「自分が住みたい」サ高住を造る - 下河原忠道氏インタビュー vol.1

2015-09-07

「見学に行ってみたいサービス付き高齢者向け住宅はどこ?」と聞かれたら、介護業界人がおそらく真っ先に思い浮かべるのが、下河原忠道さんが運営する「銀木犀(ぎんもくせい)」だろう。センスのいいインテリア、癒しの環境音楽、おいしい食事、本気で楽しそうなクラフトワークプロジェクトクトやドラムコミュニケーションプログラムといった音楽療法。他のホームとは一線を画するおしゃれ度に驚く。だが、「おしゃれ」が下河原さんの目的ではない。入居者が自分らしく自然に生活できる環境。「世話してあげている」のではない、「自分で生きて、納得して人生を終える」ための居場所。それを、命をかけて実現しているのだ。明るく親しみやすい笑顔の内側に潜む、熱い「介護魂」をうかがってみた。

関連サイト:忠道通信

地震国の日本は建築・構造基準が厳しい

父の会社はいわゆる「鉄屋」で、薄い鋼板を車のボディや家具向けなどに加工して販売する工場です。僕は主にその現場で働いていました。5年ぐらい働いたところで、起業したいと思いまして。父の会社の鋼板を構造力学上もっと強いものにして、三階建てまで建てられる住宅建材としての構造システムを構築しようと決心しました。

アメリカのスチールフレーミング工法を学ぶために渡米、工法を学んで日本に持ち帰って「スチールパネル工法」という名前で特許を取りました。その薄板軽量形鋼造の構造設計、構造パネルの製作、販売、施工、施工管理や住宅の企画・運営などを行う会社を設立したのです。それが(株)シルバーウッドです。薄板軽量形鋼造は一般の重量構造同等の強度があり、安価に作れる。重量鉄骨造や鉄筋コンクリート造に比べて10%も安くなるので、大きな物件なら1億円節約できる、というケースもあります。自分の中では、「これはイケる」という感触がありました。

ところが、ぜんぜん売れなかった。というか、売る以前に、日本は地震大国ですから、構造の耐震基準がとても厳しくて、認可がなかなか下りないんです。すべての大臣認定を取得するまでに7年の歳月と、2億円以上を費やして、当時の僕はやせ細っていました(笑)。

ちょうど認可が下りたころ、琵琶湖のほとりで高齢者向けの賃貸住宅、当時「無届けホーム」なんて呼ばれていた住宅を作ろうと思っていた方に、「安く造れるなら、お前のところのを使ってやる」と言われました。うれしかったですね。

しかし、でき上がって見学に行くと、愕然としました。狭い部屋、トイレも洗面もないし、窓もすごく小さい。こんな牢獄みたいなところに、おじいちゃん、おばあちゃんが住むのかと思ったら、切なくなってしまって。その後も特養や療養型の病床を見学に行ったんですけれど、劣悪な環境のところも目について。ある療養病床では、止まろうとしているエンジンに、無理やりガソリンを突っ込むように、寝ている高齢者に管を入れて輸液をジャンジャン運んでいる。管でつながれてベッドに寝かされている人たちは、むくんだ身体と悲痛な顔で、天井一点を見つめていて……。「虐待でしょう、これは!」と腹が立ってしかたがなかった。「その人らしく生きる」ということと、まったく逆行しています。その後、世界のさまざまなホームを視察しましたが、日本のこの状態は本当にひどいと思いました。

それなら、自分が高齢者住宅を造ろう。心地よく暮らせて、安心して死ねる住宅を、と。それがきっかけでした。現在、4つのサービス付き高齢者向け住宅と、2つのグループホームを運営しています。

「介護してあげる」のではなく「共に住む」

サ高住は、住む人や提供する側の自由度が高いです。特に、入居者が外付けのサービスを自由に選べる部分が大きい。そこが、「心地よく暮らせて、安心して死ねる」という目標に合致していると思ったのです。また、うちの建築工法をよりよい形で活用できるケースが多いですね。ゆったりと大きな物件を建てられるから。もちろん、市場としての可能性にも着目しました。僕が高齢者住宅を建て始めた9年前は、高齢者向けの賃貸住宅は本当に少なかったけれど、今は16万戸以上もあります。国土交通省に普及させようという政策がありますからね。

うちはグループホームも2ヵ所運営しています。サ高住には認知症の方がたくさんいらっしゃいますが、その対応をより適切にするために、グループホームでの認知症ケアの専門性を、サ高住にも活かそうと思ってのことです。グループホームでは、認知症の方が普通に生活していくために、スタッフはさまざまな工夫をし、技術も磨いています。グループホームの職員が、サ高住に研修に来てそれらを伝え、認知症ケアのレベルアップに貢献してくれています。

有料老人ホームにしなかったのは、一時金の問題も大きいです。入居金1000万円なんてザラでしょう。でも、そんなのを払える人はほんの少数です。払える人だけのホームなんて造りたくないです。厚生年金で支払えるぐらいじゃないと。うちの月額費用は月15-16万円ぐらいです。それでも「高い」とおっしゃる方もいますから。立地にもよりますが、これ以上にはできないですよ。

僕ともうひとりの設計士がデザインしています。僕らが「住みたい」と思う家を造っているんですよ。とにかく、コンセプトは「今まで考えられてきた高齢者用のホームの造り方を全部やめよう!」でした。考え方がぜんぜん違うから。あれは、自然の中の野の花と比べたら造花みたいでしょう? 設計する前には、他のホームやサ高住の建築資料を取り寄せましたが、全部捨てました。

うちの住宅は、入ると木の香りがするでしょう? この香りが落ち着く、という方は多いですよ。家具は友人の職人さんが天然木で手作りしていて、床は総ひのきなんです。理学療法士が訪ねてきたときに、床をこすって調べて、「これは危険です、滑ります」と言いましたが、そんなの気にしていません。うるせぇって思いました(笑)。

たしかに、リスクはあるかもしれません。でも、住む心地よさって、大事でしょう。高齢者だって、気をつけて歩くもんですよ。リスクをすべて排除したら、造花みたいな家になる。本当は手すりだって、不自然だからつけたくないぐらいなんです。行政がつけろっていうからしかたなくつけてる(笑)。

私にとって住宅は、楽しく過ごせなければ意味がないです。今度、千葉県の浦安にオープンするサ高住は、ツリーハウスを計画しています。木の上からディズニーランドの花火が見られますよ。亀戸で企画している住宅は、運動系保育園やレコードカフェ、一般向けの賃貸住宅がついています。地域の人たちとも自然に交流して、楽しめる空間にしたくてね。

内緒ですけどうちでは、元ニートの方にスタッフとして入ってもらっています。めっちゃ働きますよ、メシ付きだって、喜んでくれて。彼ら、繊細だからこそ、介護の仕事とは相性がいいみたいで。仕事ぶりがていねいなんです。また、おばあちゃんたちも、彼らのことがわかるんでしょうね。すごく優しくしてくれます。若い世代とおばあちゃんたちとのいい交流は、ここでも生まれていますよ。

vol.2へ続く

関連サイト:忠道通信

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