介護業務を構成する「感情労働」に注目

2016-07-18

厚労省が、2015年度の「過労死等の労災補償状況」を公表しています。その中の「精神障害にかかる労災補償」の業種別の状況において、社会保険・社会福祉・介護事業が請求件数で1位、支給決定件数も2位となっています。また、職種別の請求件数では、介護サービス職業従事者が5位(支給決定件数では11位)にあがっています。こうしたデータをどのように受け取るべきでしょうか。

あらゆる仕事を成り立たせる3つの労働とは

あらゆる業種のあらゆる仕事は、3つの労働から成り立っていると言われることがあります。それは、身体労働、頭脳労働、そして感情労働です。前者2つはよく聞くとして、3つめの感情労働というのは、あまり耳にすることがないかもしれません。介護労働の場合、他業種に比べてこの「感情労働」が大きな比重を占める一方、それが社会的にあまり認識されていない点に大きな課題があります。

では、その感情労働とは何でしょうか。たとえば、認知症の利用者と接する中では、「その人の理不尽な言動によって大きな苦痛を受ける」という場面も少なからず生じます。もちろん、専門職なら認知症に対する知識を修得しているわけで、「なぜその人がそういう言動をとるのか」を考え理解し、適切な対応を行なうことになります。この流れでは、2つめの「頭脳労働」が発揮されているわけです。

従事者の心の修復が追い付かなくなると……

しかし、人間というのは、どんなに頭で理解し納得していても、理不尽な言動そのものが感情に与える刺激を消すことはできません。つまり、そこには、意識・無意識にかかわらずストレスという負荷がかかるわけです。

人は心に何らかのストレスがかかると、それを解消して心の状態を修復しようとする力が働きます。ところが、際限なくストレスがかかってきたり、一つひとつのストレスの度合いがとても強い場合、心の状態を完全には修復できなくなる場面も生じます。すると「修復できない心の傷み」がどんどん蓄積していきます。それが一定以上蓄積されたとき、心が壊れるという状態が訪れます。これがうつ病などの精神疾患となるわけです。

介護現場というのは、他の業種に比べて常に緊張度の高い状況が生まれています。そのため、感性が鋭く、観察力や洞察力に優れているという人材ほど、心のしなやかさが失われがちとなります。心のしなやかさが失われれば、当然心の壊れやすさは増すわけで、介護にかかる資質が高い人材ほどそのリスクが高くなっていくという問題が生じます。

介護業務ならではの特質を掘り下げるべき

この点を考えたとき、介護業務においては「感情労働」という面にもっとスポットを当てるべきでしょう。上記では「認知症の人への対応」を取り上げましたが、従事者が感情的な刺激を受けやすくなるケースは他にも数多くあります。たとえば、利用者の家族は常にさまざまな困りごとやストレスを抱えており、その点では、現場の従事者に向けられる言動は時としてきつさを増すものです。

こうしたケースで「家族の理不尽さ」を責めたり、「利用者教育の必要性」などをいくら強調しても、それだけで問題は解決しません。大切なのは、家族が置かれた状況をいかに改善するかという公的な施策であり、家族の訴えが特定の従事者に向かわないようにするための事業所・法人のシステムの確立といえます。従事者にかかる「感情労働」の負担が理解できているかどうかが、こうした施策やシステムの拡充を図るうえでは欠かせません。

介護従事者の処遇改善などを考える場合、ともすると「販売接客」や「顧客営業」などと同列で議論されがちな面もあります。あるいは、「医療・看護の補助的役割」という視点で、介護従事者ならではの専門性になかなか踏み込めない光景も見られます。その結果、先に述べた「感情労働」をめぐる現場従事者の負担も見えにくくなるでしょう。今回の労災補償状況のデータは、介護労働実態への踏み込みが進まないことに対する大きな警告と受け取るべきではないでしょうか。

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