「介護離職ゼロ」目標が迎えている危機

2017-09-22

<2016年度(2016年5月〜2017年4月審査分)の介護給付費実態調査の結果が公表されました。要介護者に対する介護給付費を見てみると、名寄せをした実受給者の伸びは約13万5,000人で伸び率は2.8%となっています。これを利用者ニーズととらえた場合、現状の資源整備とのバランスはとれているのでしょうか。

地域密着型通所のニーズは約20万人純増!?

今回の調査が前年度までと大きく違うのは、通所介護のしくみが変わったことです。今調査では、小規模型である地域密着型通所介護が初めて受給者データの項目に加えられ、実受給者数は約58万5,000人となっています。

当然ながら、この「地域密着型への移行」によって、従来の通所介護の実受給者は大幅に減少しました。しかし、よく見るとその減少数は約38万8,000人にとどまっています。つまり、地域密着型通所介護に対するニーズは20万人分純増していることになります。

ニュースでは、小規模型事業所数が減少したデータが示されています。にもかかわらず、実受給者数がこれだけ伸びている背景として、2つのことが考えられます。1つは、仮に欠員などが生じた場合でも定員の充足スピードが速くなったという点。もう1つは、利用者1人あたりの利用回数が減少している可能性です。いずれにしても、1事業所あたりの利用者の回転が速くなっていると考えられます。

気になるのは通所のレスパイト機能低下

上記で仮定したように、通所における利用者の回転が速くなっているとすれば、新規の利用者情報を受けてケアに反映させていくという初期対応の機会が増えることになります。1人あたり利用回数が減っているとすれば、他の居宅系サービスなどとの情報共有の質を高め、「通所に来ていない間の生活」を推し量っていくという力量も重視されるでしょう。

これは、生活相談員だけでなく、現場の介護職の業務密度が上がることを意味します。ここに深刻な人材不足が絡むと、現場の対応力が追い付かないまま、利用者に大きな負担がのしかかる懸念も生じます。たとえば、半日近く車いすに座ったままでの褥そうリスクの増大、そこまで行かなくても「通所から帰るとぐったり」という状況から家族のレスパイト効果も大きく低下しかねません。

家族のレスパイト機能の低下という懸念の中で、やはり気になるのは、政府がかかげる「介護離職ゼロ」はどうなっているのかという点です。政府は今年5月「ニッポン一億総活躍プラン」のフォローアップ会合を開き、介護離職ゼロに向けた進ちょく状況を示しました。これを見ると、介護の受け皿整備や介護人材の確保について、これまで投入された施策を並べたのみです。肝心の「介護離職ゼロ」の指標がどうなっているのか、というアウトカム指標にはまったくふれていません。

せめて、今回の介護給付費実態調査を受けて、家族のレスパイト状況がどうなっているかといった中間分析でもあればいいのですが、そこまでの踏み込みは期待できなさそうです。

介護離職ゼロの進ちょくは測れているか?

ちなみに、介護離職ゼロを打ち出した際の「介護離職」にかかる元データは、2011年10月〜2012年9月調査(年間の介護離職が約10万人という数字を示している)のもので、以降のデータはありません。そもそも、この調査は総務省が5年ごとに実施している就業構造基本調査の中に含まれるもので、最新の調査は今年10月に行われる予定です。

定期調査だから、と言うのは簡単ですが、「介護離職ゼロ」は少子高齢時代における成長戦略の重要な旗印だったはずです。もし本気で「介護離職ゼロ」をめざすなら、内閣府主導で特例の年次調査を行ない、効果の進ちょくを見定めながら有効な追加施策を打ち出するのが筋でしょう。何より、介護現場などに「PDCAサイクルに則った運営」を求めている側が、それを遵守する姿勢が乏しいのでは、現場の士気も上がりようがありません。

まずは、今回の介護給付費実態調査について、介護現場が迎えている実相をきちんと見定めて公表すべきではないでしょうか。施策責任を負う立場として、小さな数字にも敏感になれる感度と誠実さが求められています。

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