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生産性向上と魅力PRの芯はどこに?

2018-09-20

厚労省より、2019年度予算の概算要求が出されました。介護福祉分野で特に重点化されているのが、「現場の生産性向上」と「人材確保」をテーマとするものです。特に、「介護職の機能分化」と「人材の参入促進を図るための介護の仕事の魅力PR」の2点に注目します。

介護職員の機能分化に欠かせない視点

「介護職員の機能分化」については、三重県から全国へと波及した介護助手モデル事業が代表例の一つとしてあげられます。おおむね60~75歳の「元気な高齢者」を介護助手として採用し、専門的な知識やスキルがなくても手掛けられる「周辺業務」を担ってもらうというもの。これにより、介護職員の周辺業務に追われる負担を軽減し、残業等の短縮や専門性が求められるケアの集中を図るわけです。

今回の概算要求では、こうした取組みの成果の横展開などに、新規で5.9億円の予算投入が図られています。「元気な高齢者」だけでなく、現場では「高校生アルバイト」や「子育てを終えた主婦層」など、介護人材のすそ野の拡大に沿って対象が多様化しています。こうした多様な取組みを集約し、現場の特徴に合わせたノウハウのマッチングが図れれば、有効な改革になるかもしれません。

ただし、もっとも難しいのは、この「現場の特徴に合わせたマッチング」です。「特徴」を明確にするには、現場ごとの詳細な業務分析が必要です。たとえば、利用者の中の重度化傾向(疾病の種類、栄養状態の分布も含む)や認知症のBPSDの悪化状況、気候変化など、さまざまな要因によって業務の特質は大きく変わってきます。加えて、制度(介護のみならず医療も含む)が変わることにより、同じ現場でも時系列による変化も生じます。

「事例を集めて横展開」では足りない!?

こうした個々の業務分析の中で、大きな焦点の一つになってくるのが、利用者と職員にかかる「事故や健康悪化」にかかるリスクです。たとえば、利用者の事故や健康悪化のリスクが高まっている場合、職員の現場におけるちょっとした「気づき」がリスク軽減には欠かせません。その「気づき」の機会となる要素が、周辺業務の中にも数多く含まれてくるケースも考えられます。(以下、例)

例.

(1)食器の下膳作業を行なう中で、利用者が「何をどれくらい食べているか」について、食事中の観察だけでは十分に察知できない情報に気づくことがある。

(2)利用者の洗濯物をたたむという作業を通じ、「利用者の衣服が現状での可動域の変化にマッチしているか」などについて気づく機会になる──など。

つまり、業務分析においては、以下の視点も求められるわけです。周辺業務の中で「得られる情報」は何か。仮に専門職外の人材に任せるなら、そうした人材でも気づけるポイントかどうか─これらを「些細なこと」で片付けるわけにはいきません。なぜなら、今後の人口比率において後期高齢者が増え、医療から介護への流れが加速する中、「ちょっとしたこと」の見逃しが、利用者の重度化を大きく左右することになりかねないからです。

そうした中、厚労省として、「事例を集めて横展開する」だけにビジョンをとどめているなら、今回の予算要求は費用対効果に疑問符がつきかねません。以前とは「環境が変わっている」ことを視野に入れたうえ、予算投入の方向性をきちんと考える必要があります。

「現場の厳しい戦い」を正直に示すべき

さて、「介護の仕事の魅力PR」でも同じことが言えます。本当の意味での「介護業務の魅力」とは、「プロとしての技能」が現場できちんと発揮されていて、それが「社会に評価される」ことにあるはずです。先に述べたように、今は現場のリスクは高まり、それに対応する技能はさらに高みを目指さなければならない現実もあります。だからこそ、壁を打ち破ろうとする現場の取組みは、社会に称賛されるべき価値を持つ──この「厳しい現実と現場の戦い」という流れがきちんと示せてこそ、受け手側に響くのではないでしょうか。

「そんな厳しさを表現すれば、誰も参入してこない」と思われるかもしれません。しかし、そうした発想になるのは、「現場職員の厳しい戦い」を正面から評価し、相応の処遇で応えることが(国として)できていないからでしょう。そうなると、「現実」の露出は抑えつつ、「ポジティブなイメージ」だけのPRになってしまいがちです。それでは、むしろ「介護のプロの凄さ」は伝わらなくなります。

「介護のプロはこんな厳しさに直面している」と社会に示すことは、決してネガティブではありません。むしろ、「だからこそ、彼らに報いるための安定した財源をどう確保するか」という論点を国民に提示する材料にもなり、より建設的な議論につながるはずです。いまだに国民の多くが抱く「介護業務」の価値が定まらない中、それを転換させるだけのエネルギーに予算投入できるかが問われています。

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