施設職員が考える身体拘束−前編

2016-03-09

高齢者への虐待問題が後を絶たず、「身体拘束」という言葉も目にする機会が増えている昨今だが、拘束の実情・背景・制度上の言葉の定義について明らかにし、厚労省が出している「身体拘束ゼロへの手引き」においても、例外的に拘束に該当しないとされる、現場における「やむを得ない場合の拘束」について考えてみた。

高齢者介護の中で日常的な「身体拘束」という言葉

何の前置きもない場合に、「拘束」という言葉に対して、一般的にどのようなイメージが浮かぶのでしょうか。

―ロープで身体をぐるぐる巻きにされる……?

この物騒なご時世、ニュースなどでも「拘束されている……」など、耳にすることは少なくないと思います。要は、拘束というものは、誰かに「される」ということなのですね。

高齢者介護の中でも、身体拘束という言葉が日常的に使われています。先ほどと同じく、「高齢者の身体拘束」と何の前置きもなく聞くと、皆さんは何をイメージするでしょうか。

―ベッドにぐるぐる巻きにされる……?

明言しますと、高齢者の方への身体拘束というものは、一定の条件のもと、存在しています。その内容は、上記のようなイメージから、意外性のあるものまで、多岐にわたります。

身体拘束は原則として高齢者虐待に該当する

厚生労働省が掲げる「高齢者への身体拘束の考え方」には、以下のような記述があります。

そして、身体拘束の具体例として11の具体例が記載されています。重複する箇所もあるため、以下3点に集約します。

冒頭での「拘束のイメージ」とおおむね一致したのではないでしょうか。

拘束が招く高齢者の不幸

要介護状態にある高齢者の方が、自分の思うように動きたい、たとえば付近を散歩したいと思ったとしましょう。

介護職員が「危ないですよ」と声をかけ、制止をする

拘束が拘束を生む悪循環。結果的に、介護者の言動が意図とは真逆の結果を招いてしまうこととなる実態は、介護現場の中で日々危険視されていることの一つです。

そして何より、ご利用者本人の拘束されることそのものへのストレス・擦過傷や褥瘡による痛みの増強・不安やあきらめ、屈辱感などの精神的疲弊。

さらには、この過程を目にした高齢者の近親者、周囲の別の高齢者の不安感・苦悩や後悔。

身体拘束が招く「高齢者の不幸」は、このように枚挙に暇がありません。

厚生労働省は、他者が高齢者の自由を奪うこと、拘束することを高齢者虐待としています。

ですから、身体拘束は「してはいけないこと」と介護職員始め、多くの人が理解しているのではないでしょうか?

緊急やむを得ない場合とは、どんなケースか?

しかし、実は先ほどの一文には、次のようなただし書きが記されています。

ただし書きにある「緊急やむを得ない場合」も、以下3つに分けて明示されています。

要介護状態にある高齢者の中には、歩くことはできてもすぐに転倒される方、認知症の症状による混乱で、車道に飛び出してしまわれる方もいます。

転倒による骨折・裂傷を繰り返されている方、車道に飛び出される・車椅子で急な下り坂へ向かわれる方の介護。介護職員や近親者の抱える不安、不安からくる心労。ここから生まれるジレンマもまた、高齢者介護における重大な問題といえることでしょう。24時間レベルでその方と行動を共にすることが、適切な介護といえるでしょうか。

要約しますと、施設へ入居中のご利用者が、突発的に施設を飛び出し車道へ飛び出してしまわれる、激しく転んでしまわれる可能性が高い場合は、身体拘束もやむを得ないですよと、厚生労働省は明言しているということです。

判断は、一介護職員個人ですべきでない施設全体で……

施設では大勢の職員が見守ることができるので、昼間の通常の時間帯であれば上記のような場合でも、身体拘束は必要ありません。しかし、夜間帯は職員数が手薄なので、見守りが不十分となれば、1. 切迫性 と 2. 非代替性に該当しますので、夜間帯のみ(3. 一時性)施設の扉をロックさせていただくことはやむを得ない、と考えられます。

このようなケースの身体拘束は、施設や在宅介護の現場で日々行われている実態の一部です。緊急やむを得ない場合、という判断は個人ではなく施設全体で考えるべき基準でありますし、これらはご利用者本人や近親者に対し、どのような身体拘束を行なうのかを説明し、同意を求める事が義務づけられています。

冒頭に述べた「高齢者の身体拘束」イメージ。

このイメージの背景には、さまざまな実情が折り重なっています。単に「高齢者の拘束は虐待」と直結するのではなく、実情を適切に捉えたうえであれば、拘束(上記のような施設での夜間の扉をロックするか、といったケース)は、高齢者介護において、ある種必要な場合もあるといえるでしょう。

今回は、拘束の実情・背景・定義の紹介に終始しましたが、次回は、物で縛るなどではない、「言葉や態度による拘束」の実態について、言及してみたいと思います。

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