介護付き有料老人ホームは「終の棲家」ではなかった

2015-11-06

脳梗塞などによって自宅で一人暮らしができなくなったものの、特別養護老人ホームはすぐに入所できない状態。そんなとき地域の包括支援センターに相談すると、介護付き有料老人ホームを紹介されることがあるでしょう。しかし納得して入居したはずの利用者が、勝手に家へ帰ろうと施設から抜け出してしまう。そして有料老人ホーム側から退去通告を受けてしまうというケースがあります。こうした話題について、実際の経験例をもとに考察していきましょう。

奥様が先に老健に

80代のAさんは、奥様と2人で生活していました。しかし奥様が急な病気のため要介護5の状態に。2ヵ月近く入院加療したもののADLは戻らず、自宅でAさんと生活するのは困難ということで老人保健施設に入所されました。Aさん自身は奥様を自宅で介護したいと強く希望していましたが、右半身麻痺のうえ失語症もあり片言も話すことができない状況。そのため、在宅での介護を諦めざるを得なかったのです。

Aさんはその後、1年半ほど自宅で1人暮らしをしていました。しかしある日、訪問した親族がおかしな様子に気づきます。ろれつが回らず、手に力が入っていなかったのです。この様子を見てすぐに救急車で病院へ。診断結果は脳梗塞でした。

リハビリも含め1ヵ月半ほど経過し、いよいよ退院という話になったとき。病気と入院生活の影響か認知症の兆候が見られるようになったため、別居中の息子さんが施設への入所を希望したのでした。地域の包括支援センターを通して手を尽くしましたが、特養や老健には空きがない状況。唯一、すぐに入ることのできる介護付き有料老人ホームに入ることになりました。

有料老人ホームに入所したものの……

施設では最初のうち、とても親身になってお世話をしてくれたようです。しかしAさんが「帰りたい」「家(誰もいない)に電話したい」と訴えるようになり、さらには勝手に外へ出ようとする事態が。すると、態度が変わってきたのです。

入所当時はAさんに「ずっと居ていいんだよ。」「ここを自分の家だと思ってね。」などと言い、息子さんにも「安心して任せて下さい。看取りまで行っておりますから。」と伝えていたにもかかわらず、やがて親族に「特養や老健には申し込んでいるんですか?」と聞いてくるようになったのです。

もちろん、特養や老健には申し込んでいませんでした。なぜなら、「最期までお世話をします。」と言われていたからです。「もしかすると退去させられるかも……。」と不安に感じた親族は、特養と老健を回り申込み手続きを取りました。しかしそれからほどなくして、Aさんが職員の気付かないうちに鍵を開けて外出。そして、転倒により軽い怪我をしたのです。

すぐに親族が呼ばれ、事情の説明がありました。その後も数回同じようなことがあり、ついには車の往来の激しい道路沿いで朝刊の配達員が発見。施設まで連れてきてくれるということまで起きてしまったのです。このことをキッカケに、施設からは最後通知がつきつけられました。

老健に入所できるまで綱渡り

結局、Aさんは奥様と同じ老健に入所することができました。しかし、それはただ運が良かっただけのこと。もし、もっと大きな都市に住んでいたとしたら、どうなっていたでしょうか。

必ずしも介護職員の数が十分ではなく、ギリギリの人数で経営している有料老人ホームもあります。そうなれば、すべてに目が行き届かないのは仕方ないのかもしれません。それなのに、そこまで手が掛からないと思って受け入れた高齢者が、目を離せない状態になる。さらには大きな事故に繋がりかねない恐れが出てくれると、入居時の約款をたてに退去を求めてくる。入所一時金や特養・老健に比べて高額な月々の費用負担をしてきた親族にとって、当然納得できるものではなかったはずです。

「最終的に老健に入所できるまで綱渡りだった。」

親族の方は、そう仰っていました。しかし日本の現状を見ると、その綱を何とか渡りきれる人はほんのわずか。もしかすると、多くの高齢者が綱の先を掴むのがやっと…という状況なのではないでしょうか。今後ますます加速するであろう少子高齢化。それによって、さらに難しくなると予想される介護の有り方が問われている気がします。

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