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施設職員が感じる、日常生活に潜む傷病 Vol.1

2016-10-14

医療が発達し、国内の平均寿命が著しく伸びている昨今であるが、多くの高齢者は何かしらの傷病を抱えて生活をしている。在宅で暮らしている方、介護施設にお住まいの方に潜んでいる傷病は、自覚症状のあるものもあれば、ないものもありさまざまだ。高齢者の中で比較的よく見受けられる傷病を、筆者の経験を交えながら解説したい。1回目は大腿骨骨折について。

平均寿命と健康寿命。データから読み取る、高齢者の暮らしの理想

厚生労働省によると、2010年の平均寿命は男性で79.55歳、女性で86.30歳となっています。ただし、これは平均寿命の数値であり、もう一つ、健康寿命というデータがあります。

健康寿命とは、健康上問題がない状態で日常生活を送れる期間をいいます。

この健康寿命の数値は、男性で70.42歳、女性で73.3歳となっており、平均寿命と比べどちらも9年以上の差がある状態となっています。

平均寿命と健康寿命の差の期間は、言い換えると、「不健康な期間」を意味します。男性で9年間、女性で12年間もの間を、何かしらの傷病とつき合いながら生活をされているということです。この「不健康な期間」の拡大は、医療や介護の利用拡大につながる結果となり得ます。平均寿命が延びるという点に注目されがちですが、延ばすべきは健康寿命のほうであり、目ざすべきは不健康な期間の短縮です。これによって、生活の質の向上と、医療費や介護給付費の軽減が期待できるようになります。

筆者が勤める特別養護老人ホームでも、入居の時点ですでに何かしら傷病を抱えていらっしゃる方が大多数です。既往歴を拝見したとき、特に多く見受ける傷病名は、大腿骨骨折、脳梗塞、心不全、糖尿病、などです。

施設職員として、これらの傷病とどう向き合っていくのか、日常生活を進めるに当たって、医療的な専門知識を備えておく必要があります。

大腿骨骨折……その後の選択肢は?

要介護者において、多く見受けられる大腿骨骨折。加齢や運動不足、不摂生などによって骨粗鬆症が起こり、骨密度が低下し、骨折しやすい状態になっていることが前提としてありそうです。

大腿骨骨折には大きく分けて二つ、大腿骨の頸部骨折と転子部骨折とがあります。

股関節の直近である頸部と、関節の外側のでっぱりの転子部、どちらも重篤な骨折です。

頸部は血流が乏しい場所ですので、骨折の治りが悪く遅延しがちと言われています。逆に、転子部骨折は比較的治りやすいと言われています。その後の治療方法やリハビリ方法、生活上の留意点に影響しますので、骨折部位を正確に把握しておくことが必要です。

私が携わってきたご利用者の中でも、大腿骨骨折をされてしまった方は多数いらっしゃいました。入院し手術を受ける方、手術はせずに自然治癒(保存治療)を選択される方、とさまざまです。高齢者の場合は、まず、手術をするかしないかの選択を迫られることが多いかと思います。

これらの判断は、骨折の程度や部位を診た医師の診断に基づき、ご本人や近親者の意向によって決定されます。手術を選択される方の多くは「今後また歩けるように」という希望をもとに決断され、逆に保存治療を選択される方は「再び歩けるようになっても、また転倒を繰り返してしまうのではないか」「手術の全身麻酔のリスクが心配」という声をよく耳にします。いずれも、優先されるのはご本人と近親者の意向です。

治療方法の選択と予後の生活。ご利用者と共に考えること

年齢が若い方は、比較的手術に踏み切るケースが多い傾向にあります。

あるご利用者は「これからの生活も長いので、まだまだ自分の足で歩きたい」という思いから手術を受けられました。結果的に骨折前と何ら変わることなく歩行されるように回復しました。このようなケースもあれば、ある90代後半の方は「この年で麻酔して手術までして、その後に何ヵ月もリハビリを頑張るのは辛い。手術はせずに、車椅子でのんびり過ごします」とおっしゃいました。結果、保存治療を選択され歩行はできなくなりましたが、座位の保持や立ち上がり等は、リハビリを重ね、不自由なく過ごされた印象があります。

決断は人それぞれであり、予後のあり方も人それぞれです。

ここで重要なのは、骨折者が要介護者の場合、ご本人や近親者による意向を定めていく過程で、生活を支える介護職員も間に入り、その後の生活を一緒に考えることです。

手術を行うにせよ、手術をしない選択をするにせよ、その後の生活、動作のリハビリのコーディネートや、移動・移乗手段の確立、歩行の補佐や見守り、ご本人の意思を汲み取りながら、しかし意向の判断を担い過ぎない絶妙な立ち位置で、決断にあたり一緒に考えることが必要かと考えます。

骨折を未然に防ぐために気をつけたいポイント

大腿骨骨折をしてしまうことで、「生活が一変」してしまいます。

骨折の程度が軽度であれば、手術後に何の問題もなく歩行することもできますが、多くの場合、歩行状態が低下してしまいます。

さまざまな理由によって手術を受けなかった方は、歩行することができなくなり、移動手段が車椅子となってしまいます。座位姿勢を保つ際にも痛みが生じ、臥床時間が増し、いずれは臥床中心の生活へ……ということも起こり得てしまいます。

まず大前提として、転倒しないこと。生活の質を落とさないためにも、大腿骨骨折を避けるためには転倒を未然に防ぐことが重要であり、自宅や施設内における環境整備とヒヤリハットが重要となります。

高齢者の転倒リスクはさまざまですが、筆者の経験でいうと、地面の何かにつまずく危険性は、大きい物よりも見えづらい物にあります。目に見えてわかる5cm以上の段差よりも、カーペットの端や扉の溝、少し飛び出た椅子の足だったりします。思いがけない小さい物が、高齢者によっては視認しづらく、転倒の原因となってしまうので要注意です。

もう一つは、ふらつきです。加齢に伴い血圧の調整機能が損なわれ、一過性の低血圧や脳虚血が起こり、立ちくらみ、ふらつきから転倒に至るケースも多く見受けます。自分では健康に思っていても、このような症状は自覚しづらいことが多く、ふらついたときに、とっさに何かにつかまることができず、転倒に至ってしまうケースが多いのです。

今回は、高齢者に多い大腿骨骨折の実情を紹介しました。冒頭でお話ししたように、生活の質を保つためには、不健康な期間を少しでも少なくし、健康寿命を延ばすことに着目すべきだと思います。そのためには、起こり得る傷病のリスクを捉え、予防の準備を図ることが必要です。

次回は、高齢者に多くみられる疾病の実情と予防について紹介したいと思います。

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