【New me!Well me!】
総フォロワー数12万人(2026年6月時点)の介護士インフルエンサー・TAKUMA♧さん。現役の介護士として働きながら、ボーカルユニットPlatanusで活躍するアーティストでもあります。2023年5月にTikTokで公開した「介護施設でよく見るドレミの歌」の動画では、「“ド”スンという音に反応する」「“ラ”ップの芯はレクで使うので取っておく」などの介護士あるあるが「リアル」「わかりすぎる」と話題になりました。
前編では、TAKUMA♧さんが介護士になるまでの道のりや、若手時代の失敗エピソードを伺います。音楽との両立、そして介護士としてのこれからについては後編にて。
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未経験から介護の世界へ。実習で目撃した「介護の原点」
ー TAKUMA♧さんは20歳から介護士として働いていらっしゃるそうですが、どのようなきっかけで介護の世界に入ったのでしょう?
TAKUMA♧さん:もともと子どもが好きで、障害のある子どもたちと関わる仕事がしたいと思い、障害者支援や介護について学べる短大に進学しました。本当は、障害児保育を学ぶなら保育の専門学校に行った方が良かったと思うのですが、そのときはよくわかっていなくて(笑)。
短大2年のときに重症心身障害者施設(※身体障害や知的障害がある方を支援する施設)に実習へ行って、介護の世界の奥深さを感じたのが、介護の仕事に就くきっかけになりました。
ー 身近に介護が必要な方がいたわけではなく、一から学んでいったのですか?
TAKUMA♧さん:そうです。生まれた時点で僕には祖父母もいませんでしたし、知的障害のある方も高齢者の方も、関わる機会がまったくない状態から介護を学び始めました。
ー 実習で初めて重症心身障害者施設に行ったときは、どのような心境でしたか?
TAKUMA♧さん:正直なところ、知的障害のある方と関わるのが初めてだったので、最初は少し怖かったんです。「こんにちは」と声をかけても返答がなく、目が合うことすらあまりない状況だったので、「コミュニケーションを取れるのかな」と思ったのが本音でした。
ー 実習を経て、その心境は変わりましたか?
TAKUMA♧さん:はい。ある利用者さまがいらっしゃって、いつも右を向きながら声を出されていたんですが、ときどき発声が微妙に変わる瞬間があったんですね。そのときは表情が険しくなっていることに、実習の2週間を経て、初めて気づきました。
職員さんから「この方が何を訴えかけているか分かる?」と質問されて観察していると、発声が変わるときは表情が険しいこと、眼球がこちらを向いていること、体に力が入っていることに気づきました。職員さんに「この方は逆側を向きたいんじゃない?」と言われ、体位交換をさせていただいたら、もとの発声に戻りました。
そのエピソードを経て、言葉によるやり取りが難しくても、その方の意思を汲み取ったり、コミュニケーションを取ったりできることを知り、介護の分野にのめり込んでいきました。
「その人が見ている世界を想像する」憧れの支援員から学んだ
ー 短大を卒業後、介護士として勤務し始めたのですよね。新人の頃に大変だったことは?
TAKUMA♧さん:最初に勤めたのが知的障害者施設だったのですが、利用者さまは一人ひとり特性がまったく異なっていました。その方の特性を理解して意思疎通を図っていくのが、すごく難しかったですね。例えば自閉症の方だと、自分の世界があり、なかなかその方の懐や間合いに入り込むのが難しいことがありました。心を開いていただくのにも、時間がかかりました。
ー 当時、介護の仕事について「こうなりたい」と理想像を描いていたことはありましたか?
TAKUMA♧さん:先ほど話した短大の時の実習先で出会った方のひとりが、僕にとって憧れの支援員さんでした。その方のような、一人ひとりに寄り添える介護士になりたいと思っていたので、失敗やうまくいかなかったことも割と前向きに捉えて「ここからどうしていこうかな」と考えられたんです。
ー その“憧れの支援員さん”のどういうところを尊敬していたのでしょう?
