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認知症の妻の介護でみえたこと−介護家族と医師の視点から その後 vol.3 賃貸マンションの鍵−「徘徊」を防ぐ−

2015-04-06

「徘徊」は、認知症に特異的で介護上で最も困難な症状の一つです(注1)。「徘徊」という行動を伴う他の精神疾患を思いつきません。また「徘徊」は、事故死につながりかねない危険な行動です。

認知症の妻の「徘徊」

認知症の妻を在宅で介護し始めるとすぐに「徘徊」が始まりました。当初は、はるか遠くの実家のある故郷に帰ると言い張り外出しようとしました。私の介護の考え方の一つ−「説得より納得」−にしたがい、外出をあえて止めはしませんでした。妻が言うままに一緒に歩くか、後から追うように付いていきました。しかし、私が気づかないまま外出して、行方不明で警察官に世話になりました。

4回目の行方不明のときは、隣の市にある警察署に保護され車で迎えに行きました。このとき、私は外出そのものを止めようと決めたのです。その理由は、「徘徊」で妻が命を落とす恐れが出てきたことと、「徘徊」する妻の様子を観ていると、外出し歩き回っているうちに妻自身が目的を見失い、「徘徊」することに困惑していることに気づいたこともあります。

外出を止める

一戸建ての自宅から外出させないために、いろいろと工夫しました。在宅介護を始めた当初から、介護保険でレンタルできる介護機器の「認知症老人徘徊感知機器」のマット用感知機器とセンサー機器とを玄関に装着しました(注2)。

マット用のほうは、飼っている猫が度々踏んでその度に警告音が鳴り、役立ちませんでした。センサー機器は、妻が玄関に立つ度に警告音が鳴り、夜間も頻繁に鳴り、私が眠れなくなり使用を止めました。

これに代わり、玄関のドア内側から開かないようにするため、ドアの上部に装着してある「ドアクローザ」を針金で止めて作動できなくしました。しかし妻がドアを開けようと何度も試みるうちに針金が外れて開いてしまい、日用品の量販店で見つけたストッパーとステンレス製ワイヤーを組み合わせて止めてみましたが、これでも開いてしまいました。

一戸建て住宅で、玄関以外に出入りできる勝手口や数ヵ所の窓には、内側から鍵付きで防犯用具を取り付けていたので、私が外出する度にワイヤーを外さなければならないという不便さが伴いました。

KABA製錠

何かよい錠はないかとネットで探すと、一つだけスイス製の錠と鍵−「KABAセーフティサムターン」−を見つけました。もとは親が子供を家に置いて外出できるための用具で、外出時は外から鍵を掛けると内側から鍵なしでは開けられない、内側からも鍵で開閉する用具です(注3)。

認知症の妻がいくら開けようとしても開けられないことを確認し、試みに妻を一人家に置いて外出してみましたが、問題が起こらないことも確かめました。この鍵で夜間、外出の心配もなく安心して眠れるようになりました。鍵一つで安心して在宅介護が続けられたのです。

何ヵ所からも出入り自由で、錠もつけられないような古い住宅に住む認知症の人の介護家族は、どのようにしているのだろうか、想像できません。また、出入りが玄関のドア一つのマンションに暮らしている介護家族は「徘徊」対策ではるかに楽だろうと思いました。

賃貸マンションの錠

私たちの転居先は賃貸マンションで、確かに出入り口は鉄のドア一つです。しかし、借家人の私が勝手にドアにネジで固定したり穴を開けて錠を装着することはできません。取り外し可能な用具を利用するしかありませんでした。認知症の妻が転居する前から、防犯用具を扱っている量販店を2,3軒回って、相応しい鍵を探しました。完璧な用具はありませんでしたが、使えそうな二種類の防犯用具を買って試しました。一つは、私も妻も部屋に居るとき、ドアのチェーンを外せないようにする用具で、もう一つは妻が中に居て私が外出するときに、外から装着できる鍵付き用具でした。

もっとも妻が何度もドアを開けようと試みると半開きになるのですが、しばらく様子をみることにしました。しかし、妻が長い時間かけて開けようとすると用具が外れて外に出てしまう怖れが出てきたのです。賃貸マンションに転居してから3ヵ月ほどしてからのことです。

以前、自宅で使っていた鍵を再びネットで探し、取扱店に電話で相談しました。業者は高価なKABA製と同じ機能を持った国産の「家研販売」の「安心錠」を勧めてくれました。実際に下見してもらい、一時間ほどの工事で取り付けられることも知りました。経費は工事費込みで3万円ほどでした。

通常、賃貸マンションには入居者が勝手に錠を変えたり、追加して付けることはできません。私の場合、転居後、直ぐに錠のことをお願いしないで、介護の様子を管理人に知ってもらうようにしました。管理人が理解を深めてくれていたようです。また管理人から聞いたことですが、同じ階の入居者から、夜間、妻の大声が聞こえたとか、ドアを叩く音がうるさかったといった「苦情」があったそうです。管理人だけでなくマンション所有者も、ドアに穴を開けて追加して錠を取り付けることを承諾してくれました。

さっそく業者に取り付けてもらいました。4個の合鍵のうち2つを管理人に渡し、2つを私が使うことにしました。

新たな住まいの賃貸マンションでもこの錠で夜間、安心して眠れ、妻を部屋に置いて2時間内の外出も可能となりました。また、転居してから、妻が一人で外出して「徘徊」することも、行方不明になることも未だ一度も起きていません。

それにしても深夜、理由はよくわかりませんが、外出したいと鍵なしでは開かないドアを開けようと試みる妻の姿は、つらく悲しい。

説明と私見−「徘徊」対策の在り方−

「徘徊」についてはすでに持論を述べています(注4)。認知症に特異的な行動である「徘徊」は、死につながりかねない危険な状態とみなければなりません。その「徘徊」の背景としては、いくつか推測できます。たとえば、通いなれた道でも、道路工事などで様子が変わって道に迷い「徘徊」になる場合、なんとなく家から出て道に迷い「徘徊」となる場合、長く住んでいる家でも自分の家とは思わず別の住むべき家−生まれ故郷の家など−に帰りたいと外出して「徘徊」」になる場合が考えられます。認知症の妻の場合、当初は3番目に該当しましたが、現在の賃貸マンションでは2番目に該当すると思います。

認知症の人の「徘徊」対策は容易ではありません。ひと筋縄では対応できないのです。「徘徊」を取り巻く状況によって異なるのです。認知症の人自身や介護家族の状態、住居環境(一戸建て住宅かマンション暮らしかなど)、地域の状況(民家が散在する農村か、ビルが林立する都会か)などによって異なるのです。実際、認知症の人の「徘徊」対策で成功している自治体も国もありません。認知症対策と同様に「徘徊」対策も以下のとおり重層的でなければならないと考えます。

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