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高齢職員の労務管理〜定年の引き上げと廃止編〜

2016-08-03

前回は、高齢者雇用における、実務上の手続きについてお伝えしたが、それと同時に高齢者の雇用とは切っても切れないのが「定年」である。筆者の関与先でも、その引き上げや廃止を検討している事業所は多い。そこで今回は、「定年の引き上げ・廃止」について考えてみたい。

定年の引き上げ・廃止は慎重に

現在、国は60歳を下回る定年を認めていない。2013年に施行された改正高齢者雇用安定法では、経過措置による特例*はあるものの、会社は(1)定年の引き上げ(2)希望者全員を65歳まで継続雇用する(3)定年の廃止のいずれかの措置を取ることが義務付けられた。

その結果、(2)を選択し「希望者全員を嘱託などの契約職員として再雇用する」いう企業が多数を占めた。一方、60代はもちろん70を過ぎても元気に働く職員が多い介護業界では、いったんは(2)を選んだものの今後は定年を引き上げたり廃止して、できるだけ彼らに長くいてもらいたい、という事業所も少なくない。

しかし、定年は一度引き上げ・廃止をしてしまうと、簡単に撤回できない重要な問題だ。安易な決定は、かえって事業所の負担になりかねないため、そのメリットとデメリットについてしっかりと認識しておかなければならない。

*経過措置による特例:2013年3月31日までに労使協定を結んでいれば、事業所が定めた一定の基準を満たさない場合、65歳までの継続雇用の対象外にできるというもの。

定年の引き上げ・廃止のメリットとは

定年の引き上げ・廃止のメリットとして考えられるのは、以下のようなことだろう。

・優秀な人材に長く働いてもらえる

高齢になったとはいえ、その仕事ぶりなどまだまだ活躍できる力を持った方も多い。豊富な人生経験に裏打ちされた人間的魅力も、若い職員ではとうていかなわない「スキル」として、大きな武器となる。

・ご利用者と同年代のため共通の話題が多く、共感が得やすい

生まれ育った時代の文化など、ご利用者と共有できる話題が多く、話がしやすい。

・心身の状態の変化などを実感として理解することができる

加齢による身体的な衰えや精神状態の変化など、ご利用者と同じ年代だからこそわかることも多く、その気持ちに寄り添ったサービスが提供できる。

・生きがいの提供

「人の役に立つ」「自分でお金を稼ぐ」のは、人間にとって「生きがい」となりうる重要な要素の一つだ。「マズローの欲求段階説」では、人は「生理的欲求」「安全欲求」が満たされると、「所属・愛情の欲求」「承認欲求」「自己実現の欲求」を求めるとしているが、これは高齢になったとしても同じことである。

・定年の引上げ等に対する助成金の活用

現行の定年が60歳以上65歳未満の中小企業が、定年の引き上げや廃止、70歳以上まで継続雇用するなどの制度を新たに導入した場合、一定の助成金が受けられる。

人件費の増大や労災のリスクが増えることも

反対に、デメリットとしては次のようなものが考えられる。

・人件費の増大

定年後再雇用の場合、一定の割合で給与が下がることがほとんどだったが(先日、定年前と仕事内容が変わらない場合これは違法だという判決が出たので、今後はどうなるか分からないが)、それがなくなるということは、正職員としての給与水準や賞与額が維持されることになる。前回の実務編でお伝えした同日得喪による保険料の低下もなくなり、勤続年数が長くなることから退職金も増加するであろう。

限られた人件費を高齢者に充てることで、若い職員に費やす金額が減ってしまうという現実もある。

・職員の構成年齢の偏りによる負担の偏在

高齢の職員にとって、入浴介助や夜勤など体力の要る仕事は提供が難しくなり、限られた若い職員に負担がかかりがちになる。双方をバランスよく配置できればいいのだろうが、若い人財がなかなか集まらない事業所が多いことを考えると、当該負担の分散が課題となってくる。

・残ってほしい人財を選べない

高齢になると、能力・体力の衰えが仕事に影響を与え、これまでと同じ条件での勤務が難しくなることも多い。こうした場合、定年を機に雇用形態を変更して勤務日数や給与を減らしたり、継続雇用の特例により事業所として「残ってほしい人財」を選ぶことができたが、定年の引き上げもしくは廃止をすると、それも難しくなる(いわゆる役職定年制を設けたり、定年を65歳に引き上げた上で、60歳になった段階で勤務形態を選んでもらう、という方法もあるが)。

・福祉的雇用を続けられるほどの余裕があるか

メリットの所でも書いたが「高齢になっても人の役に立ち、また、自分の力でお金を稼ぐ」のは生きがいともなり望ましいことではある。しかし、事業所にこうした福祉的雇用を継続できる余裕があるのか、ということも考えなければならない。

・高齢者特有の危険に対する安全配慮義務

いくら元気に働いてくれるとはいえ、やはりそこは高齢者。筋力や骨の衰えが、本人が思っている以上に進んでいることも珍しくない。そのため、仕事中の転倒や無理な姿勢での介助による骨折、注意力の低下による通勤や移動中の事故など、労災につながる事故リスクは格段に高くなる。高齢者を多数雇用する事業所は、若い職員の何倍も、安全に配慮した就労環境を整えなければならないのだ。

現在は任意である定年年齢の引き上げ等も、労働力人口の減少や年金財源の不足などを考えると、法制化は時間の問題だろう。そうなったときに慌てないよう、これらメリットを最大限に生かし、デメリットを極力減らすための方策を、今からしっかりと考えておいていただければと思う。

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