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軽度者の給付カットが意味するもの

2016-06-20

福祉用具貸与などの事業者団体である「日本福祉用具供給協会」が、財務省などが提言している「要介護2以下の人の福祉用具貸与給付の縮小」に対し、「介護保険全体の給付額が逆に膨らむ」という調査結果を示しています。

大切なのは利用者の課題を解決すること

介護保険の利用者は、「こうありたい」という生活の意向に対して「実現に向けて困っている」という課題があります。その課題解決に向けて目標を設定し、その達成を目指すための援助策を設定する。これが本人の自立支援を念頭においたケアマネジメントの流れとなります。つまり、利用者の課題解決は「サービスありき」ではなく、あくまで「どうすればその人の課題解決につながるか」という流れに寄り添うことが基本となるわけです。

上記の流れに沿えば、何らかの支援策が使えない(あるいは、自己負担増によって利用者自らが利用を自粛する)となった場合、違う支援策をもって目標達成を図ることになります。今回の調査結果に見られるように、福祉用具が使えなければ、訪問介護によるヘルパーの介助を代替えとするなど。課題解決のための手段を探し続けることになります。

財務省はケアマネジメントを否定している?

上記の点を頭にいれたうえで、今回の調査の背景となる財務省側の建議を改めて見てみましょう。そこでは、「軽度者に対する福祉用具貸与は日常生活で通常負担する費用の延長と考えられる」として、原則自己負担(一部補助)が提案されています。住宅改修も「個人の資産形成である」ことを踏まえたうえで、やはり原則自己負担がかかげられています。いずれも、ケアマネジメントによる課題分析という土台がすっぽり抜け落ちていて、「何の脈絡もなくサービスが付与された」と言っているに等しい論理が展開されています。

もし、利用者の言うがまま「サービスが付与されている」のであれば、課題分析をはじめとするケアマネジメントは必要ありません。しかし、それでは介護保険のルールに則っていないわけで、そもそも介護給付の対象になることはありません。その点では、財務省側の介護保険制度に対する認識が根本から間違っていることになります。その誤った認識のもとに施策提言を行なうのは、許されることではないでしょう。介護保険制度を管轄する厚生労働省としては、本来ならば財務省に抗議をしてもいいレベルの話と思われます。

何よりもケアマネジメントによる課題分析が前提となるのであれば、代替え手段を探し続けるのはケアマネの責務です。それで介護給付が増えたとしても、何ら現場に責任はなく、むしろ財務省自らが「財政的に非効率」な手段を推進していると言っていいでしょう。

行政組織におけるルール違反ではないのか

仮に「(ヘルパー介助による)代替え手段もダメ」というのであれば、「軽度者にはケアマネジメントは必要ない」ということに加え、「家族やボランティアの力に頼らざるをえない」というのに等しいことになります。これは、「軽度者に介護保険による給付は必要ない」という論旨と何ら変わりません。

もっと言えば、「家族負担が増える」ことが前提となってくれば、それは現政権・与党がかかげる「介護離職ゼロ」に反するものとなります。少なくとも行政の長である内閣総理大臣が表明した方針に反する建議が堂々と出されるというのは、組織のルール上許されるものではありません。それを黙認するということは、「介護離職ゼロ」は看板だけのものであることを示すことに他ならなくなります。

介護保険を中重度者に特化する、だから軽度者へのケアマネジメントは必要ない(つまり、給付から外す)というのが政府の方針であるなら、それでもいいでしょう。だとするなら、はっきりとその旨を表明し、「そういう介護保険でいいのかどうか」について国民に信を問うべきです。机上の数字合わせだけで、制度や法の趣旨がなし崩し的に損なわれるというのは、法治国家そのものの体が危機にさらされることになってしまいます。

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