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介護福祉職におけるモラルとコンプライアンス

2018-05-31

昨今耳にする機会の多くなったコンプライアンスという言葉。直訳すると「法律や内規などのごく基本的なルールに従って活動すること、またはそうした概念」とありました。現在の日本において介護・福祉の職業は、主に介護保険法がベースとして存在し成り立っています。ですから、法令遵守はもちろんのことですが、職場によってさまざまな内規が存在し、さらにいうと一人一人における介護感やモラルも、働き方に大きく関わってくるのではないでしょうか。今回、介護職員が考えるべき指針を、コンプライアンスとモラルをもとに考えてみました。

介護職員あるある? ご利用者からのお礼の品、遠慮する難しさ

介護職、特に高齢者介護の仕事を続けていると、必ずといってよいほどある悩みに直面します。ご利用者の方からお礼を頂く場面です。

「いつもお世話になっているので受け取ってください」というお言葉。それは品物であったり食べ物であったり時には金銭だったり…。ご利用者の方からすると、お世話になった人への感謝の現れ、高齢者から若い職員に対しては孫にお小遣い、のようなものなのでしょうか。お気持ちはありがたいのですが、むろん受け取ることはできません。

金銭の授受なんてもってのほかです。しかし、お礼を伝えたい高齢者の方に対し、そのお気持ちを断り続けることは意外と難しいかと思います。

「介護保険法に基づいている以上、公定価格での給料をもらっているので…」「これを受け取っちゃうと、私はクビになってしまいます」等、いかなる断り方をしても「まぁええから取っといて」と仰る方も多いです(筆者は関西在住)。

並たいていの断り文句では響かない、お礼の金品を断りきれないことも多いので、こういったケースに対する最終手段の一つとして、「今回だけですよ」と一度受け取り、すぐ後にご家族へ返却する、という方法もありますね。お断りすることでご利用者との関係性が崩れてしまうことも考えられますので、「お礼を伝えたい」というご利用者の意向に沿った解決策を模索するべきかと思います。

公的な立場であるべき介護職員が守るべきコンプライアンス、ご利用者の尊厳も守りたいモラル。本当はダメだが何とかしたい。このような悩ましい場面は、上記のお礼のケース以外にも、介護現場には幾つか存在します。

介護職員として、さし当たりできることを見つける姿勢もまた介護

糖尿病で食事制限の指示がある方から、間食に「お菓子が食べたい」とお願いされたとき。「身体が凝ったのでマッサージをしてほしい」と頼まれたとき。深夜に「自宅の家族に電話をかけてほしい」と頼まれたとき。一人の介護職員として、どのように返事をするのがよいのでしょうか。どのお願いごとも、介護職員の判断で「わかりました」と言えないことばかりですが、このような経験をされた職員は少なくないでしょう。

認知症を生きるご利用者から、ということもあるかもしれません。どのように対応すべきなのか。ロボットのように「それはできません。決まりですから」と告げるのか。コンプライアンスに抵触しながら「わかりました、やりましょう」と答えるのか。

私が思うに、このような案件では、その場ですぐに明確な答えを出すことは、得策ではないということです。介護職員がご利用者からお願いごとをされるとき、それはすなわち相談を受けているということに言い換えられます。できないと相談を受けてすぐに断るのは、もはやそれはケアでないと思います。かといって快諾もできない。

では、「一緒に悩む」のはどうでしょうか。マッサージはできないが背中を擦(さす)りながら会話することはできるかもしれない。深夜に電話はできないが理由を聞き、同調することはできるかもしれない。

ご利用者と一緒に悩み、折衷案を探すことが答えとして成立することもあるはず。ここで役に立つのはコンプライアンスよりもモラルのほうです。白か黒かだけでなく、個々に合ったグレーの着地点を探す。これも、介護職員の専門性として求められることのように思います。「ロボットに介護ができるか」というような議論をたまに見かけますが、ことグレーを探す能力に関しては、まだまだ人間に軍配が上がりそうです。

介護福祉職が目ざすべきコンプライアンスは、マニュアル人間ではない

コンプライアンスを遵守することは、組織に属する介護職員としては当然のことです。私の勤める特養で以前あった話ですが、あるご利用者が転倒され、顔にアザができました。ある職員がタブレット端末で写真を撮ろうとしました。顔のアザを職員間で共有するためです。しかし、当のご利用者は「それは嫌」と拒否されました。

タブレット端末は確かに便利であり、撮影した写真データを社内用の記録ソフトに添付すると、全職員が閲覧することができます。この当時は、社内マニュアルが追いついていない事情もあって、ご利用者への撮影許可がないがしろにされてしまうこともありました。

「怪我の把握」「事故を予防したい」などさまざまな理由があるにせよ、ご利用者が「撮影されるのは嫌」と仰る以上、優先すべきことは明確です。タブレット端末など、技術やツールの幅が増え、介護現場も日々変化しています。既存のマニュアルでカバーできない事案が発生したときに問われるのは、職員個人のモラル、倫理観となるでしょう。ご利用者の気持ちに寄り添い、物事を考える力を養わなければ、介護の未来は無機質で温かみのない世界となってしまう気がします。

現場のICT化や、職員のマネジメント方法もさまざまに確立されてきた現代の介護福祉業界。今一度、介護福祉職としてのコンプライアンス・モラルを考えることが、求められるのではないでししょうか。

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