こんにちは! ウェルミ―ジョブ編集部員の田上です。
「保育の味方!子どももおとなも“共に育つ”ための10ヶ条」では、一般社団法人次世代SMILE協会の杉山舞さんをお迎えし”保育のヒント”を探っていきます。
第八回目のテーマは、「励ますことの大切さ」。これは、次世代SMILE協会が提唱する「人の可能性を伸ばす10の黄金法則」(以下、10ヶ条)の八つ目に掲げられています。
良い励まし方とは?まずは「気持ちを受け止める」ことから
子どもを励ます場面は日々ありますが、「良い励まし方」とは具体的にどのようなものなのでしょうか。
私たちは日々様々な経験をする中で、時には思うような結果につながらず、悲しさや悔しさを感じることがあると思います。10ヶ条の「励ますことの大切さ」では、うまくいかなかった際、まずはその時の気持ちを受け止めてから、解決策を共に考えていくことの重要性を表しています。
例えば、自分が落ち込んでいるときに「仕方がないよ、また頑張ればいいよ!」「大丈夫、次はきっとできるよ!」と励まされたとしても、どこか自分の気持ちが置き去りにされたように感じた経験はないでしょうか。
私たちは、自分の感情を理解してもらえたと感じることで、少しずつ気持ちが整理され、再び前を向く力を取り戻していけると感じます。そのため10ヶ条では、まず「そうか、それは辛かったね」「悔しかったね」と相手の気持ちを受け止め、その人が今どのような状態にあるのかを知ろうとすることを大切にしています。
実際の保育現場で「励ますことの大切さ」を感じたエピソードがあれば教えてください。
スマイルシップスポーツ(以下、SSS)を取り入れている保育園では、先生方がスポーツを通じて子どもたちと関わり、コミュニケーションを重ねることで、個々の好きなことや得意なことを見出すことを目指しています。スポーツ競技によっては試合をすることもあり、勝敗を通して子どもたちの中に、喜びや悔しさなど様々な感情が生まれます。
例えばサッカーの接戦の末、片方のチームが負けて大泣きするほど悔しい想いをすることがありました。まだSSSをはじめたばかりだったA先生は、「皆よく頑張ったね!次はもっと練習して、勝てるように頑張ろう!」と子どもたちを励ましました。しかし、子どもたちは一向に泣き止むことなく、クラスへと戻っていきました。
振り返りの際に、A先生のお話を伺うと、「早く子どもたちを元気づけてあげたかった」と教えてくれました。
このように、すぐ立ち直ってほしいが故に、感情を受け止める前に励ます場面を見かけることがあります。けれども、試合に負けてしまった時や実力を発揮できなかった局面にこそ、相手の感情と向き合い、そこにどう対応していくかを共に考える良い機会となると感じています。
A先生はこうした経験から、その後子どもたちの気持ちを聞くことができるようになりました。すると子どもたちは、「負けて悔しかった。でも、〇〇くんはボールを止めるのが上手だった」「次は友達がいない所を狙ってボールを蹴ろうと思った」と次々にアイデアを話してくれたそうです。
A先生は、「子どもは自分が思っていた以上に強く、自分で考える力を持っていることを教えてもらいました」と話してくれました。
このように、悲しい、悔しい等の感情を一緒に受け止めることは、子どものレジリエンス(困難やストレスを受けてもしなやかに立ち直り適応していく力)や、自ら考える力を育てることにつながると感じています。そのためには、たとえ大人に答えがあったとしても、子どもの力を信じ、まずは子ども自らの想いや気持ちに耳を傾ける姿勢が大切だと感じています。
子どもの力を引き出す「励まし方」のコツ
子どもを上手に励ますために、日頃から意識すべきことはありますか?
子どもより多くの経験をしてきた私たち大人は、「こうしたらもっと上手くいく」という方法を子どもより多く知っているかもしれません。そのため、子どもが苦しんでいる姿を見ると「こうしたら良いと思うよ」と、つい教えたくなることがあるのではないでしょうか。
けれどもまず大切にしたいのは、その子どもが何を感じ、何を考えているのかを知ろうとすることだと思います。
なぜならば、子どもの気持ちや発想の中には、大人が思いもよらない考えや気づきが含まれていることがあり、大人の正解を伝えることで、その自由な思考の広がりを狭めてしまう可能性があるからです。
例えば、
「〇〇くんにはどう見えていたのかな?」
「どんなこと考えていたの?」
「今考えると、どんなことができそうかな?」
といった問いかけは、子ども自身が気持ちを整理するきっかけになります。そして、答えを急がず、その子が言葉を探す時間を待つことも大切だと思います。
子どもにとって「話を聞いてもらえた」「気持ちを受け止めてもらえた」という経験は、大人への信頼につながります。適切な言葉がすぐに見つからなくても、子どもと共に考え、答えを見出そうとするその姿勢そのものが、子どもにとって励ましになるのではないでしょうか。
子どもに改善点を伝えるとき、どう声をかければよいのでしょうか。
10ヶ条の「励ます」では、一度相手の状況や気持ちを受け止めた後に改善策を共に考えていく大切さをお伝えしています。
改善点について話し合ったり、時にアイデアとして大人から提案したりすることは必要だと思いますが、そのタイミングを見極めることが大切だと感じています。どんなに正しいアドバイスであっても、相手が悲しさや悔しさでいっぱいの時には、それらは届きにくいものではないでしょうか。そのため、まずは相手の気持ちを受け止め、落ち着いてから一緒に次の方法を考えることで、子ども自身もその改善点を自分のこととして受け止めやすくなります。
幼児や青年期のスポーツ現場においても、失敗したことでガッカリしていた子どもが大人の叱咤激励により更に傷つき、大人の目を気にしてしまって集中できなかったり、心を閉ざしたりしてしまった例を見聞きすることがあります。子どもへの愛情のつもりが、少しの掛け違いで子どもに伝わらないどころか、子どもの可能性を狭めてしまうとしたらとても残念ですよね。
改善点を伝える前に、まずはその子が今どのような気持ちでいるのか、何を感じ、考えているのかに目を向けてみてもらえると良いかもしれません。その一呼吸が、子どもに考える余白を与え、自分自身の力で前へと踏み出す力になると感じています。
■子どもを励ますときの3つのポイント
①まずは気持ちを受け止める
→「悔しかったね」「頑張ったね」と、結果よりも気持ちや努力に寄り添う。
②すぐに答えを教えない
→子どもの考えを引き出す問いかけを大切にし、自分で考える時間を待つ。
③改善点は落ち着いてから一緒に考える
→感情が整理されたタイミングで、「次はどうしたらよさそう?」と一緒に考える。
保育士同士も「励まし合える」職場へ
「励ますことの大切さ」は大人にもあてはまりそうです。保育士同士が励まし合える職場にするために大切なことは何でしょうか?
