【New me! Well me!】
「ほっちのロッヂ」と、介護の語り場「未来をつくるkaigoカフェ」。後編では、各代表を務める藤岡さんと高瀬さんに業界の課題や解決に向けて必要だと思われることについてお話を伺いました。「医療」と「介護」という違いはあれど、多くの共通点があるようです。
藤岡 聡子
「ほっちのロッヂ」共同代表 / 福祉環境設計士
「ほっちのロッヂ」とは : 2020年に開業した長野県軽井沢町の診療所。町内の在宅医療の拠点として、また共生型通所介護、児童発達支援、医療型短期入所などの医療福祉サービスを提供している。老若男女が集う、アットホームなコミュニティとしての一面もある。
高瀬 比左子
「未来をつくるkaigoカフェ」代表
「未来をつくるkaigoカフェ」とは: 介護について思いを語り合うことを主軸にするNPO法人。2012年にスタートし、のべ3万人以上が全国の対話イベントに参加。自治体や学校とも積極的に協働している。
2025年11月8日(土)19:00より YouTubeにてインタビュー映像も公開!
「対話の場」を作ったのは、自分に必要だったから
ー 2025年、「未来をつくるkaigoカフェ」は14周年を迎えました。カフェが生まれた経緯について、改めて教えてください。
高瀬さん : 私自身が一番必要な場だったんです。介護施設でケアマネジャーとして働く中で、上司と介護職の間で板挟みになるような、かなり切羽詰まった状況にありました。その思いを吐き出すため、気持ちを整理するために、SNSで発信していたんです。そうしたら、私だけでなく多くの人が同じような課題を抱え、悩んでいることが分かりました。
でも、SNSのコメント欄でのやり取りだけでは、深い話はできないし、顔も見えない。文章だけでは伝わらない部分があると感じ、私自身も、実際に会って話せる対面の場をつくりたいという思いが高まったことが始まりでした。
(kaigoカフェの対話の様子)
「働く場所」は「居場所」でもある
ー ほっちのロッヂやkaigoカフェを、自分の「居場所」だととらえる方は多いのではないでしょうか。「居場所」づくりを意識することはありますか。
藤岡さん : ”居場所”というのを、すごく思い立って作ったわけではない、と思います。どちらかというと、意識したのは「ひとりの人」です。これまで自分がやってきたことは、24時間体制で命を支えることが比較的多いのですが、「居場所」という言葉は、複数意味があると思っています。安心できる“逃げ場”のような場所を指すこともあれば、日常の中で自分自身が築いていく場所を指すこともあります。命の終わりを迎えている人たちが「来てもいいか」と思える場所、つまりその方たちの日常にある現場を運営していると言えると思います。
私の「居場所」という考えは、2010年に社会人2年目で老人ホームを創業した時と比べると、だいぶ変わってきています。どちらかというと、働いているスタッフ(以下働き手)にとっての居場所、という考えが大きくなりました。
ー 「居場所」としての「職場」を重視されるようになったんですね。
藤岡さん : 「ほっちのロッヂ」には医師、看護師、介護職、保育士、英語教員など、多様なメンバーがいます。私1人でできることは限られていると、この数年で強く感じています。なので、いかに重層的になれるか、という部分が重要だと考え、働き手たちがこの現場をどう作っていきたいか、ということに耳を傾けることが圧倒的に多くなりました。
なぜなら、ここは働き手にとって、ずっといる場所だからです。働く人間がここを心地良いと思えなかったり、働いていて豊かだと感じられなければ、本来は次へは進めませんよね。
特に、ここの現場で働く人たちは、朝昼晩、命の終わりを支え続けることに集中してやっています。何が起こるか誰にも分からないからです。だから、ここで働く人たちが、いかに自分たちが良い状態でこの仕事をしているかを自覚できるか、その場を居場所と表現するのはピンとこないかもしれませんが、働く場所そのものが居場所になるとより良いと思っています。だからこそ、どうすれば働く人にとって心地よく豊かに過ごせる場になるのかを常に考えています。
「ここで働きたい」を見つけるために
ー 職場は単なる「働く場」ではなく、人にとっての「居場所」にもなる。では、医療や介護の現場で働く人たちは、どんなときに「ここで働きたい」と感じるのでしょうか。
高瀬さん : やはり一人の利用者さんとの関係性が大切だと思います。「この人がいるから最期まで看たい」という気持ちは大きいですね。
しかし、それだけではやっていけないこともあります。職場環境や人間関係が悪ければ、心が折れてしまい、利用者さんを支えたい気持ちがあっても「もう限界」となってしまうこともあります。それはもったいないですよね。実際のところ、利用者さんとの間で大きな問題が起こることは少ないんです。どちらかというと職員間の問題になりやすいので、職場をよくしていかないと、本当に支えられないと思います。働く環境ですね。
ー 「kaigoカフェ」は人間関係で心が折れそうな人たちの逃げ場でもある?
