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利用者を支配していないか?!

2017-10-03

利用者の人本意のケアを、という流れが介護現場の主流になりつつある現状のなかでも、一部の施設などにおいては、いまだある特定の専門職が、現場のケアチームや利用者までを「支配」する構図が存在していることも確かである。介護スタッフはどこを向いて仕事をしたらよいのか? もう一度振り返ってよく考えてみたい。

利用者さんから見れば、ケアチームのスタッフは皆、自分に関わってくれる人間である

職場の中で、スタッフの仕事に対する温度差で悩んでいる人は多いと思う。

″どこまで″を仕事と思うのか? それは個人差があると思うが、チームケアが必要な私たちの仕事では、困ってしまうことが多い。新人だろうが、パートだろうが、社長だろうが、利用者さんから見れば、そんなことは関係ない。自分に関わる人間の一人にすぎないのだ。

数年前、私は老人ホームで働いていた。そこには認知症の方もいれば、そうではない人もいる。

自宅を売り払い、数千万円のお金を払って入ったのにも関わらず、玄関にはカギがかかり、暗証番号を押さなければ、外にも出られない。

そのホームでは、2人の看護師が現場を仕切っていて、介護スタッフをまるで小間使いのように扱っていた。入居しているお取り寄りに対しては「支配」だった。

スタッフ同士でも派閥ができており、どこかの派閥に所属していないと、6畳のスタッフルームで口をきいてもらえない。利用者さんの前で怒鳴られたり、注意されたりする。

ここは外に自由に出ることもできない。良いスタッフも辞めていく……ぼくたちが居たことを忘れないでほしい

ある日の昼休み、私は利用者さんの居室でお弁当を食べていた。80代の、とても品があって、白髪がよく似合うおしゃれなおばあちゃんの部屋。みかんと紅茶をいただいて、休憩時間を過ごしていた。

すると、その日の帰りにスタッフに呼び出された。

「自分の休憩時間、よく利用者さんと一緒に過ごせるね」

「いや、お茶に誘われたので……ふだんは業務に追われて、なかなか話ができないので」と話すと、「よくできるわね! 信じられないわ!」と驚かれた。

それでも私は、マイペースで黙々とそこで働いていた。スタッフの目は気にせず、おじい、おばあと笑顔の時間を多く過ごした。

「どうして外に出られないのだろうね〜」と居室で木彫りの仏像を彫るおじい。

「北見に帰ります。もう雪が降ってきたと思うの」と自分の身体の2倍もある荷物を背負って、1階と2階のフロアを往復するおばあ。

私がやるものまねを見て、けらけらと笑ってくれるおばあ。

いわゆる早番の仕事のフロアの手すり掃除も、おばあと一緒にやるとあっという間に終わった。「年よりと一緒にやるなんてとんでもない!」と看護師に怒られるのを覚悟だった。

実際何度も怒られたわけだが……。まったく理解できない職場だった。

私は、他の会社に転職するタイミングでそこを退職することになった。

辞める日におじいから言われた言葉が忘れられない。

「ここは自由に外を散歩することもできない。良いスタッフばかりが辞めていく。家を売ってしまい、大金を払ってしまったから、もう帰る家もなければ、新しく家を買うお金もない。あなたには忘れないでほしい。ここにぼくたちみたいな年寄りがいることを。忘れないでください」

涙、涙でお別れした。

後ろ髪を引かれる思いでその職場を私は去った。

今自分にできることは何かをよく考え、そこに100%の気持ちを注ぎ込んで接したい

ターミナルの利用者さんの異変に気づき、看護師に伝えた介護スタッフに対して、お局看護師は言った。「ポカリ飲ませといて」。

翌朝早く、床に座り、ベッドにうつぶせるような状態で、亡くなっているのを夜勤者が見つけた。

前日食事介助をしていた私は、すごくショックで信じられなかった。常食をふつうに食べていたし、少し顔色が悪いなと思ったものの、笑顔を見せてくれていたから。

看護師は次の日も出勤していたが、その人に対する申し訳なさなど、少しも感じられなかった。

その看護師については、以前より利用者さんから噂をよく耳にしていた。

「あの人に言っても強い口調で言い返される」「怖くて何も言えない」「結局あの人は看護師だから、逆らったら身体を見てくれないんだろう」等々、あり得ない言葉のオンパレード。

介護スタッフにもよく聞いてみると、「あの人はお局看護師とも仲がよいから、逆らうと仕事がしづらくなる」と話してくれた。もう60代だからここを辞めると、次の仕事はみつからない。だから言えない。おかしいと思っても、それが言えないのだと……。

これは利用者さんやスタッフに対して、恐怖で支配しているのと同じではないか。ましてや利用者さんに「怖くて何も言えない」などと言わせてしまうのは、虐待である。

スタッフ目線で働くのではない。利用者さん目線で常に「いま、自分にできること」を考えてほしい。たとえば利用者さんの目を見て、相手の名前を呼ぶことでも、相手の顔をしっかり見て「おはようございます」と挨拶することでもよい。

簡単なことでいいから、毎日意識して実行してみてほしい。要介護度が1だろうが全介助の人であろうが、私たちがお手伝いできることなんて、100あるうちの2%ぐらいにしかすぎない。その2%に、100%の自分の気持ちを込めて接してみてほしい。

きっと、利用者さんたちは、80年、90年と培った大きな愛で、未熟な私たちを包み込んでくれるはずだ。

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