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元気な認知症

2016-01-04

そもそも、認知症とはどんな病気なのでしょうか。解釈はさまざまですが、ここでは「認知機能に低下があり、日常生活に支障のあるもの」と定義しておきます。しかし日常生活に支障こそなく元気なものの、認知症の症状が出ている方が少なくありません。ここでは、そんな「元気な認知症」の方々について考えてみましょう。

認知機能の低下とは?

ご飯を食べたばかりで、すぐにまた「ご飯はまだかい?」などと言う。あるいは、買い物に出掛けて自分の家に帰れなくなってしまうなどの状況が、一般例としてあげられるでしょう。自分の家に帰れなくなってしまったら、これは「日常生活に支障あり」といえます。ですから、これは明らかに認知症です。そしてこういった行動をする方は、家に帰れなくなってしまったこと自体をすぐに忘れてしまいます。だから、再び出掛けてしまう……。

認知症と物忘れの大きな違いのひとつは、物忘れが「物事の一部を忘れてしまう」のに対して、認知症は「その全てを忘れてしまう」ところです。

例えば「昨日の晩ごはんは何を食べましたか?」と聞かれると、「えーと、何だったかな。秋刀魚は夕べだったか、それともおでんだったかな?」など、数日間の食事内容がごちゃごちゃに浮かんでしまう。これは物忘れです。対して認知症の場合には、同じ問いかけでも「夕べはご飯を食べていません!」と、食事したことそのものが全て抜け落ちてしまっています。

さらにそうした方は、自分の発言に対して疑いをもちません。「そんなことはないでしょう、忘れちゃったのではありませんか?」などと切り返せば、大抵の場合は怒りだしてしまうでしょう。「あいつは嫌な奴だ。自分の事をボケ扱いしやがって!」などと、その感情だけが残ってしまうのです。

“体は元気な”認知症

何度もご飯を催促したり、家に帰れなくなったりといった行動があれば、周囲の方々も認知症だと判断することができるでしょう。しかし食べたことを忘れてしまっていたり、あるいは感情的になりやすかったりする程度では、「歳はとりたくないものだ。」などと言ってスルーしてしまうことが少なくありません。そしてその程度では、正確に言うと「日常生活への支障」は出てきていないのでしょう。

しかし、行動の全てが抜けてしまっているという点では、認知症の症状がでています。この程度の認知症の方が、例えば家族が「一人にしておくのは不安なので、見守り程度でもいいから誰かに訪問してもらいたい。」と考えたとしましょう。そこで介護保険を申請したら、どうなるでしょうか?

介護保険に携わっている方なら察しがつくと思いますが、まず「非該当」になってしまいます。多少ちぐはぐな部分があるにせよ、身の回りのことは自分で行えるわけですから。お漏らしをして汚すこともなく、大きな声を出して近隣にかけたりしたこともない。生年月日や住所も答えられるため、「いったい、何に困っているのですか?」となってしまう訳です。

しかしこの「食べたことを忘れる」「指摘されると感情的になる」といったものは、明らかに認知症の入り口といえる症状です。例えば、このように歩行や身の回りのことに支障のない「体は元気な」認知症の方が、進行するとどうなるでしょう? いずれは、家に帰れなくなってしまうでしょう。ただし、それがいつ訪れるかは誰にも分かりません。だからこそ見守りがあれば、それも、的確にその状態を把握できる専門職の見守りがあれば、状態に適した関わり合いができ、重大な事故などを防げるのではないかと考えます。

認知症の治療と実情

現在、認知症には薬物療法がかなり有効と言われています。認知症は「非可逆性」の病気であり、治すということはできません。ですから薬物を用いても、その症状が改善される訳ではなく、進行する速度を遅くことに留まるのです。

残念ながら進行を止めることはできないのですが、速度が遅くなれば、重篤な状態になる前に本来の寿命が訪れるという希望があります。世界中で認知症に関する研究が行われており、日本でも複数の薬が認可されています。しかし残念なことに、私の経験している限りでは、より有効的に薬物療法が行われているとは感じられません。

それは、なぜなのか。

ひとつには、受診する時期が手遅れであること。少し極端な例ではありますが、緑内障などで失明してしまってから眼科を受診しても、もう視力はどうにもなりません。「もう少し早ければ」と医師が言っても、すでに遅いのです。

もうひとつは受診する科。高齢の方は大抵何らかの持病があり(高血圧や関節痛など)、その科を受診した際についでに認知症の薬をもらっているケースが少なくありません。相手は医師であり、またひとつの体ですから、その薬が毒になるということはないでしょう。しかし例えば、耳鼻科に行って「腰が痛いんです」という人はいないはず。ですから、やはり認知症についても、まずは専門医に診てもらい(まだまだ専門医は少ないですから)、通うことが困難ならば紹介状を書いてもらってきちんと継続的に治療することが大事だと考えます。薬による効果は、きちんと示されているのですから。

日本の医療では、まだまだ予防医学は進んでいません。病気は悪くなったら治療するもの。早期発見・早期治療には検診などの助成がありますが、予防はほぼ全額が自費です。介護保険も悪くなったら使えますが、「危ないなぁ」といった程度では利用できないケースがほとんどでしょう。そして、いよいよ家族では手に負えなくなって、私たち専門職の元にいらっしゃいます。

しかしここで、私たちは「手遅れですよ。」とは申し上げません。何とかその方を、そしてご家族の不安を軽減し、力になる方法を考えます。そんなとき専門職として、単に経験上よかれと考えられることに留まらず、「学術的には」「統計的には」「研究されている中では」といった知識と、それを論理的に説明できるスキルを身につけていかなければならないでしょう。

これから、ますます「元気なお年寄り」「元気な認知症」が増えてくると思います。自分たちもまた、そこに向かっているのですから。そんな中でも、恐れずに老いてゆける社会になればと願っています。

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