#2 デジタル依存で学力低下?紙と鉛筆で育つ子どもの思考力

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#2 デジタル依存で学力低下?紙と鉛筆で育つ子どもの思考力

子どもの未来を支えるのは、知識だけでは測れない力です。「社会性」「自制心」「創造力」といった“非認知能力”は、子どもが自分らしく生きるための大切な土台になります。

本連載では、IPU・環太平洋大学教授、お茶の水女子大学名誉教授、十文字学園女子大学名誉教授であり、発達心理学・保育学の第一人者である内田伸子先生にお話を伺います。

AI時代を生きる子どもたちに必要な力、そして保育者がどのように関わればその力を伸ばせるのか―。本連載では6回にわたり、「保育は未来をつくる仕事」というテーマのもとに、実践につながるヒントをお届けします。

連載ラインナップ

この記事のポイント

  • タブレット漬けが子どもの「考える力」「集中力」に与える影響がわかる
  • 紙に書く・辞書を引くなど“手を使う学び”が思考力を育てる理由を理解できる
  • 保育の中で取り入れたい“アナログ体験”の具体例がわかる
  • デジタルとアナログをうまく両立させるための工夫が学べる

タブレット漬けが子どもの思考力に与える影響

ー タブレットなどのデジタル機器が子どもの学びに与える影響について、どのようにお考えですか?

内田先生:
ここ数年、子どもたちのデジタル機器との付き合い方に大きな変化を感じています。夜寝るときまでスマートフォンやタブレットを手放せない高校生も少なくありません。SNSや動画を何時間も見続けて、手放すと落ち着かない。いわば依存に近い状態になってしまっている子どもたちは、相対的に学力が低いという報告もあります。

これは決して「タブレット=悪い」という話ではありません。問題は、子どもが受け身のまま長時間タブレットに触れてしまうことです。そこには大きく2つのリスクがあります。

リスク 具体的な影響
① 自分で考える前に答えを見がちな傾向が生まれる 思考のプロセス(考える→試す→修正する)が育ちにくくなる
② 刺激に注意が奪われ、集中力が続かない 静かな環境でじっくり取り組む力や文章理解力が低下しやすい

一つ目は、「自分で考える前に、すぐ答えを見る」習慣がついてしまうことです。

本来、人間はまず「これは何だろう?」「こうするとどうなるかな?」と仮説を立てます。それから試してみて、うまくいかなければ修正する。この『考える→試す→直す』というサイクルで、思考力は育ちます。これは仮説形成的な推論(アブダクション)ともいわれる、とても人間的な学びのプロセスなんですね。

ところが、タブレットは“すでに誰かが整理した正解”をすぐに教えてくれます。まだ「自分で考えたい」「確かめたい」という力が育っていない段階の子どもほど、考える前に答えをもらうことに慣れてしまいやすいのです。その結果、考える前に「正解だけ欲しい」という姿勢が当たり前になってしまうのではないか、と私は心配しています。

内田伸子先生

二つ目は、集中力の問題です。

タブレットの世界には、次々と刺激が出てきます。おすすめ動画や通知が、子どもの注意をどんどん引っ張っていきます。すると、静かな環境の中でひとつのことに没頭し続ける力が育ちにくくなります。これは後の読み書き、文章理解、記述力に大きく関わります。

ギガスクール構想が始まって10年ほどになります。便利になりましたが、その一方で「考えない子どもをつくってしまうのではないか」という危機感も、私は強く持っています。

紙と鉛筆の学びが思考力を育てる理由

ー 逆に、紙と鉛筆の学びや「自分で辞書を引く」といった昔ながらのやり方には、どんな意味があるのでしょうか?

内田先生:
紙にノートをとりながら授業を聞く。わからない言葉を自分で辞書で調べる。そういう学びを続けている高校生は、総合的な学力が高いという報告があります。これは、ただ「暗記が得意」という意味ではありません。頭の中で整理して、理解して、定着させる力が育っているということなんです。

活動 育つ力
ノートを書く 情報を整理し、記憶に定着させる思考力
辞書を引く 言葉への興味と語彙力
手先を使った活動 論理的思考や言語発達を支える認知力

まず「書く」ことには、情報を自分なりに選び、順番をつけ、言葉にするプロセスが含まれます。ノートは“先生の板書のコピー”ではありません。子どもは「ここが大事そう」「あとで調べたい」と感じながら、自分のことばで書き直していきます。これはすでに思考のトレーニングです。手を動かしながら、自分の頭の中を整理していくわけですから、記憶の定着にもつながります。

次に「辞書を引く」こと。目的の言葉にたどり着くまでの間に、似た言葉や関連する言葉がたくさん目に入りますよね。タブレット検索のように“ピンポイントで即答”ではなく、寄り道や偶然の出会いが起こる。子どもは「これも面白い」「この言葉知らない」と、語彙や概念の世界をどんどん広げていきます。語彙が豊かになることは、のちの読解力・記述力に直結します。

家で宿題をする小学生の男の子

さらに大事なのは、手先を使うということです。字を書く・ブロックを組む・紙を切る・小さなパーツを貼る。こうした指先の細かい動きは、脳の中では思考や言語の領域と非常に近い場所を刺激します。幼児期にブロック遊びや造形遊びで指先をたくさん使ってきた子どもは、その後のいわゆる“学力テスト”の結果も高くなる傾向があるんです。これは単なる偶然ではなく、手を使って試行錯誤することが、論理的な思考力や言語の力の土台になっている、と考えられます。

「手で考える」「体でわかる」という過程が、子どもの思考力をつくるのです。

保育で意識したい“アナログ体験”の取り入れ方

ー 保育の現場では、どんな“アナログ体験”を意識して取り入れるとよいのでしょうか?

