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「つながるケア」で地域をそのまま介護施設に vol.3

2015-09-03

菅原さんは7月に藤沢の団地のなかに小規模多機能の新しい事業所を立ち上げるため、急ピッチで準備中です。その原動力となっているのは生まれ育ったこの町への熱い想い。地域の仲間たちとつくった「絆の会」の存在とそこで生まれた多くの出会いがきっかけです。新しいスタートを切った菅原さんに今後の夢について伺いました。

地域の「人」と「人」がつながる。「絆の会」から生まれた新たなムーヴメント

東日本大震災後の被災地への支援活動を通じて、「人」と「人」とのつながりの大切さを、あらためて実感した菅原さんは、自分の暮らしている地域で、もっと多くの人たちとつながりたいと、友人3人とともに「絆の会」を始めました。

きっかけは、菅原さんと幼なじみでヤマト住建株式会社神奈川支店に勤務する磯野享史さん、被災地ボランティアで出会い、同じ藤沢で小規模多機能「おたがいさん」を運営する加藤忠相さんとの3人の飲み会でした。

その場で話が盛り上がり、「絆」from湘南〜熱き志をもつ仲間のKAIをFacebookで立ち上げ、告知することにしました。すると、なんと18人が参加表明! 以来仲間がどんどん増え、月1回開かれる集まりには常時50〜60人ほどが集まるようになりました。

この会には、介護・医療などの専門職のみならず、NPOの理事、幼稚園の理事、メディアクリエイター、プロパフォーマー、プロドラマー、和菓子職人、大工、弁護士、税理士、ファイナンシャルプランナー、一流ホテルマン等々、ありとあらゆる職種の人たちが集まってきます。ときには市長や国会議員が顔を出すことも・・・。

「この会のルールは、いたってシンプルです。“地域に対して熱い志を持っていること”“人として誰もが対等であること”。職業や年齢を問わず、だれでも“さん”づけで呼び合います。肩書はいっさい関係ありません」

集まった人たちが、それぞれ抱いている地域への夢や想いを熱く語り合い、そのなかから自発的にさまざまな活動が生まれればいい。だから、会の代表も事務所も置きません。

実際、絆の会でつながった人たちそれぞれが、自由にさまざまなイベントや活動を行い地域に貢献しています。

鎌倉戦隊ボウ・サイダー・プロジェクト」はそのひとつ。

「津波が来たらみんなで逃げる」という釜石の教訓を湘南にも伝えたい。一人ひとりの防災意識を高めることが最大の震災対策になる。子どもたちに「防災」を知ってもらい、震災時、子ども死者ゼロを目ざそうと考え、ボウ・サイダーを売り出しました。このサイダーは、20,000本売れたら大成功といわれる業界の常識を超え、年間25,000本と、販売実績を着実に伸ばしています。

夏の湘南ビーチで行われる「絆祭」も恒例のイベントとなりました。昨年の参加者数は180人に上るなど、盛り上がりを見せています。大人も子どもも参加でき、多世代が交流できる「場」として、このお祭りがよいきっかけとなっています。

また、小規模多機能型居宅介護の存在や特徴を周知するイベントもこの会から発信されました。すでにイベントは60回を超え、今年の初めには小規模多機能型―全国大会in藤沢も開催されるに至りました。小規模多機能におけるケアの実践と可能性の周知にひと役買っています。

「この会を始めるまで、同じ想い、温度感をもっている仲間がこんなにたくさんいたとは思ってもみませんでした。みんなが損得なしに活動し、ここで学び合い、吸収し合い、発信していこうとしています。専門職という殻に閉じこもるのではなく、それぞれが立場を越え、『人』と『人』として、今できることを考える。みんなで一緒に地域でアクションを起こす。可能性は無限大です! ジャンルにかかわらず、地域の『人』同士がつながれば、きっと日本の未来は変わると思います」

自費での生活リハビリも取り入れ。“好きなこと”の支援を継続したい

利用者の方が「好きなこと」をするためのサポートは、菅原さんが、小規模多機能型居宅介護『絆』で、ずっと力を入れて取り組んできたテーマです。

「生活が不自由になったことで、やむなく諦めていた“好きなこと”を、できるようにサポートする。そのことで、その人が元気になって社会参加できるようになり、かつての生活に戻ることができる。そうすれば、ますます生活が楽しくなり、やりたいことが増えていく。できることが1つ増えるたびに目が輝き、さらに元気になる。そんな循環をつくりたいですね」

現場での支援の実践を通じて、菅原さん自身が実感したことです。

たとえば、「俺はプールに行きたい!」と言った末期がんの男性(83歳)。病院で抗がん剤治療を受けて体力が落ち、医師からドクターストップがかかっているにもかかわらず、「死んでもいいからプールに行きたい」と訴えました。

プールの中で倒れるかもしれない、吐血するかもしれない。普通だったらだれもこの願いをかなえようとは積極的に考えないでしょうが、本人のこの強い希望に菅原さんは心打たれました。諦めずに、ご家族や主治医とも何度も話し合い、同意を得たうえで、実現しました。

