介護現場で働く人を真に「動かす」ために

2015-06-15

介護労働安定センターが、介護の雇用管理改善に向けたチェックリスト(および業務推進マニュアル)を提示しています。介護現場の雇用管理には多様な課題がありますが、今回のようなチェックリストが一助となるのかどうかは意見も分かれるところでしょう。大切なことは何かを掘り下げてみたいと思います。

立派なしくみも「やらされ」感が先に立つと

ずいぶん昔になりますが、ある介護現場を取材したときのことです。最初に法人の理事長から話をうかがい、現場で導入されているオリジナルのアセスメントツールとその活用法を示されました。非常に理にかなっていると大変に感心したものです。

ところが、その後に「現場の管理者」と「現場の職員」に話を聞き、このツールをどのように活用しているかを確認しました(その場には理事長はいませんでした)。すると、現場の職員は、「基本的に管理者が手がけているので、自分たちはよく分からない」と言います。そこで管理者に話を聞くと、「試行錯誤はしているが、忙しいのでまだモデル的にしか使っていない」と苦笑いしながら答えました。

確かに、現場に浸透させるにはやや時間がかかると思われるツールではあります。しかし、問題なのは「目の前の業務に振り回されて、どうしても『やされている』感が先に立ってしまう」という空気があったことです。

現場の実態把握の「客観性」を高めるには

今回のようなチェックリストを導入した場合でも、同じような課題が生じる可能性が懸念されます。センターが示す活用法を見ると、事業主の視点だけでなく、現場の管理者や職員の視点でもチェックすることが、課題を客観的に抽出するうえで重要であることがわかります。問題なのは、「なぜそうしたチェックが必要なのか」という理解が現場の隅々まで及ばないと、結局は上記のような「やらされ感」が先に立ってしまう点にあります。

ケアマネによるアセスメントや行政など行なう実態調査でもそうですが、何かしらの「調査」を行なううえで、それを実施する主体(誰がそれをするか)や調査を行なう環境(どんな状況で調査をするのか)がバイアスになることがあります。また、職員にチェックを行わせるとしても、「こんなことをやってどんな意味があるのか(これで自分たちの処遇が改善されるのか)」という疑念があっては、的確な調査にはなかなかつながりません。

つまり、こうしたチェックリストを活用する前に、「法人トップとして、職員がやりがいをもって働ける職場を作る責務がある」ことを、日常的に強いメッセージとして伝えて行くという前提が欠かせないわけです。ケアマネによるアセスメントでも、「私はあなたの支援のために全身全霊を尽くすつもりである」という姿勢が伝わっているかどうかで、アセスメントの結果も変わってくるはずです。

心に届くメッセージがなければ意味はない

このことは、国が制定する制度でも同じことです。たとえば、報酬改定でも「この加算を手厚くすれば、ケアの質は高まるはず」とか「この部分の減算を強化すれば、不適切なケアは減らせるはず」という上から目線だけが先に立っている傾向はないでしょうか。

現場で働く人は、ゲームの駒ではなく、生活を抱え汗を流して働く人間です。そうした人の心に届くメッセージ(「あなたたちの職業人生が何より大切なのだ」という思いを形にすること)がなければ、どんなに精密な制度設計をしても人を動かすことはできません。これは、組織論の基本でもあるはずです。

たとえば、制度を作るのであれば、現場に足を運んで職員と膝をつきあわせて意見を収集する。今回のようなチェックリストを導入するのであれば、法人トップが現場の職員の思いに真摯に耳を傾ける機会をもつ。ここに汗を流せるかどうかが、すべての「しくみ」を作る土台ではないでしょうか。

一部の有識者や管理職クラスの人と机上で検討するだけでは、土台がいい加減なまま家を建てるに等しくなることを意識する必要があるでしょう。

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