内田先生:
キーワードは「五感」「共有」「自分で意味づける」です。

積み木で游ぶ子供

まず、手と体を使う遊びをしっかり保証してあげてください。絵を描く、ちぎって貼る、積み木やブロックを組み立てる。これは単なる“作品づくり”ではありません。自分の手の動きと、その結果目の前で起こる変化がつながる。「こうすると形が変わる」「こうすると倒れる」という因果関係を、子どもが自分で発見していく時間です。ここに思考の芽があります。

水遊びで、自分の手を水に入れたら大きく見えて「魔法みたい!」と友だちに見せる子がいます。これは光の屈折という理科の概念を、遊びの中で自分の体験としてつかんでいる瞬間なんですね。あとから学校で“屈折”という言葉を習ったとき、その言葉は単なる記号ではなく、幼い頃の驚きとつながった意味のあることばになるんです。

次に、絵本や紙芝居です。読み聞かせを「テスト」にしないことが大切です。「さっきのお話、言ってごらん」「違うでしょ、ママはそう読んでないわよ」といった問いかけは、子どもを“正解できるかどうか”の立場に置いてしまいます。そうすると、子どもは大人の顔色をうかがうようになります。

そうではなく、「この子、どんな気持ちかな?」「ここ、おもしろいよね」と一緒に味わうようなやりとりを重ねると、子どもは安心して自分のことばで話しはじめます。物語と自分の気持ちを行き来する中で、語彙が豊かになり、表現する力が伸びていきます。これも思考力の土台になります。

そして、外遊びをあきらめないこと。AIの時代だからこそ、私は外遊びをもっとしてほしいと思っています。外では、遠くと近くを交互に見ることで目のピント調節機能が鍛えられ、近視の予防にもつながるというデータもあります。体を大きく動かすことで、バランスをとる力や「自分の体を自分でコントロールできる」という感覚が育ち、自己肯定感にもつながります。

公園で遊ぶ子ども

さらに、暑さや風、土の手ざわり、虫の動きといった自然の感覚を、友だちや先生と一緒に味わうことは、言葉の学びにも直結します。たとえば砂場で汗をかきながら遊んでいるとき、先生が「いま、爽やかな風がスーッときたね」と声をかける。その瞬間、“爽やか”という言葉は、ただの音ではなく、気持ちよさと結びついた自分のことばになるんです。こういう「体験とことばの結びつき」を、私はとても大事にしています。

デジタルとアナログを両立させる工夫

ー 今の時代、タブレットを完全にやめる、というのは現実的ではないと思います。デジタルとアナログを両立させる工夫はありますか?

内田先生:
大事なのは「バランスをどう設計するか」です。現場でできる工夫を3つご紹介します。

工夫 ポイント
① 時間を区切る 長時間の受け身利用を防ぎ、活動への切り替えをサポート
② 場面で使い分ける 調べる・観察するなど、目的をもって活用する
③ 子どもと一緒にルールをつくる 納得して守る経験が、自制心と社会性を育てる

一つ目は、時間を区切ることです。長時間、受け身でだらだら続けない。特に小さな子どもは、自分でやめるのが難しいことも多いので、大人のほうで「ここまでね」と区切ってあげる必要があります。ただし“取り上げる”のではなく、次に楽しめる遊びや活動を用意しておくことが大切です。タブレットをやめた直後に、体を使う遊びや、何かを作る活動にスムーズに移れるようにするんですね。

二つ目は、場面で使い分けることです。タブレットを「ただ見るもの」にしないで、「調べたいときに一緒に調べる道具」「拡大して観察する道具」として使うのです。大事なのは、子どもがまず“知りたい”という気持ちや問いを持っていること。その問いを深めるためにタブレットを使う、という順番にしたいのです。最初からタブレットありきにしないことが、とても重要です。

タブレットを見る子ども

三つ目は、ルールを子どもと一緒につくることです。大人が「夜はダメ」「ベッドに持ち込まない」と一方的に言うだけでは、子どもは“管理されている”と感じやすいですよね。そうではなく、「明日も元気で遊びたいから、どこで終わるといいかな?」と、子どもと相談して約束を決める。自分で納得したルールは、自分で守ろうとします。これは、いわゆる“しつけ”ではなく、子ども自身の自制心や社会性を育てることにもつながります。

私は、これは“強制型”ではなく“共有型”の関わり方だと考えています。命令や禁止でコントロールするのではなく、子どもと一緒に考え、納得を共有していく。そのプロセス自体が、子どもの非認知能力─自分をコントロールする力、他者と折り合いをつける力─を育てるのです。

ー 内田先生、ありがとうございました。

【編集後記】
デジタル機器の便利さの一方で、子どもたちから“考える時間”が失われつつある現実に気づかされました。手を動かし、感じ、考えるーそんなアナログな体験が、子どもの思考力や集中力を支えているのだと思います。 次回は「学力格差と家庭のしつけの関係」をテーマに、日常の関わり方が学びに与える影響について伺います。

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内田伸子(うちだ のぶこ)

インタビュイー:内田伸子(うちだ のぶこ)

IPU・環太平洋大学教授、お茶の水女子大学名誉教授、十文字学園女子大学名誉教授。発達心理学・保育学を専門とし、幼児期の言語発達や非認知能力の研究で知られる。令和3年文化功労者、令和5年瑞宝重光章受章。NHK「すくすく子育て」などメディア出演多数。著書に『非認知能力を育む保育と言葉のちから』など。

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