施設職員が考えるジェンダー

2016-05-25

介護職に従事する人の約8割が女性で、訪問介護では9割を超えるという。しかし、施設においては、男性の介護職員も多く、従来のジェンダー(社会的に形成される男女の差異)規範の変化が実感される。異性の利用者への入浴介助、大柄な利用者の移乗介助、掃除洗濯の生活援助、デイサービスにおけるミニバン車の運転……これらは男女どちらのほうが向いているのか? 果たしてそこに答えはあるのか? 介護職員におけるジェンダー規範を、筆者自身の体験談も交えながら考察し、介護業界のリアルを示したい。

男性ホームヘルパーの掃除……「やっぱり男の人は駄目ね」

現在、施設職員として従事している私ですが、以前は訪問介護事業所でホームヘルパーをしていたことがあります。

ある女性ご利用者がお住まいのマンションに、掃除のサービスで入っていたときのことです。その女性ご利用者はとても几帳面な方で、掃除の手順・方法・時間配分など、きっちりと私に提示されました。

私は、それらの条件を忠実に守り、仰るとおりに掃除を遂行していましたが、ご利用者は「やり方が悪い。やっぱり男の人に掃除は駄目ね」と、いつも呟いておられました。

約2年ほど、そのご利用者宅へ掃除のサービスで入っていましたが、他のヘルパーへ交代することとなりました。

後任のヘルパーは40代の主婦の方。ご利用者は「良かった、これで安心。あなたもよく頑張ってくれていたけど、掃除はやっぱり女性じゃないと」と仰り、その後も円満に掃除サービスが続きました。

ジェンダー規範で考えると超えられない大きな壁はあるが、「人」として見てもらえれば、信頼関係に結びつく

掃除の手順を忠実に守り、時間内にきっちりと仕上げる能力があったとしても、このご利用者の「掃除は女性がするもの」という価値観の前に、もはや理屈や技術ではない大きな壁を見た気がしました。

一方、また別の女性ご利用者のお宅で、同じく掃除のサービスに入っていたことも思い出しました。その方は、週2回のサービスをご利用で、火曜日は女性ヘルパー、木曜日は私でした。そのご利用者は、女性ヘルパーには庭の掃き掃除や台所掃除などを、私の日には階段掃除や風呂掃除など比較的体力を使う箇所を任せてくださりました。男女で箇所を割り振ってくださっていたのです。

そしてその方は「あなたみたいな若い男性にきっちりと掃除をしてもらえて嬉しいわ。私の孫もちょうど同じくらいだけど、見習ってもらいたいくらいよ」と。

ここで私が感じたのは、「掃除」という介護サービスの中でも、求められる中身はご利用者によって微妙に違うということと、「男女の捉え方」も人それぞれなのだなということ。前者のご利用者は私を「男性」として見ていたのに対し、後者の方は私を「人」として見ていたのです。さまざまなご利用者のさまざまなニーズの達成には、深い意味でジェンダー規範を理解し、コントロールする必要があると感じています。

大事なのはサービスの結果ではなく、提供する姿勢とその過程。「あなたにお任せしたい」と思ってもらえるか?

ご利用者の生活を支える上で、必要とされる介護サービスは多岐にわたります。

例えば、私は料理が苦手です。施設職員としての今も、ご利用者と共に調理をしたり、食事の準備をすることがあります。

そんなとき、気持ちの余裕や段取りの善し悪しで言うと、私はとても悪く、手慣れた女性職員の方が総じて質の良い作業をされています。

女性ご利用者の髪を結う、という何気ない日常生活のシーン。女性職員はものの数秒で髪を結いますが、私が行うとなると先ず深呼吸から始まります。「どうやるんだ……?」と心の中で自問自答しながら、軽い手汗と誤魔化しトークとを織り交ぜながら、女性職員の数倍の時間を費やすこととなります。ご利用者に対して、サービスを提供できたとは言い難い結果かもしれません……。

世間一般的に、ジェンダーによる得手不得手はある程度明確化されています。しかし、プロの料理人には、男性が多く存在していますし、男性メイクアーティスト、男性美容師、もプロとして活躍しています。

一般的なジェンダーと、専門性に特化したジェンダーとは別なのかもしれませんが、要はご利用者に対しサービスを提供する「姿勢」が大切なのではないかと思います。

生活を送るために、継続的に行われる介護においては、サービスの結果だけではなくその過程も重要視されることでしょう。

男性だから、女性だから、という観点ではなく、「この人にお任せしたい」と言っていただくための信頼性が鍵となりそうです。

万人が限りなく同じ方法で行える介助技術を磨きたい

介護職という仕事においては、ジェンダーを語るべきではないと提言しました。しかし、ここでは非常に難しい問題が一つ残されています。

移乗介助です。

身体介護の中でも、ご利用者の身体に直接触れ、ベッド・椅子・トイレ・風呂・車椅子など、さまざまな場所へ移っていただく介助。トランスファーとも呼ばれますね。

力を使わない移乗介助の方法は多数あり、日々研究が進んでいます。技術の習得やトレーニングは、今日の介護現場においては必要不可欠となっています。そんな、さまざまな方法が存在する移乗介助ですが、どの場面でもやはり介助者には一定の「力」が求められます。

たとえば、立位が不安定で、立つという意識を持ち難いご利用者に対し、一般的な男性職員と女性職員とが、同じ方法で移乗介助を行ったとしましょう。

ご利用者の残存能力を発揮していただきながら、なんとか移乗を終えることとなりました。

そのとき、男性職員・女性職員、それぞれの「力の余裕」「心の余裕」はどうだったでしょうか。

移乗中、男性職員はある程度の余裕を持ち、女性職員は力の面でやや不安が生じた可能性があります。移乗中「万が一よろけてしまったら……」としたとき、力で咄嗟に支えることができるのか、共に倒れてしまうのか。男性と女性とでは、いざというときの「力の保険」が違う可能性があるかと思います。潜在的に、移乗介助が得意・苦手とする部分に該当するのかもしれません。

むしろ大切なのは、「小柄な女性職員でも可能な移乗方法の確立」であり、「万人が限りなく同じ方法で移乗介助を行うための環境整備」を行うこと、ですね。

移乗介助においてのジェンダーをこのように解釈することで、男女関係なく、心身共に余裕を持ってご利用者に携わることができるのだと、私は思います。

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