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生活援助新研修で現場はどうなる?

2018-03-26

生活援助の人員基準が緩和されたのに合わせ、生活援助に従事する人のための新研修が設けられます。そのカリキュラム案が、パブリックコメント募集案件の告知の中で公表されました。新しいしくみによる影響を考えます。

「生活援助の専門性」は身につくのか?

カリキュラム案(59時間)を見ると、介護職員初任者研修(130時間)のカリキュラムをベースにしたものであることがわかります。「コミュニケーション技術」は研修時間が同じですが、それ以外は一律に研修時間が短縮されています。また、初任者研修では別立てとなっている「認知症の理解」と「老化の理解」が、新研修では「認知症と老化の理解」に統合され、これも総時間は短縮されました。

こうした研修時間の長短はともかく、ポイントとなるのは、「生活援助の専門性」をきちんと教える内容になっているかという点です。そのあたりは冒頭の「職務の理解」にあたるのでしょうが、この部分の研修時間は2時間で、初任者研修の3分の1となっています。

仮に「自立支援に資する生活援助」というビジョンがあれば、そのあたりの理解こそがプロの職能として求められる部分であるはず。となれば、少なくとも初任者研修と同程度の時間をとって専門性の土台をしっかり固めることが必要ではないでしょうか。仮に他の課目に反映させるとしても、入口となる「職務の理解」でしっかりとして基礎づくりをしなければ、十分な足腰を伴わない知識だけが上積みされるということになりかねません。

事業所は新研修修了者を受け入れられるか

さて、このカリキュラムをどれだけの人が受講するのか、それによって国が考える「人材のすそ野の拡大」は実現するのでしょうか。

地域によっては、それなりに時間があり社会貢献意識が高いといった人材層を中心に一定の研修意欲はあるかもしれません。ただし、問題となるのは、新研修の受講修了者を改めて採用し、現場の戦力として整えていく経営的な余裕が事業所側にあるのかどうかです。

そうしたコストをかけて新たな人材を入れるとした場合、「生活援助にかかる時給は抑える」という経営圧力も当然高まるでしょう。となれば、専門性に見合った給与は払えないということになり、生活援助を自立支援に結びつけるという「プロとしての業務」はますます薄れていく可能性があります。国が進めようとしている「自立支援・重度化防止」の流れとは完全に隔絶されることになります。

仮に、「生活援助が揺らいでしまえば、利用者の自立支援は進まない」というビジョンを描いている事業者がいるとします。そうした事業者は、「新研修で入ってきた人をきちんと育てよう」という意識も高いかもしれませんが、現実問題として「コスト負担に耐えられない」となります。となれば、当面は「今いる初任者研修修了者以上の人材を生活援助にも充てる」となってくるでしょう。

これからの生活援助、事業者はどうする?

こうした事業者が「事業の持続性」を考えるとするなら、将来的に2つのビジョンが考えられます。1つは、現在厚労省が示している「自立生活支援のための見守り的援助」の明確化という施策に乗ることです。

つまり、これまで生活援助で提供していた部分について、「利用者にも(できる部分は)自分でやってもらう」という視点から身体介護に切り替えることです。もっとも、ケアマネとの間でしっかりと意思疎通を図ったうえで、自立支援にかかる目標設定などをケアプラン上で明確に位置づける必要があります。また、当然、利用者側の納得を得ることも必要なわけで、早くから「自立支援」にかかる理解を高める取組みも欠かせません。

もう1つは、仮に「混合介護の緩和」が進んだ場合に起こりうることです。緩和策の中身にもよりますが、「新研修よりも受講時間の長い研修(初任者研修など)を修了したヘルパーによるサービス提供」に上乗せ料金を設定するというやり方も考えらえます。

ただし、そうなれば「介護保険外の自己負担」の範囲が急拡大する可能性があります。社会保険の公平性そのものが揺らぐだけでなく、利用者側の「保険外のお金を払うのだから」という心理による過剰な要求も増えるでしょう。そうなれば、介護保険上のコンプライアンスの問題が生じるのに加え、現場従事者も大きなストレスを抱えることになります。

いずれにしても、今回の生活援助の見直しは、これから現場にさまざまな波風を立てることは間違いありません。今回の施策で本当にいいのかどうか。職能団体なども独自でしっかりと検証していくことが必要でしょう。

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