TAKUMA♧さん:その重症心身障害者施設は、夏場になると床に敷かれたマットレスの上に横になっている方が多かったんです。あるとき、一人の利用者さまが、匍匐(ほふく)前進のような感じでマットレスからフローリングの通路まで、頻繁に出てこられていました。そのたびに、職員さんたちが介助をして、マットレスに戻してあげていたんですね。それは、職員が歩く動線上にいらっしゃると危険であることや、衛生面を考えてのことだったと思います。僕自身は「マットレスに戻す」という対応に対して、何の疑問も持っていませんでした。
しかし、その尊敬する職員さんは、「この夏場の暑い中、マットレスで蒸れて熱くなっているから、動きにくい体を頑張って動かして、出てこられたのではないか。ようやくフローリングという冷たい場所を見つけて涼んでいたのに、また暑苦しいマットレスの上に戻すのはどうなのか?」と疑問を投げかけられたのです。
自分の中の固定観念に縛られるのではなく、その方が見ている世界を想像し、一緒に見ようとしている。職員さんの姿勢が、すごく勉強になりました。常に利用者さまの表情や行動を観察し、疑問を抱くことのできる方だったので、そういう支援員さんになりたいと思いました。
先輩からの厳しい指導はどう受け止める?
ー とはいえ新人時代は、なかなか理想通りにいかないこともありますよね。失敗の経験も?
TAKUMA♧さん:もちろん、たくさんあります。これは実習生の頃の話ですが、重症心身障害者施設に「ダディ、ダディ、ダディ」と声を出される利用者さまがいらっしゃいました。水分補給の介助でその方と二人きりになったとき、僕もその方と同じような発声で声かけをしたら、より良いコミュニケーションが取れるのではと思い、真似して「ダディ、ダディ」と声をかけてみたのです。
そうしたら、利用者さまがパニックを起こしてしまって。おそらく、その方の発声とは声のトーンやタイミング、間の違うものが聞こえてしまったことで、混乱させてしまったのでしょうね。あれは今でも忘れられない失態ですね。そのときから、利用者さまとの関わり方には慎重になりました。
ー 若手の介護士の方たちからは、同僚や利用者さまとの人間関係が固定化されていることでのトラブルや、夜勤の多さなど、職場にまつわる悩みの声を聞くこともあります。
TAKUMA♧さん:介護士インフルエンサーとして活動していますが、SNSでも人間関係の悩みをすごく多く聞きます。介護の仕事はせわしないので、どうしても余裕がなくなることや、自分のやりたい業務の流れに反したことをされるとイライラしてしまう瞬間もあると思います。でも、僕は「人間関係は、声かけひとつで変わるもの」と自分に言い聞かせています。
例えば、爪切りをされている同僚の職員さんに対して、「今はもっと急ぎの件があるから、そっちをやってほしい」と声をかけてしまうことがあるかもしれません。でも、その方は「利用者さまの爪が伸びているな」と気づいて、時間を見つけて対応してくれているわけです。人がなかなか気づけないところに気づいてくれているのだから、まず「爪切りもやってくれているんですね、ありがとうございます」と伝えることが重要だと思っています。
その上で、「急ぎの対応があって、そちらに手を貸してもらえますか」と声をかける。この順序を意識することで、気持ちよく動ける関係が築けるんじゃないかなと。
また、勤務の大変さについては、僕は夜に強い方なので夜勤もしていますが、もし夜勤がきついという方はデイサービスなど夜勤のない施設もあります。自分の体質や特性に合った職場を、探してみるのもありだと思います。
ー 新人の頃など、先輩から怒られたり辛い当たり方をされたりしたとき、どう切り抜けていましたか?
TAKUMA♧さん:うーん、相手がどういう意図でおっしゃっているかによりますよね。例えば「今の介助は危険だったよ」と強く言われるのは、ありがたいことなので感謝して受け入れます。むしろ、仲良くなると注意しにくくなることもあるので、僕は定期的に「自分のダメなところがあったら教えてください」と先輩に聞くようにしています。
ただ、その日の機嫌や気分で当たってくる職員さんの場合は、聞き流してしまうかなあ……。いちいち歯向かっても、自分が損をするだけなので。ちゃんと見てくれている職員さんからのアドバイスとは、分けて捉えています。
ー それは長く働く上で、とても大切なスタンスかもしれませんね。介護現場では、職員さん同士の介護観の違いから衝突が起きることもあると思います。そんなとき、TAKUMA♧さんはどのようにコミュニケーションをとりますか?
