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介護市場の疲弊が現場にもたらすもの

2016-01-25

東京商工リサーチの調査で、2015年(1〜12月)の老人福祉・介護事業の倒産件数が、介護保険スタート後で最多となったことが明らかになりました。折からの人手不足に加え、今回の介護報酬のマイナス改定により、ある程度予想された結果と言えるかもしれません。ここでは、現場で起こりうるサービス状況を見据えながら、もう少し踏み込んでみます。

介護事業全体の不採算圧力が高まっている

全体の倒産件数は75件で、通所・短期入所および訪問介護はともに29件となっています。仮に前者の通所・短期入所のうち、基本報酬の引き下げがもっともきつかった小規模型通所介護が大半と仮定してみましょう。

小規模型の請求事業所数は約2万なので、倒産件数は全体の0.1%にすぎません。しかし、倒産件数の伸びが著しいという点で、全体的な不採算圧力は高まったと見られます。「倒産」に至らなくても、「新規の利用者を受けない」「大規模法人に経営を譲渡する」という動きは強まっている可能性があります。

前者の「新規の利用者を受けない」という状況が強まる場合、ケアマネとしてもサービス調整が難しくなります。ケアプラン上で「本人の社会参加」のために「通所介護の必要性」を位置づけたとして、「新規で受け入れてくれる事業所が近くにない」という壁に当たったとします。選択肢はどうなるでしょうか。

大規模法人も「はしご外し」に懸念を抱く

まずは、大規模法人の通所介護に頼るケースが増えるでしょう。しかし、本体事業所が遠方にあって送迎に時間がかかれば、本人の負担感が増すことも考えられます。大規模法人が地域にサテライト事業所を展開していればいいのですが、法人側からは「3年後の報酬改定ではしごを外される恐れはないか(つまり、サテライト事業所の展開が経営の足かせにならないか)」という懸念が聞かれます。今回の報酬改定が、必要な地域資源の展開にトラウマを残しているわけです。

そうなると、少しでも新規の利用者を受けてくれるよう、「事業者意向で利用する曜日を設定する」といった調整が求められるかもしれません。縮小経営の中では、本来やってほしい個別機能訓練や家族のレスパイトのための延長利用が難しくなることもあるでしょう。このように、本人・家族の意向や個別の課題分析から最適なサービスにつなげる道筋が困難になり、使える条件に縛られながらケアマネジメントを進めざるを得なくなるわけです。

介護保険法の総則第二条には、保険給付によるサービスの提供について、「被保険者の心身の状況、その置かれている環境等に応じて、被保険者の選択にもとづき」と記されています。この介護保険の理念自体が、ますます危うい立場に立たされざるをえないといえます。

誠実なケアマネほど疲弊する恐れ

それでも「介護保険の理念に基づいたケアマネジメント」を進めるのなら、インフォーマル資源(社会参加という目的に照らせば、高齢者サロンや認知症カフェなど)に頼りつつ、保険給付でまかなえない部分を補完せざるをえません。しかし、こうしたインフォーマル資源は、保険給付サービスと比較して地域格差が大きくなりがちです。利用者の意向に沿い、誠実にケアマネジメントを進めているケアマネほど神経をすり減らしかねません。

こうして考えると、今後の介護保険をめぐる風景としては、「利用者側の我慢と妥協」「サービス提供側の疲弊」という中で、ぎりぎりの状況が進んでいく恐れがあります。カギは、比較的資力のある大規模法人が、多様な地域資源をバランスよく運営することですが、先に述べたように「国によるはしご外し」への疑念がそれを阻みかねません。特に財務省主導の建議案などの中身を見れば、経営戦略も戦々恐々の中で進めざるをえないでしょう。

しかし、今回の介護事業の倒産状況を見ても、時間は残されていません。介護保険の理念が崩れたとき、国の目指す地域包括ケアシステムへの信頼も同時に崩れ、拭いきれない将来不安を国民に植え付けることになります。

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