介護職員のつくり笑顔は見破られる。本当に信頼に足る人物なのか、利用者やその家族の目は思った以上に厳しいからだ。本物の笑顔で接することのできる信頼される介護士になるにはどうしたらよいのか? 介護職としてのそもそものありかたについて語り合う場をもつこともヒントとなるのかもしれない。
最近、つくり笑顔の介護士が嫌だ、と言う家族の方に出会いました。ショックに思えるひと言ではありましたが、客観的に見たら、そのように映る現実もあるのかもしれない、と考えさせられました。
介護のような生活に密着した職種は、利用者と長い関わりになるので、嘘がつきにくいですし、本人はもちろんのこと、家族や関係者は、介護士のちょっとした行動や表情にでる本音を見逃しません。
本当に信頼していい人物なのかを、見定めようとしているのかもしれません。
いったいどうすれば、「本物」といえる笑顔を提供できるのか? そして信頼が得られる介護士になれるのでしょうか?
私なりの視点で考えてみると、日本に古くからある「おもてなしの文化」を思い出します。「おもてなし」とは単なるサービスの提供ではなく、相手の立場に立った丁寧な対応や一期一会を大切にする茶道の精神がベースにあります。
また英語のホスピタリティマインドに近く、来客を迎え、お世話をすることに通じるため、見返りを求めない、自然発生的な対応とも考えられます。
おもてなしの心とは、マニュアルにとらわれない気遣いのできる心をさし、自分と相手の気持ちよさ、喜びにつながることでもあります。
このどちらも心地よく、ハッピーになる、という発想はとても大切です。介護現場でもやはり、職員の満足と利用者の満足が比例している、またはイコールに限りなく近い、というのが理想です。ともすれば、業務に追われ余裕のないなかで、笑顔も無理につくらざるをえない現実があるかもしれません。そのゆとりのなさや殺伐とした雰囲気が、家族や関係者に伝わり、それが違和感や不信感につながっている可能性もあるのです。
おもてなしの精神は心のゆとりがなければ発揮できません。
職員がやりがいをもっていきいきと働いている職場であれば、おそらく、利用される方も家族も皆、気持ち良く、サービスの対応を受け取めてくださるのではないかと思います。
一人の職員が仕事を抱え込んでいないか? 過剰な負担になっていないか? などを見直すことも必要でしょうし、一人の利用者の方のニーズにチーム全体で向き合っていく、理念を共有していく風土をつくっていくことも必要でしょう。
ただそのような風土づくりは一朝一夕にはできません。
まずは、その方の生まれてから今にいたるまでの経緯を知ること、アセスメントデータを皆で共有するところから始めるのもいいかもしれません。
今ここにいる利用者の方がすべてではありません。その方の過去の歴史を知ることで、相手を尊重する心や愛着を持つことにつながります。
「ケアをさせていただいている」「もっと満足してもらいたい」という気持ちも生まれてきます。
また研修でもミーティングでも、数名集まれる機会があれば、そこで自分たちのケアについて対話する時間をつくるのもよいでしょう。
ひとりひとりが、自分の受けたい介護はどのようなものか? どんな人にケアしてほしいのか? など、少し現場を離れた視点で語り合う機会をつくるのです。
参考となる資料にナラティブベイストケアやユマニチュードなど、基本的なケアに必要とされる対応のしかたがわかる資料などを用意してもよいかもしれません。
現場では自分自身のケアを客観視できることはほとんどないので、そういった機会は貴重です。
研修や学ぶべきことの多い介護職ではありますが、本当はもっとも優先度の高い項目だと思うのでぜひ実践していただきたいと思います。
職員同士が一つひとつ理念を共有していく……その積み重ねが、働きやすく、職員も利用者も満足できる事業所づくりにつながっていくのだと思います。
地道に、長い目で育てていく、人が育つ風土をつくっていく、ということをあきらめずに続けていってもらいたいと思っています。