「その方は、プールの中では、やはりつらそうに見えましたが、帰りの道中で、病人とは思えないほどの、すごくいい表情になりました。プールサイドでいつもの仲間と会って、“なんだよ、死んだと思ってたよ〜”“今度また飲みに行こうよ”と声をかけられると、その方の目が輝いたのです。趣味を通じた仲間の存在は、元気を取り戻す特効薬だと思いましたね。その方が長年つちかってきたコミュニティはとても大事。そこに戻っていただく手助けをすることが、ぼくたち専門職の役割だとそのとき、改めて感じたのです」

また、86歳の女性は、日常の歩行が困難で要介護3でした。元気だったころは、プールで歩くのを日課にしていたので「どうしてもプールで歩きたい」と言います。「歩けるようになって宝塚劇場で観劇したいの」という希望がありました。

「プールで毎日歩いて、歩けるようになりましょう」と1年ほどプール通いを続けていくうちに、女性はどんどん元気になって歩けるようになり、一緒に宝塚を観に行くまでに! 以来、その方は自信を得、積極的にいろんなことにチャレンジなさっています。自分ではできないと諦めていたことに再びチャレンジして、できるようになるまでをサポートする。それこそがリハビリだと、痛感したのです」

人が生きる希望をもって、楽しく毎日を送れるように、支援を続けていくことの大切さ・・・それに触れる出来事だったと菅原さんは言います。

生きがいや趣味を支援するのは介護保険の範疇ではないとか、利用者の要望にすべて応えていたら経営が成り立たないという意見も多いなかで、小規模多機能の場合、地域の人たちとのつながりを上手に活用しながら、柔軟なスタッフの人員配置と工夫を行うことで、経営の安定化がはかれることを『絆』での経験から菅原さんは体得しました。

そして、もう1つ大事なことは、“好きなこと”つまり趣味の継続です。そのためには、自費でのサポート体制も必要です。これから立ち上げる新規事業所では、自費での生活リハビリも考慮に入れ、結果を出していきたいと考えています。

日本では初の試み! 団地の空き家を利用した小規模多機能創設とコミュニティづくり

菅原さんにとって、さらに課題なのは、低所得の要介護の方たちを、どう地域で支えていくか、です。

2025年に向けて、高齢者人口は確実に増えていきますが、要介護度が重度化した人たちの受け皿となる特別養護老人ホームは、すでに待機者であふれているのが現状。他の施設とくらべて特養は安価ではありますが、経済的な理由から入所できない要介護者が少なくありません。

「とくに東京、千葉、神奈川、埼玉などの都市部においては、この低所得層の方たちの問題は、大きな課題です。高齢化と並んで人口減少が問題視されているなか、新たに特養をつくれば僕らの子どもや孫世代にとっては負の遺産になるだけです。そんな社会にしないようにするには、発想をかえる必要があると思うのです」

「ぐるんとびー」という法人を設立したのは、そういった課題解決へのチャレンジでもあります。

藤沢市内の既存のURの団地の空き家を利用して小規模多機能をつくり、地域の拠点とし、利用者のニーズに合わせた事業展開を考えるというユニークなものです。いうなれば「団地型小規模多機能」。

さらに、住まいの問題を解消するためには、団地にシェアハウスをつくる構想も、菅原さんの頭のなかにはあります。

たとえば、1部屋10万円の部屋だとすると、4人でシェアすれば、1人2万5000円の家賃で済みます。そこに小規模多機能のサービスをつけると3万円。食事などで2万5000円。合計8万円で生活できるようになります。

「高齢者だけで住むのもよし、学生と一緒に住むのもよし。フィットネスがしたいという希望があれば、スペースを確保する。お酒が飲みたいのであれば、居酒屋をオープンする。映画が観たければ、小さなシアターをつくる。医療が必要であれば在宅専門クリニックや訪問看護ステーションをつくる・・・。小規模多機能に集まってくる人たちに希望を聞いて、それにあわせてグループをつくって行動するとか、住む人の希望やニーズに合わせ、地域をデザインしていきたい。

そうやって隣接する団地の住民同士でつながっていけば、地域のいろいろな課題にもしっかりと対応できるようになるのではないでしょうか」

ある日、菅原さんの7歳になる息子が、「子どもたちをたくさん連れてくるから、団地内にジャングルジムをつくってよ!」と言いました。

そのひと言が決め手となり、この地域に、「子ども役員」をつくることにしました。

子どもたちみんなが、団地のおじいちゃんやおばあちゃんと一緒に考え、決めたことを、「ぐるんとびー」が支援します。そうやって団地内のつながりを深めたいという想いからです。

「高齢者や子どもたち、そしてそこで暮らす多くの人たちのニーズをくみ取り、解決策をみんなで練る。そんなコミュニティが生まれれば、楽しいですよね。毎日の生活に不安や諦めを覚えるのではなく、すべてのひとにやさしい社会になってほしいですね。

また、団地内で看取りができるような体制もつくりたいです。子どものうちから、近しい人の看取りの場面を経験することも大事だと思います」

デンマークでは、『自由』『平等』『博愛』が民主主義の原則とされ、子どものころからそれらについて学習します。「ぐるんとびー」が、そういった『自由』『平等』『博愛』の発信拠点になれればいい、菅原さんの夢は実現に向けて、一歩を着実に踏み出しています。

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