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『かいごの学校からP.E.I.P.まで』インタビュー前編−介護職をサポートし、エールを送り続けたい!

2015-06-03

高齢化が進む日本社会において、不可欠な介護現場の仕事。しかし、労働条件がきついことや、専門性を認めてもらいにくいことが悩みになって、転職や離職をしてしまう人が多いのも現実だ。聖徳大学 心理・福祉学部 社会福祉学科 准教授で介護労働学を専門とする篠崎良勝さんは、そんな介護職の人たちに、介護労働を研究する立場から後方支援したいと考えてきた。シンクタンク勤務、雑誌『かいごの学校』初代編集長、そして青森の八戸学院大学から千葉の聖徳大学へと、さまざまな勤務先を経験し、現在に至るなか、「介護職の専門性を具体的に「見える化」から「見せる化」して証明し、よりよい雇用や地位の向上に貢献したい」と方法を模索、学生に対する介護教育の場を通じて、幅広く発信を続けている。

まずは家族の理解を深めるために調査を

自分の家族の中に介護関係者がいたのが大きな理由です。仕事には使命感を持っていたようですが、人間関係の悩みが多く、労働環境の面でも過酷に見受けられました。シフトがうまく組めなかったからと、長時間勤務をしたり、突然の休日出勤などもよくあって。意欲はあるのに疲弊していく労働状態と取り巻く環境が、とても気になったんです。

全員がそうというわけではないのでしょうが、ほかの介護職の方からも同様の悩みを聞くことが多く、介護職の労働実態を調べてみたいと思ったのがきっかけです。

まずは、実態を正確に知るという目標があります。それには、10人に聞くより100人、100人に聞くより1,000人のほうがいい。私自身は現場経験がなく、実態を肌で感じることが少ないので、なおのこと、多くの人のデータを集めたいと思うのです。

調査には自由記述も多く設けています。たとえば、「介護職に就いたことで、家族との関係が変わりましたか?」という設問をつくる。すると、「勤務時間が不規則で、家族と一緒にいる時間が減った」「夫婦の会話が少なくなった」「子どもから『もっと私を見てほしい』と言われた」などという記述が見られる。また、こうした意見とは別に、介護職の方に実際に会ってインタビューもして、声を集積します。数としての調査結果に、こうした生の声を組み合わせ、客観的データを私個人の主観的データに置き換えるのが私の調査のあり方です。

仕事のことを一番理解してほしい家族にさえ理解してもらえず、孤立している姿が浮き彫りになります。「介護職はもっと社会的地位が向上すべき」と思うわけですが、社会的地位は、周辺理解から生まれます。それなのに、一番身近な周辺理解、つまり家族の理解が得られなければ、周辺理解は進んでいかない。非常に苦しいでしょうね。そうした苦しい立場にいる介護職の方たちのサポーターとなって応援し、もっと幸せになっていただきたい。調査のゴールはそこにあります。

そうです。さきほども言ったように、私は介護の現場にいるわけではないので、介護の核の部分を実際に手伝うことはできない。ならば、介護職の周囲を衛星のように回って見守り、提案し、応援していきたいと思います。

本来、労働実態がよければ、私のように「労働実態が過酷であることを周囲から応援する」人間など、必要がないわけです。ですから、私の仕事の目標は、私の仕事がなくなることですね(笑)。しかし、残念ながらまだ解決していない問題がたくさんありますから、いろいろと手がけることは多いです。

あらゆる世代の介護職を巻き込んだ勉強会『かいごの学校』も実施

雑誌の編集長をしていたのは1年間で、その後はほかの編集専門職の方に引き受けていただきました。私は、その「介護職を応援する」というコンセプトを引き継いで、勉強会を八戸で主宰したわけです。勉強会というより、むしろ、“大人の遊び”としてのお祭りのようなものかもしれせんね。

20代、30代が楽しむだけでなく、40代、50代の人たちも役に立ち、楽しめる内容にしたいと考え、盛りだくさんにしました。広報活動も、チラシを手に、ホームや各事業所を回るなど、自らが動き、宣伝しました。

当日お出しするお弁当にもこだわったんですよ。女性が多く見え、注文してくださるので、「この内容じゃ、舌の超えた女性に満足してもらえない。この容器じゃダメ! 付け合せにサヤエンドウは必要でしょう」といったぐあいに(笑)。こっちが本気にならないと、お弁当屋さんも本気になってくれないので、食材のひとつひとつにも、心血を注ぎました。

というのも、来てくださる方々は、労働環境が厳しいなか、わざわざご自身の仕事の休みの日に、参加料を支払って参加してくださるわけです。「来てくれたら、講義内容はもちろん、細かい部分まで絶対に損はさせない!」という覚悟を持つことが大事だと思いました。

『かいごの学校』は、当時勤務していた八戸学院大学人間健康学部を中心に、実行委員会を発足させ、7年続けて開催しました。地域の介護職の方々を応援したいという思いから始まったのですが、実は私にとっても非常に貴重な経験になりました。また、イベントや会議を通じて知り合った現場の多くの方々とは、本音で話し合える関係を築くことができたのも大きな収穫です。

今でも研究内容の検証をしようとするときには、八戸の方々に意見を聞きたくて、会いに行きます。彼らは、「こんなのは役に立たない」などと、非常に率直に感想を伝えてくれますし、どうすれば改善できるか、真剣に考えてくれる。本当にありがたく思っています。

介護職の方々には、本当に仕事に対する覚悟の深さを感じています。その深さと専門性の高さをもっと社会に知らせたい、という思いで『かいごの学校』を続けてきました。今年度は、千葉県と地域連携をしながら秋に開催を予定しています。

後編に続く

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