忙しい職場において大人同士が励まし合えることは、その場の雰囲気や働きやすさを左右するという点でも、とても大切だと感じています。「気持ちを受け止めてもらいたい」「自分の頑張りを見てほしい」と感じているのは、私たち大人も同じなのではないでしょうか。実際に、私たちは自分の強みが認められ、「あなたならできる」と信じてもらえたときにこそ、本来の力を発揮しやすいことが心理学の研究からもわかっています。
しかし、余裕がなかったり、思うように進んでいなかったりすると、相手を思う気持ちがあるからこそ、「もっとこうした方が良い」「なぜこうなってしまうのだろう」と、できていない部分に目が向いてしまうことがあるかもしれません。
まずはその人が困っていることや落ち込んでいることに耳を傾け、「今、〇〇さんはこういう状況なんだね」と、同じ景色を見ようとするところから始めてはいかがでしょうか。
「分かってくれる人がいる」「見てくれている人がいる」という感覚は、人が「自分にもできるかもしれない」と思える自己効力感を高め、新しいことへの挑戦につながっていきます。そして、そのような小さな励ましの積み重ねが、互いを支え合う働きやすい環境を育てていくと感じています。
■励まし合える職場をつくるために
①まずは相手の話を聞く
→困っていることや気持ちに耳を傾け、相手の状況を知ろうとする。
②「分かってくれる人」がいる安心感をつくる
→自己効力感が高まり、新しいことへ挑戦する力につながる。
③小さな励ましを積み重ねる
→日々の声かけや気遣いが、支え合える職場づくりにつながる。
「励まされる経験」が子どもの成長につながる
「励まされること」で、子どもの挑戦する力も育まれるのでしょうか。
「励まされる」経験を通じて、子どもたちが勇気を持って挑戦していくようになる姿を何度も見てきました。
SSSでは、スポーツを終えた後に子どもが自分の気持ちや想いを伝える「サークルタイム」を設けているのですが、年少では自分の気持ちや楽しかったことを話すことから始まり、年中、年長になるにつれて他者の話にも関心を持ち、感想を伝え合う場面も見られるようになります。そうしたやり取りを何年か積み重ねた園では、子どもたち同士で自然に励まし合う姿が見られるようになり、私は度々驚かされます。
あるときBくんは、リズムトレーニングの際にステップが難しくて活動に対して消極的になり、前に進めずにいました。Bくんの浮かない表情に気づいたCくんが、「どうしたの?やらないの?」と聞くと、Bくんは「うーん」と自信なさげに答えました。するとCくんは、「一緒にやる?」とBくんの手を取り、ペースを合わせて進んで行ってくれたのです。Bくんは、Cくんと一緒にできたことで笑顔になり、数回共に練習するうちに一人でも楽しくステップを踏めるようになりました。自信が持てなかったBくんの気持ちに気づき、一緒に乗り越えようとしてくれたCくんの姿から、人は励まされることで挑戦する力を得られるのだと改めて感じました。
「励ますことの大切さ」は、相手の状態を見ることを通して、その人の可能性を信じ、共に考え、共に育ち合うことの大切さを教えてくれます。そして、人は励まされる経験を積み重ねながら、挑戦する勇気を身につけたり、周囲の気持ちにも目を向けられるような豊かなコミュニケーション力の土台を築いていくのではないかと思います。
子どもも大人も、励まし、励まされることを繰り返しながら、共に育っていくのかもしれません。
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インタビュイー:杉山 舞(すぎやま まい)
一般社団法人 次世代SMILE協会 主任研究員。社会福祉士。国際バカロレア教員資格(初等教育プログラム:PYP)保有。「共に育つ=共育」を理念に、保育者や保護者、子どもたちが互いに学び合うプログラムを企画・運営。スポーツを通じて“生きる力=人間力”を育む「スマイルシップスポーツ」を実践し、保育や子育て現場への応用にも力を注いでいる。母は元プロテニスプレーヤー・杉山愛さんのコーチを務めた杉山芙沙子さん。