高瀬さん : そうですね。やはり同じような悩みを抱えている方が、自分のことを話して、心の整理ができたり、「自分だけじゃないんだ」と気づけることが一番大きいと思います。その後の具体的な解決策は、それぞれが見つけてもらうというか。まずはそこで安心できることが、一番大事だと考えています。
藤岡さん : 働くことは人生の一部にすぎませんが、時間の多くを職場で過ごすため、つい「職場が人生のすべて」のように感じてしまう。でも実際はそうではないから、月並みですが、サードプレイスが必要です。
人間関係が"深すぎる"という悩ましさ
ー 仕事がすべて、にならないためのサードプレイス?
藤岡さん : 自分が一人でカフェにいるという話ではなく、語り合える場所。自分を相対化する場所が必要だと思うんです。
高瀬さん : 深く繋がりすぎた関係しかない人が多いんですよね。家にも仕事にもどっぷり浸かっている。そうなると、逃げ場がないというか、もう行き詰まってきてしまうんですよね。そこでちょっと息抜きできるような場所をみんなが見つけられると良いですよね。なかなか難しいことではありますが。そういう必要性を自覚していない人も多いのが現状です。
藤岡さん : 医療や福祉の人にはそうした人がよく見られますよね。つまり、夢中なんです。
高瀬さん : 夢中になりすぎると、完璧を求めたり、自分が良いと思うことを他人に押し付けたり、プライドを譲らなかったりして、揉めてしまうことが頻繁に起こりますよね。そうした事例が非常に多いんです。真面目に本当に取り組もうとしている人ほど、ちょっとしたことが大きな溝になって、辞めてしまうことになりがちです。
藤岡さん : そうですよね。ポイントは、目の前の利用者さんに夢中になっているのはみんな同じなんです。しかし、同じ働く人に対して、良いところを探そうとしているかというと、そうではない、という構図ができやすい。
ー 藤岡さんご自身は、どうやって“夢中になりすぎない視点”を保っているのでしょうか
高瀬さん : 外を見ているかどうか、ですね。現場だけに「どっぷり浸かっていない」という。
藤岡さん : そうなんです。外を見ていると、自分の立ち位置を客観的に見られるようになるので、その違いは大きいと思います。
ー 国内外の色々なところに行かれていると伺いましたが、外を見ることをあえて大事にされている?
