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『かいごの学校からP.E.I.P.まで』インタビュー後編−『P.E.I.P.』で介護の専門性の高さを証明する

2015-06-05

介護職の労働条件を改善し、専門性の高さを社会に認知させたい、という熱い想いが、聖徳大学心理・福祉学部社会福祉学科准教授で介護労働学を専門とする篠崎良勝さんをつき動かしてきた。大学の教え子である学生たちに対しても、介護という仕事の深さを本当の意味で理解してもらい、卒業後の仕事に役立ててもらうために、『P.E.I.P.』という学びのツールを研究・開発し、実際の授業で活用している。カードゲームをするように気軽に扱えるのが魅力だ。介護職としての視点を確認し、観察力を直観的に養うのが目的だ。対外的には介護職の視野の広さ、ケアの深さを見える化するだけでなく、見せる化して知らせることができる画期的なツールでもある。インタビュー後編はその内容を中心に語っていただいた。

「清掃」ひとつとっても確認項目は60以上!もある

社会福祉全般を教えています。福祉、保健・医療、学校教育、ビジネスと幅広い分野で力を養うために、必要な資質・能力を総合的に育成する、その一翼を担っています。福祉で社会貢献をするのであれば、机上の理論を頭に入れただけでは務まりません。そこで、実践的な学びのツールを研究し、そのツールを使った授業を実施しています。

ここでお見せするのは、『P.E.I.P.』と名づけたカード式のものです。たとえば、「居室清掃における介護の観察視点」をテーマに、1枚のカードに1つずつ観察視点が書いてあります。これが全部で60項目、60枚のカードがあります。

その観察視点として、どんな要素が起点となっているかを表すのが、色分けされたコマです。赤が「Personality(個人的要素)」、青が「Environment(環境的要素)」、黄色が「Independence(自立的要素)」、緑が「Physical(身体的要素)」となっています。

たとえば、「利用者はゴミ箱のゴミを捨てることができているか」という観察視点に対し、何の要素が一番ふさわしいかを直感で4つの要素の中から選ぶというわけです。この視点については、「ゴミ箱のゴミを自分で捨てることができるか?」といった視点で「自立的要素」を選びます。

「ストーブのそばに燃えやすいものはないか」、であれば、「ストーブのまわりに物があふれすぎていないか?」といった視点から、環境的要素になります。

「ゴミ箱にゴミを捨てられない」ということの原因には、ほかにも身体的に弱っていて伏せていて捨てられないというのもあるでしょうし、もしかしたら、「ゴミ箱にゴミを投げ入れて命中しなければほうっておく習慣がある」ということかもしれません。しかし、さまざまな状況の可能性を考え始めたらキリがないので、とりあえず起点となる要素をひとつにしておいて、そこから利用者さんの状況を考えながら、行動の理由を探っていけばいいわけです。最初の起点となる要素は、短時間でサッと分けます。

学生や私たちが、まず驚くのは、介護職が利用者さんの部屋の清掃をしようとすると、観察視点が60(おそらくそれ以上)もあるということです。そして、ひとつの視点の要素を決めたあとも、利用者さんの個性などを見極めて、気づくべきことが多々あり、観察視点は連続的・多面的、かつ高速で展開されており、考察は尽きません。

介護報酬を上げるきっかけになるかもしれない

これは、私が行ったアンケート調査をもとに、実際に介護職として部屋の清掃に携わっている人に挙げてもらいました。このほかにも「食事介助」「洗濯」「入浴介助」など、カテゴリー別にたくさんの観察視点があって、介護における生活援助の多様性や深さがわかると思います。

介護職の人が利用者の居室を掃除している場合、対外的には「5分でさっと掃除をしている」ようにしか見えません。しかし、その背後にはこういった60の観察視点が存在しています。実は、このギャップが、介護職に対する誤解を招いていると思うのです。

介護報酬を決めるときには、「掃除は掃除」としか見ていないのではないでしょうか。いわゆる「家事介護」としての視点ですね。しかし、実際にはアセスメントする際の観察要素が60もあるわけです。こうした観察から、ケア計画も導き出されているはずなのです。

「掃除なんて簡単でだれでもできること」では、決してありません。実際の介護現場では、こんなにひとつひとつ確認・観察しながら利用者さんの総合的なケアにつなげていくのですから、報酬はもう少し上がってもいいわけです。

国や一般の方に知らせることはもちろん、介護職自身も、自分たちのやっている専門性の高さについて自覚し、職業へのプライドをもっと強く表に出しててほしいと思っています。

これまで、介護技術は、先輩の主観的な判断で決められていることが多かったように思います。しかし、「照明の明るさは合っているか」を考える場合、どんなときも、だれがケアを提供する際にも、観察視点を「環境的要素」に振り分けることで、環境を起点にして考えていけます。人によって要素が違ってしまうと、新人は何が正解かわからず、それぞれの先輩に振り回され、働く意欲を失うことになりかねません。声の大きい先輩のことを聞かないといけない、という風潮を改善するためにも、『P.E.I.P』は有効だと思います。

ケアマネジャーさんがこれを見て、「ケアマネの研修に使える」と言ってくれました。

構えずに気軽に取り組めるという点で、学生は、数ある私の授業の中でも、このツールを使った授業が一番好きなようです。正解するとカードをもらえ、50枚集めて私と勝負して勝てたら、ご褒美がもらえることになっています(笑)。 そうしたゲーム性の高さも、取り組みやすさにつながっていると思います。

『P.E.I.P.』は現場の介護職の方に細かく意見をいただきながら、3年かけて形作りました。介護職の方には本当にお世話になったので、このツールのメリットを、早く介護職の方にお返ししたい。そして、自分たちの仕事の専門性高さに誇りをもって勤務してほしいと願っています。

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