ヘルパーの苦悩

2016-02-22

契約によってスタートする介護保険制度。一番の理想は、利用者本人が生活に不便を感じて「ここを手伝ってほしい」などと申し出、それによって利用開始になるという形でしょう。しかし実際のところ、こうしたケースは多くありません。なぜなら、本人はあまり不便だと感じていないから。こうした場合、家族から依頼されるのが常です。つまり本人は不便だと感じていないのに、家族は「何とかしなければ」と思っているところがスタートラインとなります。そのため導入当初から、本人と家族の希望には幾分の食い違いが。ヘルパーは、こうした状況にも上手く対応しなければなりません。

嫁から寄せられた介護サービスの依頼

介護保険の導入は、まずケアマネジャーがアセスメントを行って、その必要性と希望をヒアリング。その内容を踏まえたうえで、ヘルパー事業所との契約により介護計画に添ってサービスが開始されます。ここでは1つ、利用者Aさん(女性86才)の事例を挙げてみましょう。導入が上手くいったケースから、ヘルパーがどのように現場を乗り切っているのかをご紹介します。

Aさんには若干の認知症があり、「要支援2」の認定を受けています。さらに夫(88才)も「要介護1」で、二人暮らしです。味噌汁が冷めないほどの距離に長男夫婦が住んでいますが、夫婦共働きのため、全ての面倒を見ることはできません。そのため、嫁から「食事の支度や服薬の確認等の支援をしてほしい」と依頼がありました。

事前訪問に伺って感じたのは、嫁姑の間のあまりにも他人行儀な振る舞い。嫁と姑。もともとは他人とはいえ、家族になって何十年も経っている間柄です。まして遠距離に暮らしているわけでもないのに、なんとなくよそよそしいのです。すぐに「これは何かあるかな?」と感じました。後になって分かったのが、Aさんはお嫁さんが嫁いできた頃にかなり厳格だったらしく、お嫁さんは少なからず辛い思いをしたということです。

思わぬところから飛び出した問題

サービス開始にあたってAさんに「これから一緒に、お料理など少しお手伝いさせていただきますね。」と話すと、ニコニコして「〇○(嫁)はよく気のつく嫁でありがたいよ、よろしくお願いしますね。」と喜んでくれている様子。そして週に3回ヘルパーが訪問し、Aさんと一緒に台所に立つようになりました。

お嫁さんから依頼されたことの1つが、の「傷んだ食材があったら処分してほしい」というもの。これは特別なことではありません。傷んだ食材があれば処分するのは当然です。しかしAさんに限らず、高齢の方が物を捨てないのはよくあること。少し難儀するかと思っていたものの、実際にはそうでもありませんでした。これには安心しましたが、問題は他のところに出現。1ヶ月ほど経過した頃、モニタリングを行うとお嫁さんから指摘事項があがってきたのです。

「母から聞いたのですが、ヘルパーさんは勝手に冷蔵庫を開けて、何でもかんでも捨ててしまうそうですね。傷んだ物の処分はお願いしましたが、これはやり過ぎなんじゃないですか!?」

とのこと。もちろんヘルパーは、決して勝手に冷蔵庫を開けたりはしません。もちろん、むやみに食材を捨てることもないのです。たとえ明らかに傷んでいるものでも、利用者さんに確認をしてから処分します。では、なぜこのような事態が起きたのか。Aさんは若干の認知症があるため、経験したことを都合のいいようにすり替えて記憶してしまっているのです。

プロとしての対応で事態が解決へと向かう

ヘルパーの利用はAさんだけでなく、お嫁さんにとっても初めてのことです。お嫁さんはお母さんに対し、年齢相応の物忘れはあるものの、まさか「作話」的な症状まであるとは思ってもいませんでした。そのため、Aさんの話を信じてしまっています。これは仕方のないことでしょう。

ヘルパーは心外な思いをしたものの、そこはプロとして腹を立ててなどいられません。そして立てた対策が、「たとえ本人がその場で同意しても、ヘルパーは捨てない」でした。傷んだ食材をひとまとめにして、家族に分かるようにしておく。お嫁さんは確執があるらしく処分できないので、息子に見て捨ててもらいます。こうして嫁任せにしていた介護に息子が関わることで、事態は良い方向へ向かっていきました。

定期的に冷蔵庫の中をチェックしてみると、同じものが大量に購入されていたり、余り物が保存されたまま忘れられて腐っていたりすること。冷蔵・冷凍品の区別なく保管されていることなど、具体的な問題点がはっきり見えてきました。

苦悩の中でも取るべきヘルパーの対応

導入部分のアセスメントで家族から挙がった「傷んだ食材を処分してほしい」との希望。これについてAさんは「傷んだ物などない」という認識で、一緒に調理を行うだけだと思っていたのです。そして長男夫婦は、Aさんの認知力低下を正しく理解していませんでした。だから当たり前に支援しているヘルパーに対して、先のような指摘が挙がってしまったのです。もしヘルパーステーション側が「ヘルパーは勝手に物を捨てたりはしません。それはAさんの作話です」などと言っていたら、話はさらにこじれ、解決にはさらに時間を要したでしょう。

ヘルパーとの関わりが初めてなのですから、身内の言い分を信じてしまうのも当然です。そんなときに事業所が心掛けなければいけないのは、本人・家族から辛辣なクレームに感じるような申し出があっても、その場で申し開きや言い訳がましいことは言わないようにヘルパー全員へ徹底しておくこと。そして、相手の言葉を否定しないよう気を付け、安易に謝らないことです。

「そうですか、分かりました。このことについてはきちんと報告のうえ、事業所として対応させていただきます。」

こうした具合に、一呼吸おくのが良いでしょう。

ヘルパーが「よかれ」と思って行っていること。その場では本人も嬉しそうな表情をしていますから、驚きと落胆はあるでしょう。しかし結果的にAさんは、認知症が進んでしまっていることを長男夫婦に分かってもらい、ヘルパーとの関係も良好になりました。Aさん宅には、夫の支援も含めて訪問が継続されています。

導入から暫く時間はかかったものの、本来のヘルパー支援ができるようになったケースです。もちろん、全てのケースが上手くいくわけではありません、途中で途切れてしまうケースもあるでしょう。それでも誤解を克服し、「どうしたら在宅生活を支えられるのか」を考えること。ヘルパーの苦悩は耐えません。

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