認知症事故訴訟、判決に気になる一文

2016-03-14

認知症の人がJR線の線路に立ち入って電車にはねられて死亡した事故について、3月1日、最高裁は「家族側に(JRへの)損害賠償責任はない」とする判決を言い渡しました。一、二審での判決がくつがえり、家族側が逆転勝訴したことになります。認知症の人の家族にとっては画期的な判決でありますが、判決文では新たな課題が浮かび上がります。

「施設の負うべき義務」は法定監督義務!?

判決文では、認知症当事者の妻について、「同居する配偶者であるからといって、その者が民法714条1項にいう『責任無能力者を監督する法定の義務を負う者』に当たるとすることはできない」としています。つまり、今回のような認知症の人の見当識障害などによって生じた事故に関し、個別の事情を考慮する余地は残されているものの、同居家族などが「必ず賠償責任を負わなければならない」とするものでないことが示されたわけです。

認知症の人の家族にとっては、とりあえず安堵できる判決となった一方で、以下のような気になる文言を見ることができます。

最高裁の一裁判官から出された補足意見ですが、「精神障害者が施設による監護を受けている場合、施設との間では、(中略)(法令の)定めによる施設の負うべき義務は民法714条1項の法定監督義務に該当すると解釈する余地がある」というものです(判決文では「精神障害者」と表記されていますが、「法律上の責任無能力者」という意味で使われる法律用語と解釈してください)。言い換えれば、同居家族などに法定の監督義務がないとする代わり、病院や介護施設・事業者がその監督義務を担うことが想定されているわけです。

損害賠償請求の矛先が施設・事業者に向く?

最高裁判決というのは、その後の同様の事件の判決や国の施策などにも強い影響を与えます。今回の判決で、認知症の人による鉄道やその他交通にかかわる事故に関して、「同居家族などへの損害賠償請求」は少なくなるでしょう。しかし、今度は、「認知症の人のケアを手がける施設や事業者に監督義務がある」という法解釈が進む懸念が生じてきます。たとえば、鉄道会社などが、今回の最高裁判決を根拠とし、介護事業所・施設や担当者個人を訴える動きを強めることも考えられます。

現在、ほとんどの事業者・施設では、法人だけでなく従事者個人も「介護事故等での損害賠償」を想定した損保加入を行なっていると思われます。ある賠償責任保険の例では、身体・財物共通の補償に最大1億円の保険金が支払われます。一審の判決で遺族に計360万円の賠償金支払いが命ぜられた点を考えれば、今回のような補償にも対応できます。しかし、保険会社側が今回の判例を念頭に置いて、保険料や自己負担額を引き上げるという動きが出てこないとも限りません。

ケアマネにも大きな負担が生じてくる可能性

今回の判決を受け、今のところは「認知症の人の介護負担を社会全体でシェアするべき」という世論が強くなっています。ただし、この議論が進んでいくと、「介護事業者の責務はどこにあるか」という論点が浮上する可能性もあります。もちろん、今回のような「デイサービスから帰宅して後の家族と過ごしている時間帯でのできごと」となれば、(デイサービス側の対応でBPSDが著しく悪化したというケースでない限り)事業者側に大きな責任が及ぶことは考えにくいでしょう。

では、ケアマネはどうでしょうか。「ケアマネとしてもそこまで責任はとれない」のが現場の感覚でしょうが、裁判所側の受け取り方は異なることも考えられます。たとえば、損害賠償の請求先が絞られた結果、訴える側や判断する裁判所側が、「在宅のサービス調整を一手に担うケアマネに責任あり」とする流れもまったくないとは言えません。賠償請求の対象にならなくても、アセスメント票やケアプランが裁判の証拠資料として取り上げられるケースが出てくれば、ケアマネ側の心理的な負担も増すでしょう。今回の判決を、業界としても掘り下げていく必要がありそうです。

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