TAKUMA♧さん:例えばある利用者さまに対して「車椅子で移動する方がいい」という意見と、「一部介助で歩いてもらった方がいい」という意見が衝突したとします。どちらも利用者さまのことを考えてのことですが、一番大事なのは、その日の利用者さまのコンディションやモチベーションに立ち返ることだと思っています。まずは「どちらが正しいか」ではなく、「利用者さまにとって今ベストなのは何か」を軸に話し合うことで、お互いの意見も整理しやすくなるんですよね。
また、意見がぶつかった時ほど、相手の考えの背景をきちんと聞くことも大切だと思っています。「なぜそう考えたのか」を知ると、実は目指している方向は同じだった、ということも多いんです。
もし、利用者さまとしては車椅子に乗りたいのだが、職員の視点からすると「少しでも立って歩いてもらいたい」という状況なのであれば、利用者さま自身の気持ちを高められるようにアシストすることも多いです。利用者さまにも同僚にも、積極的に話しかけに行きますし、コミュニケーション自体が好きなんですよね。
自分の言葉で誰かの人生を前向きにできるかもしれない
ー お仕事をしていてやりがいを感じた瞬間はありましたか?
TAKUMA♧さん:高齢者向けの施設でも働かせていただいているのですが、ある利用者さまがとても印象的でした。高齢の女性の方でしたが、パートナーにもお子さんにも先立たれてしまっていて、ご飯の声かけに伺うと「もういい、食べたくない」「私は死んでいきたいんだ」とよく話されていました。
「死にたい」とおっしゃる方に、軽率に「そんなこと言わないで」とは言えないなと思いました。「ご家族がいるところに早く行きたい」と思うのは、ごく自然な感情だと思うからです。
でも、介護士としては、終わりが来るまで前向きに施設生活を送っていただきたいし、笑顔で過ごしてもらいたい。それで……これが適切な対応だったかはわかりませんが、僕は、自分の顔を指して「孫がいるで」と声をかけたんです。
翌日、その方はご親戚と通院に出掛けていかれました。通院の帰りに、珍しく「どうしてもショッピングモールに寄りたい」とおっしゃったのだそうです。「私には孫ができたから、チョコレートを買いたいんだ」と。そして、僕にチョコレートを買ってきてくださったんです。
自分の言葉や声かけひとつで、その方が前向きに生きるきっかけを与えることができたのかなと思ったら、介護士をやっていて本当によかったなと思いました。
ー 利用者さまとの関わりの中で、仕事の意義を実感された出来事だったのですね。今、仕事を続けていけるか悩んでいる若手の方もいらっしゃるかもしれません。TAKUMA♧さんからアドバイスをいただけますか。
TAKUMA♧さん:なぜ「続けていけないかも」と思っているのか、しっかり見つめてほしいと思います。介護を嫌いになったわけではなく、その施設が自分に合わないだけなのに、介護の世界から離れてしまう方もいます。「本当は介護の仕事を続けたい」という理想や希望があるなら、それを生かせる施設を見つけるために、勇気を持って転職してみるのもいいのではないでしょうか。
環境を変えてみて、「自分のやりたい介護ができる」と思える施設との出会いがあれば、きっと続けていけるはず。自分の思いと向き合い、本心を見つめてみてほしいです。
編集後記
TikTokやInstagramで人気のTAKUMA♧さんですが、ロングインタビューを受けるのはこの日が初めてだったそう。インタビュー冒頭は「緊張します〜」「僕、質問にちゃんと答えられていますか?」とドキドキされていましたが、利用者さまの話になると顔がほころび、笑顔を見せていたのが印象的でした。後編では、アーティストとしてのTAKUMA♧さんと「音楽と介護」の共通点について、お話を伺います。
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執筆者:塚田 智恵美(つかだ ちえみ)
1988年、神奈川県横須賀生まれ。大学卒業後、教育系出版社に入社し、編集者として勤務。2016年フリーランスの編集者・インタビューライターに。現在は教育業界に限らず、幅広く人物インタビューと執筆を行う。