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地域のSW機能を高めるための道筋

2017-12-14

東京都の高齢者福祉施設協議会の調査によれば、都内の特養ホームの約7割が「入所の際は要介護度を優先させている」といいます。介護報酬上のインセンティブなどが影響していると思われますが、「本当に入所が必要なケース」が取りこぼされる懸念が強まっているのかもしれません。施設側のSW機能の充実などを求める声もある中、こうした状況を介護保険全体の課題として考えてみましょう。

施設内SWも「組織の一員」、頑張りにも限界

基本報酬が引き下げられ、経営維持のために(日常生活継続支援加算など)重度者要件の確保に力点を入れざるを得ない──仮に施設側のSW機能の強化を図ったとしても、この点が改善されない限り、状況の改善を図ることは難しいでしょう。なぜなら、施設のSWも「組織の一員」であり、「経営悪化を防ぎ、全従事者の処遇も改善しなければならない」という名分の前では、「利用者の事情」だけを押し通すことは大変に難しいからです。

こうした課題は、今回の特養ホームの話に限ったものではありません。自立支援にかかるインセンティブの議論でも指摘された話ですが、事業所・施設によるクリームスキミング(サービス需要のうち、収益性の高い分野だけに資源を集中させること)の圧力は常に付きまといます。特に収支がぎりぎりの状況になりがちな場合、いわゆる「収益を度外視する」ことへの自由度はどうしても狭くなります。結果として、利用者(顧客)の事情は「後送り」となってしまうわけです。

SWを「組織の論理」から「利用者主体」へ

そうした中で、「利用者の事情」を最優先するSW機能を発揮させるには、2つのことが必要となります。1つは、基本報酬を手厚くして「収益を度外視することへの自由度」を高めること。そのうえで、2つめとして「SW」の機能を「サービス提供」の機能から完全に独立させることです。SWを「組織の論理」による縛りから引き離すわけです。

この点は、居宅のケアマネジメントでも同様でしょう。今回の「ケアマネジメントの公正中立」の議論でも、根本的な解決のためには、「独立型ケアマネが専業を維持できることが必要」という趣旨の意見も見られました。

確かに賛否両論もあるでしょう。仮に「独立型ケアマネの報酬を引き上げたり、一定の加算をつける」としても、地域によって法人間のしがらみなどが強ければ、公正中立の確保の特効薬になるとは限りません。しかし、SW機能の強化という視点に立つなら、やはり踏み込みたい方策の一つともいえます。

そもそも大切なのは、介護保険の主人公である「利用者」の主体的な選択をいかに保証するかという点です。この理念を施策の軸へとしっかり定めれば、SW機能強化のために「基本報酬を手厚くしたうえで、ワーカーの独立性を上げる」といった議論はもっと以前から熟されていたのではないでしょうか。

利用者にきちんと伴走できるSW整備を

今後、認知症の人がますます増え、「自分らしさ」に向けた選択意思を自力で示すことが難しいケースも拡大します。貧困や孤立などの課題を抱えつつ、常に心理的な混乱をきたす利用者も増えていく可能性があります。その場合、うまく意思を表出できないゆえに、周囲からは「わがまま人」とされ、さらに孤立感を深める悪循環も生じかねません。

そうした時代を見すえたとき、当事者にしっかりと寄り添い、「その人の真の意向」を探り当てて適切な支援に結びつける伴走者は欠かせない存在となります。国が進めようとしている「わが事・丸ごと」の地域共生社会のビジョンでも欠かせない土台のはずです。

確かに、独立を保持したSWの育成は一朝一夕でできることではありません。せめて、地域のSW機能を担っている独立型ケアマネやCWなどの待遇を大きく引き上げ、利用者が特養ホーム等に入所しても(第三者として)継続的にかかわれる存在として育成してはどうでしょうか。常に財政負担の問題は絡みますが、本人の自立支援が進んだり、本人の意に沿わない無駄なサービスが削減されるなら、結果として両立は不可能ではありません。

仮に、国民負担や保険料の高騰が免れないとしても、「自分たちの主体的な意思決定のためのサポート」という機能の充実は、納得を引き出す力となります。国民が負担増を嫌がるのは、介護保険がどんどん当事者目線から離れていることも大きな要因です。これを少しでも取り除いていく施策が求められます。

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