももおとなも“共に育つ”ための10ヶ条【#6 絶対評価であることの大切さ】

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保育の味方!子どももおとなも“共に育つ”ための10ヶ条【#6 絶対評価であることの大切さ】

こんにちは! ウェルミ―ジョブ編集部員の田上です。

「保育の味方!子どももおとなも“共に育つ”ための10ヶ条」では、一般社団法人次世代SMILE協会の杉山舞さんをお迎えし”保育のヒント”を探っていきます。

第六回目のテーマは、「絶対評価であることの大切さ」。これは、次世代SMILE協会が提唱する「人の可能性を伸ばす10の黄金法則」(以下、10ヶ条)の六つ目に掲げられています。

人の可能性を伸ばす10の黄金法則

ー 「絶対評価」とは、どのような考え方にもとづく評価方法なのでしょうか。

杉山さん:絶対評価とは、その人が昨日より今日、今日より明日、どのように変化し成長しているかに着目して評価する考え方です。これに対する言葉として、相対評価があります。相対評価は、他者との比較の中でその人の位置を捉える評価方法です。

日本の教育においては、1990年代までは主に相対評価によって学習の評価が行われていました。しかし2000年前後の制度転換により、現在の学校教育では絶対評価が評価の中心的な考え方となってきています。ただし、入試制度などの選抜の場面では相対評価の視点が完全になくなったわけではない、というのが実情です。

スマイルシップスポーツ(以下、SSS)では絶対評価を大切にしています。その理由の一つには、子どもたちの能力やスキル、そしてそれらを獲得するタイミングが一人ひとり異なることが挙げられます。特に、ゴールデンエイジと呼ばれる時期にはわずかな期間でも発達の差が大きく現れることあります。そのような一人ひとりの変化や成長に気づくことを助けてくれるのが絶対評価という視点であり、SSSの活動において欠かせない大切な考え方であると感じています。

杉山舞さんと子どもたち

ー 「絶対評価を大切にしたいのに、つい他の子どもと比べてしまう……」と悩まれる方も。そんなとき、発想の転換や声かけの仕方などアドバイスがあれば教えていただけますか。

杉山さん:つい相対評価に偏ってしまう……という方は、ご自分の経験、これまで育ってきた環境が影響し、絶対評価を困難にしている可能性があると思います。

例えば、「これまで相対評価で育ってきたため自身の感覚として絶対評価を持ち合わせていない」、または「自身の経験から相対評価の良さを感じていて絶対評価の価値がよくわからない」等が考えられるかもしれません。

私がこれまでにSSSの研修を通して関わってきた保育士の先生方の中にも、ご自分が他者と切磋琢磨することで目標を達成できたことから、相対評価による価値を見出されていた方がいらっしゃいました。一方で、競技に取り組む中で他者と比較され続けたことにより劣等感を感じてしまい、その競技から距離を置いてしまった方もいます。

このように、私たちは良くも悪くも自分自身の経験が元となり、おそらく一番良いであろうと感じることを子どもたちに提供したいと思うのではないでしょうか。

ここで大切なことは、絶対評価もしくは相対評価が「その子にとってどう影響するのか」を考えることだと思います。

絶対評価はその人の変化や成長に注力していることから、子どもは「昨日の自分よりできるようになったか」、「どんな工夫をしたか」といった自分自身のプロセスに目を向けやすくなります。このような環境では失敗も成長の一部として受け止めやすくなり、挑戦する意欲が保たれやすいともいわれています。

一方で、社会の中には入試や試験、スポーツの大会など、他者との比較を通して選抜される場面も存在します。相対評価は決して悪いものではなく、努力の方向性を明確にしたり、互いに高め合ったりするきっかけになることもあります。実際に誰かの姿に刺激を受けて努力を重ねた経験を持つ方も多いのではないでしょうか。

そのため、絶対評価と相対評価はどちらか一方が正しいというものではなく、それぞれが持つ役割を理解しながら、子どもの成長にどのように活かすかを考えることが大切なのだと思います。

