選択の自由がある「居場所」づくりに - 下河原忠道氏インタビューvol.2

2015-09-14

下河原さんが運営するサービス付き高齢者向け住宅「銀木犀(ぎんもくせい)」の入居者さんは、年齢を重ねているのに、若々しく見える。それは、よく笑い、よく動くからかもしれない。洗濯物をたたみ、配膳をする。したい人はキッチンで料理もする。「お世話する」という感覚ではない。入居者さんが自分がやりたいことをやるための支援をしている、まさに「自立支援」を確立しようとしているのだ。その上に、高齢者に収入を得てもらおう、という目論見もある。「うちはブラック企業を目指してます」と笑う下河原さんの言葉の真意を、じっくり聞いてみた。

できることはすべて入居者が自分で

我々は、「できることを取り上げない」ようにしています。自宅にいたときは、ちょっとしんどくても洗濯や掃除、食事作りなどもしてきたはずなのに、ここに来たら上げ膳据え膳では、ね。靴下まで脱がせてくれるデイサービスがあると聞きましたが、言語道断です、「自分でやれ」って言いたい(笑)。

もちろん、介護度の高い方は、できないことも多いかもしれませんが、できる方には、部屋の掃除もやっていただく。ごはんも、ご自分でお櫃からよそって、配膳してもらいます。「自立支援」なんておこがましいですし、まだまだですが、できることを取り上げるのは違うと思っています。

銀木犀 薬園台の共有部では、DVDで映画を観るためにテレビを使うことはありますが、ふだんは使いません。よく、入居者さんをテレビの前に集めて座らせて、リモコンをピッてやって、職員がどこかに行ってしまうケースを見るでしょう。残された方々は、為すすべもなく、ぼんやりと画面を見ている。あれは認知症をすごく進めますからね。考えることをやめてしまいますから。テレビは認知症の人たちに対して悪い環境ばかりを作っていると、最近思うようになりました。

それとともに、「選んでもらう」ことを大事にします。バイキング方式をたびたびやって、自分が食べたいものを、食べられる量だけ食べる。生きがい向上プログラムや在宅療養支援診療所の医師も自分で選ぶ。医師は3つぐらいのクリニックをご紹介して、「この先生は麻酔がすごく上手」「この先生は人情味あふれる先生」などと説明をして、ご自身で決めてもらっています。

何にせよ、選択の自由がなければサ高住じゃない、と思っていますから。選択をすることは、生きることの基本でもあります。

僕は、入居のときの面談で、ご本人に「本当にここに住みたいですか?」と聞きます。たいてい、住みたくないって思っています。家族が疲弊してまたは心配して連れてきた、というケースが多いですし、自身も家族に迷惑をかけたくないから、泣く泣くやってきた、ということが多いですよね。まず、そこで選択の自由はなかったわけです。それなら、入居してから選択していただこうと。

入居すると、ホームのルールに従って生活するのが当然、と思ってしまいますが、入居者側からみれば、行きたくない場所に連れてこられて、やりたくないことをやらされている。認知症の方なら特に、わけもわからずいきなり服脱がされて、「さあお風呂」って知らないお風呂に入れられたら、相当怖いと思うんですよ。だから、うちでは、「入浴したくないというのなら、絶対に入れちゃだめだよ」と言っています。ごはんだって、お腹がすいていないなら、一回ぐらい抜けばいい。その後、お腹を空かせておいしく食べたほうがいいじゃないですか。

あるとき、うちで健康体操をやってくれるパートの女性が、入居者さんの前でこんなことを言っていたんです。「さあ、みなさん、こんにちはー! 今日は何曜日? 木曜日、わーすごーーーい! 明日は何曜日? 金曜日、正解! まだここに住めますよ」って。俺、カチンときちゃって(笑)。「ちょっと待て、だれに向かって口きいてんだ」と。バカにしてると思いませんか? その女性は長いあいだ福祉の世界でやってきた人です。長くやってきた人ほど、そうなってしまうことが多い気がします。でも、きちんと言ったら、わかってくれた。「知らず知らずのうちにそうなっていました」って。よかったですよ。

「来たくなかった」入居者さんに、「まあ、ここに住んでもいいか」「いや、ここが終の棲家」と思ってもらうまで、2年ぐらいかかるケースは多いです。それが当たり前だと思っていますし、「終の棲家」と思ってもらえるように、こちらも同じ目線で生活していかないと、と思っています。

何歳になっても働いて収入を得る

入居者のクラフトプロジェクトで作ってきた作品がだいぶストックできていますので、地域のお祭りで販売し、入居者さんにお店番もしてもらって、販売しています。クオリティはいいって、評判みたいですね。よくあるトイレットペーパーに折り紙を貼って「高齢者が作りましたぁ、買ってください」みたいなお涙ちょうだいの売り方はいやなので(笑)、いいものを作ろうと。陶芸では、めっちゃかっこいいボタンを作ってパッケージにも凝って、青山あたりで販売しようと思っています。

陶芸にしてもレザークラフトにしても、これはひとつのミッションで、「やってもらいます」と決めて、シフト組みますからね。入居のときに、シフトに入ってもらうこと、条件ですよ。高齢者を働かせます、ブラック企業ですよ、うちは(笑)。でもね、何歳になっても仕事ができる。収入が得られるというのを実践したくて。そうすることが、意欲につながるし、要介護度を下げることにもつながるんです。僕だって、死ぬまで仕事をしていたい。そうするつもりですしね。

 銀木犀 西新井大師では、駄菓子屋さんも併設してやっているんですよ。入居者さんが店長でね。店番しながら商品を食べたりしちゃうんですけどね(笑)。そのお店の売上がひと月12万円というのもすごいでしょう? 単価が安いのに。

店長をしているうちに、どんどん要介護度が下がって、要介護2で躁鬱だったのが要支援までよくなった女性もいるんですよ。要支援だと、介護保険制度上、うち、売り上げが立たなくなってくるんで。「もう、いいんじゃない、こんなに元気になったんだから、うち出ようよ」と言ってみたんですけどね(笑)。「やだ、出ない! ここが楽しいから」って。うれしいですね。人はみんな、居場所や役割を求めていると思うんです。

うちの住宅では、ここから半径5キロとか10キロぐらいのところに住んでいて、入居してくる人が多いです。ここなら、最期まで過ごせると。安心して、地域で暮らせると住民に思ってもらうことが、地域包括ケアだと思います。僕らは、安心感を地域住民にもってもらうために、ここを運営しています。

高齢者「に」何かしてあげるのではなく、高齢者「と」。僕らはこの地域で生きていきます。

vol.3に続く

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