藤岡さん : 「外を見る」理由は、2つあります。1つ目は、そもそも私自身が〇〇資格といういわゆるわかりやすい専門性を持っていないこと。どっぷり浸かれる専門性を持っている人が、みんなで同じ方向を向いてしまうと、仮に方向性を変えるタイミングであっても、みんな夢中だから分からないんですよね。なので2つ目としては、それを伝える、気づいてもらうことだと思います。
例えばですが、専門職だけでは気づけない隙間を埋めてくれる人が1人いるだけで、チームは安定し、進むべき方向が見えてきます。私が関心があるのは、常に相対化させることです。それは外に出ることもあれば、ずっとここにいることもあります。
だから、専門性があるチームの中に、あえて専門性がない人がいることでどうなっていくか、ということに挑戦できるフィールドがあれば、少し変わるのではないかと思います。社会には専門性がない人の方が多いですからね。
専門性がない人の”社会資源”としての可能性
ー つまり、専門性のない人の可能性を生かすことで、より良い変化を起こせる、ということでしょうか。
藤岡さん : 例えば老人ホームでもそうですが、色々な現場の隣近所には、”専門性がない”一般的な高齢者の方々や地域の学校があったり。いわゆる地域の資源がすごくたくさんあって、そこを接続することで、実は一番楽になるのは専門職の人だと思うんです。
高瀬さん : そうなんですよね。社会資源という捉え方をしていないと思います。ケアマネジャーも、社会資源という枠の中に、地域の人も巻き込んで、という発想を持てていなかったり、ケアプランにも介護保険のサービスしか入っていなかったりすることが多くなってきてしまっています。
藤岡さん : 多くの人にとって“社会資源”というと、事業所や病院など限られた専門機関をイメージしがちですよね。
高瀬さん : 事業所、病院。そうですね。地域包括センター。だから、社会資源をどうやって生かすかという発想が少し足りないのかもしれませんね。
ほっちのロッヂとkaigoカフェのこれから
ー 今後に向けて、「ほっちのロッヂ」がこれからどうなっていくのか、ぜひ伺いたいです。
藤岡さん : 一つの取り組みとして、2025年4月から、軽井沢町の役場(行政)と、行政が運営している病院とで三者連携を組みました。地域における医療体制は、様々な情報がありますが、この軽井沢町に残っていく上で、一番課題となるのは担い手不足です。訪問系に力を入れれば入れるほど、人が足りなくなりますし、施設もどこも足りていません。それは医師も同じです。
すると、どうやって手を取り合っていくのか。私たちは開業して5年間、ずっと様々な形で模索してきました。そして6年目にして、町の病院の医療体制に私たちも関わりを持つようになりました。具体的に言うと、ほっちのロッヂの医師を軽井沢病院の外来も担うために送り出す体制づくりです。例えばほっちのロッヂの訪問診療を受けていた方が、軽井沢病院に入院されても、「病院でも自分の家での暮らしを知っている医師がいる」ことになり、病院側としても得られる情報がより立体的になることで、非常にシームレスで有機的な活動が、まず医師同士から始まりつつあります。
これを、まず医師同士でやるのが一番早いと思っています。もちろん看護も、リハビリもそうですが、やはり介護の現場は欠かせません。様々な人たちの暮らしの支えが重要です。
私たちなりの形を、この人口2万人の町で、事業所単位ではなく、もう少し町全体として捉えていくのが、これから改めて向かう先になるだろうと考えています。
ー kaigoカフェはどのような未来を描いていますか?
高瀬さん : やはり介護の現場の人が長く、楽しく働いてほしいというのが一番なので、その一端を担えれば良いなと思っています。長く働く上で、何かスパイスになるような、また頑張ろうと思えるような場でありたいと思っています。
いろいろな新しい取り組みも進めながら、これまでやってきたことも大事にしていきたいと思っています。世の中の流れもどんどん変わっていくので、その時々で求められることがあれば挑戦していきたいですし、自分がやりたいことにもちゃんと向き合っていきたいと思っています。
ー ありがとうございました!
編集後記
専門職以外の人をどう地域の力として巻き込んでいくか。仕事と家庭「以外」の自分の居場所をいかにして見つけるかー。藤岡さんと高瀬さんのお話は、医療と介護に限ったものではなく、より良い社会や個人の生き方の本質に迫るものでした。
自身のキャリアについて「専門性や資格がないから」と一歩踏み出すのを躊躇している人は、インタビューの内容を参考にやりたいことにチャレンジしてみてはいかがでしょうか。