特に幼児期や児童期の子どもたちにとっては、まず自分の変化や成長に気づき「できるようになった」「工夫したらうまくいった」という実感を積み重ねることが学びへの意欲の土台になります。子どもの性格によっても、競争することを好む子もいれば、一人で黙々と熱中することを好む子もいますよね。そういった「個の特徴」を捉えて活かすためには、どのような評価や環境がその子にとって適しているかを考えられると良いと思います。

その上で大人が意識したいのは「評価の方法」だけではなく、「どのような言葉で子どもに伝えるか」という点です。同じ出来事であっても、声のかけ方によって子どもの受け取り方は大きく変わると感じています。

例えば、かけっこ等で子どもが「自分が一番速かった」と教えてくれたときに、「そうだね、他の誰よりも速かったね!」といった相対評価による結果だけを伝えると、子どもは比較の中で自分を評価する感覚を強めてしまうかもしれません。一方で「他のお友達も頑張っていたし、あなたも最後まで集中して走りきったね!」と伝えると、他者の存在を認めながらも、自分自身の成長に目を向けることができます。

■声かけの違いの例

子ども:「自分が一番速かった!」

相対評価の声かけ 絶対評価の声かけ
「そうだね、他の誰よりも速かったね!」 「他のお友達も頑張っていたし、あなたも最後まで集中して走りきったね!」
走り切った子どもと保育士

私たち大人が完全に相対評価をなくすことに注力するよりも、「その子がどう変化したのか」、「どんな挑戦をしているのか」に目を向けることで、日々の関わりのなかで絶対評価を実践することができます。ぜひその変化を楽しみながら、絶対評価の楽しさを味わってもらえたら嬉しいです。

ー 「絶対評価」と「相対評価」では、評価された子どもの言動や成長にどのような違いが見られるのでしょうか。

杉山さん:まず相対評価は、他者との比較の中で自分の位置を知る評価です。そのため子どもは「誰より速いか」「何番だったか」「周りよりできているか」といった視点で自分を見つめます。このような環境では競争心が生まれたり、互いに刺激を受けて努力したりする姿が見られることもあります。

一方で、常に比較され評価される環境では「あの子よりできた」「あの子にはかなわない」といった意識が強くなりやすいとも言われています。つまり、自分の目標が「他の誰か」になりやすいといえます。

誰かを超えることが一つの達成になったとしても、さらに大きな世界に出ればまた別の比較が生まれます。その繰り返しの中で、自分の可能性よりも周囲との優劣が基準となり、「どうせかなわない」と感じてしまう子どもが出てくる可能性もあります。心理学では、このように他者との優劣を中心に動機づけられる状態を「パフォーマンス志向」と呼ぶことがあります。結果や順位が大きな意味を持つため、うまくいったときには大きな達成感を得られる一方で、失敗を避けようとして挑戦を控えてしまう傾向も見られると指摘されています。

それに対し絶対評価は「その子がどのように変化したか」「どのような成長があったか」に目を向ける評価です。昨日よりできるようになったこと、工夫して取り組んだこと、自分なりに努力した過程などが大切にされます。

このような環境では、子どもは他者との優劣ではなく自分自身の変化を基準に物事を捉えやすくなります。教育心理学では、こうした学び方を「マスタリー志向」と呼びます。目標は他者を上回ることではなく「理解すること」「できるようになること」です。そのため、失敗も「できなかった」という終わりではなく「次はどうすればできるだろう」という挑戦につながりやすくなります。

評価の視点 相対評価 絶対評価
子どもの意識 「誰より速いか」「何番だったか」 「昨日よりできたか」「どう工夫したか」
動機づけ パフォーマンス志向(順位・結果) マスタリー志向(理解・上達)
特徴 競争心が育つ/比較意識が強くなる 挑戦し続ける姿勢が育つ

私自身は、絶対評価の良さはここにあるのではないかと考えています。自分自身と向き合いながら少しずつ前に進んでいくことで、子どもは枠にとらわれることなく自分の可能性を広げていくことができます。比較の中で目標を決めるのではなく、「自分はどこまでできるのだろう」と考えながら進んでいくことができるからです。

