震災後は、利用者や家族の防災に対する意識が変わりました。施設の対応をしっかりと見ています。この回では介護施設の防災について環境面と職員の意識について探ります。
日本で数多く起こった災害に学び、介護施設が現在どのような観点から防災計画を作成しているのかについて前回と今回に分けて紹介しています。前回は、環境面から「地域のネットワークづくり」と「連絡網の整備」のふたつについて述べました。今回は環境面と職員の意識について進めてみましょう。
震災や土砂くずれなど、規模の大きい災害になると利用者の避難生活は長くなります。避難生活を体験した多くの介護施設では、備蓄品の完備を徹底するべきとして防災計画の見直しを図っています。
東日本大震災の避難時では、三日間を備蓄でしのいだがその後も流通が途絶えていたため食料や飲料水が足りなかった、というケースが多数起こりました。
介護施設では飲食料のほかに、薬や排せつ関連の消耗品も不足になり利用者は不安のなか不便を強いられたという声も少なくありません。
こういったことから、職員や利用者に行き渡る備蓄量は六日分が望ましいとガイドラインに明記し直した施設が多くあるようです。しかし限られたスペースで食料品、生活用品を備蓄するには限度があります。
利用者の特性に応じ十分に検討し、医薬品や食料、とろみ剤といった補助食品、簡易トイレなどの要・不要を選定しなければなりません。
また、倉庫の破損などを想定し、一か所に必要な物資全てを置くのではなく数か所に分散しておくことも有効な災害対策といえるでしょう。そして備蓄品を備えれば対策をとったことにはなりません。備蓄品リストを作成し逐一更新し、劣化や期限切れがないよう定期的に在庫チェックを心がけましょう。災害時には備蓄品が命の綱になることも十分ありえるのです。
東日本大震災では利用者だけではなく多くの職員が命を落としました。大きな自然災害が起きたとき、利用者を介助すべき職員も被災者になってしまいます。
災害時に利用者を安全に避難させるためにも、職員は自分の身を守る心構えも持たなければなりません。
そのためには、施設内の行動マニュアル以外にも災害について知っておくことが必要です。漏電やボイラー破損など二次災害の可能性を含め、地震の規模や想定される被害、救命救急の方法(人工呼吸、止血方法等)など、包括的に知識を備えておきましょう。
また、近年における地震、津波、風水害などで、社会福祉施設に関する法令の制定・改正は数多く行われています。
防災に関する義務や必要な知識は拡大し、情報も多様化・複雑化しています。随時情報を確認し、職員の共通認識として周知徹底をしなければなりません。
災害時にあたっては事業所内での指揮系統や防災管理体制が整備されている以外に、各職員の能力に負うところが大きく人材育成がポイントになります。
災害対策の意味を理解したうえで自ら状況を判断できるだけの能力を備えることが必須です。
防災意識の高揚を求めるために運営者は日頃から訓練や確認、事例検討をする機会を与えなければなりません。
災害対策にはいくつもの「もしも」があり、完璧な備えというものは不可能です。
しかし想定される問題点を一つずつ洗い出し対策を考え、職員の共通認識とすることだけが、事前に出来る万全の対応です。災害が起こった際に、冷静な判断をして行動できるよう日頃から学びを深めていきましょう。