介護の現場では、誤った常識が横行してしまうことが多い。個別性ある介護、というテーマのもとに援助を行っているはずが、日々の仕事を作業化・ルーチン化してしまうケースも多い。それは現場スタッフの仕事に対する目的意識の低さからくる、と筆者は指摘する。
ある介護事業所の管理者(看護師で病院勤務出身者)をしている知人から相談がありました。
その内容は、あるスタッフが“ベッドに寝ているときは常に15度程度ギャッジアップするように前の施設で教えられた”と言って、そのやり方を譲らない、どう指導したらいいのか? というもの。
根拠を尋ねても“そう教えられた”と言い、“施設と病院では違うんですね”という言葉が返ってきたようです。
なぜこうなってしまうんでしょう?
施設のやりかた、病院のやりかた、事業所のやりかた。そういう部分は確かにあるでしょうが、臥床時のベッドの角度という、きわめて個別的なことに統一的なやり方を適用してしまう……。事業所方針の話とは次元が違うような気がします。
相手によって、また相手が同じでもそのときの状態や気分によって求められるものが違う、というのが介護の仕事の特徴としていえると思います。この方にはこれでいいけど、別の方にはその方に合った方法を、さらに、同じ相手でもこの間はこれでよかったけど今日は通じない、というようなことは当たり前に起こります。
援助者としてのたくさんの情報とノウハウを持っていなければこなすことはできません。これは介護職員にとっては常識だと思いますが、なかにはそうではないスタッフもいるということです。
そしてそのようなスタッフもしっかり教育していかなければいけないわけですからリーダーもひと苦労です。人材不足のこのご時世で簡単に辞めてもらうわけにもいきませんからね。
自分の仕事はいったいなんのためにあるのか? 自分に必要とされていることはなにか? そんなことを調べて考えれば、自ずと答えは出てくるような気がしますが、なぜそういう思考になってしまうのか、興味津々です。
ここまでは極端な例として、現場のスタッフがどこまで目的意識を持っているか? ということは大事なテーマです。なかには、日々の仕事を作業化・ルーチン化したいスタッフもいます(そのほうが楽ですからね)。
目的意識をネットで検索すると「行動の目的に対する明確な自覚」と出てきます。自分の役割とはいったいなんなのか? 自分が動くことによってどういうことが起こるのが正解なのか、それがわかっているのか? ということになりそうです。
例として挙げれば、介護事業所ですから、介護保険法の理念、厚生労働省が定める介護サービス事業所の運営基準、法人・経営者の理念に則ることが大きな目的です。その理念が実現されるために、自分はどのように仕事をするべきか? これがわかっているスタッフは強いです。もちろんきれいごとばかりでは事は進みませんので、理念にはそぐわないが致し方ないこともあります。でもそういうときにでも、いかにして解決すべきか考えることが大切です。
思考停止してしまったらロボットのようになってしまいます。「このやり方しか私にはプログラムされていません」なんて笑い話にもなりませんからね(笑)。
そもそも介護サービス事業所であれば、“計画に沿って”ケアを提供することが求められています。目的があって、目標があり、行動計画があります。介護に限らずあらゆることに言えますが、目的を知っていないとそれは達成されません。目標を遠くから眺めているだけでは一向に近づいてきません。いつどのようなことをするか、これを決めてそのとおりに(もちろん修正はしながら)一歩ずつ進んでいかなければなりません。
ある人がこんな話をしていたことがあります。
「新人のスタッフに“何のために仕事をしてるのか?”って聞いたら、“生活のためです”って言ってね。それを言われたら何も言えなかったよ」
これは質問のしかたが悪いですよね。生活のために仕事をするなんて聞くまでもない当たり前のことです。“生活のためにしているその仕事はいったい何のためにあると考えているのか?”と聞かなければなりません。目的意識があるかどうかです。そうすれば、現場のスタッフにとっては、介護計画がもっとも身近なものになるでしょう。
何のためにどんな目標をもって何をするのか、計画が作られているはずです。それがいい加減だと(これは計画作成者の責任)良い方向には向かいづらいでしょう。現場のスタッフはいいけど上の人間が……なんて話もありますけどね。
仕事に関わる全ての人が目的意識を持って働ければこのような発言は出てこないし、介護の仕事の未来は明るいものになるでしょう。