私自身もSSSでたくさんの子どもたちと関わるなかで、子どもたちの成長の過程における環境設定や声かけの工夫によって、子どもたちに強い心が育まれていくことを実感しています。

例えば次のようなエピソードがあります。

絶対評価の関わりで変化した子どものエピソード

ある保育園ではじめて出会った年少のAくんは、話をよく聞けることに加えて、見本通りにテニスやゴルフに取り組むことができました。しかし、レベルが上がっていくにつれてボールが当たらなくなると、その場に居られないほど落胆してしまう様子が見られました。新しいことに挑戦することを恐れ、自信をもって取り組むことができませんでした。

その特徴を把握した私たちは、難しいことに取り組むのではなく、易しく基礎的な段階を十分に行う形で進め、できるようになったことを具体的に伝えるよう心掛けました。また、結果が上手くいかなかったとしても、フォームの素晴らしさ、的の狙い方、集中している様子等について伝えていきました。

すると年長になったAくんは、スキルが著しく上達したばかりでなく、自分の出来具合を受け止め、どんなことにも積極的に挑戦できるようになっていったのです。そして、結果が上手くいかなかった時も、こちらのアドバイスに耳を傾けて再度挑戦することができるようになり、サークルタイムにおいても「〇〇が難しかったけど、頑張った」と発言してくれるようになりました。

このように、個の発達や性格に応じて絶対評価の視点を持つことは、その子の得意なことや好きなことを活かすことにつながります。そしてそれは子どもが自分自身と向き合い、自ら強くなっていくことを支える関わりであると感じています。

ー 「絶対評価」の考え方は、10か条のひとつ「気づくことの大切さ」とも深く関わっているように感じました。杉山さんの考えをお聞かせいただけますか。

杉山さん:おっしゃる通り、10ヶ条はそれぞれが独立しているものではなく互いに関係し合っているものだと思います。その中で、絶対評価の実践に大きく影響する要素の一つが「気づく力」であると思います。「気づくことの大切さ」では、私たち大人の“気づきのアンテナ(感度)”は、自分の関心があることや知識を持っていることほど高まりやすい、というお話をしました。これは絶対評価にも通じる点だと感じています。

子どもの発達段階や性格を理解しようとしたり、絶対評価という考え方について理解を深めたりすることで、私たちは子どもの小さな変化や成長に気づきやすくなります。そうした気づきがあるからこそ、「昨日よりできるようになったこと」や「その子らしい努力」を見つけることができ、絶対評価の視点を実践しやすくなるのではないでしょうか。

今回の内容を通して、絶対評価と相対評価それぞれの特徴を捉えたうえで、「子どもにとってどうか」という視点で考えるきっかけになれば嬉しく思います。そして、子どもたち一人ひとりの可能性が大きく発揮されるための一助となれば幸いです。

【編集後記】
「誰かと比べる」のではなく、「昨日の自分と比べる」。杉山さんのお話を伺いながら、その視点の大切さを改めて感じました。子どもの小さな変化や挑戦に気づくことができたとき、大人の言葉や関わり方も自然と変わっていくのかもしれません。日々の保育の中で、子ども一人ひとりの成長を見つめ、その過程を共に喜べる関係を育んでいけたら素敵ですね。
次回は10ヶ条の「何でも楽しくしてしまうことの大切さ」をテーマにお届けします。どうぞお楽しみに!

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杉山 舞(すぎやま まい)

インタビュイー:杉山 舞(すぎやま まい)

一般社団法人 次世代SMILE協会 主任研究員。社会福祉士。国際バカロレア教員資格(初等教育プログラム:PYP)保有。「共に育つ=共育」を理念に、保育者や保護者、子どもたちが互いに学び合うプログラムを企画・運営。スポーツを通じて“生きる力=人間力”を育む「スマイルシップスポーツ」を実践し、保育や子育て現場への応用にも力を注いでいる。母は元プロテニスプレーヤー・杉山愛さんのコーチを務めた杉山芙沙子さん。

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