身体介護と生活援助について

2016-04-04

2000年(平成12年)にスタートした介護保険制度。それまではいわゆる「措置」として行われてきた介護という分野が、契約に基づき行うという仕組みに変わりました。国民は原則として全ての人が保険料を納め、サービスを利用した人は一部負担金を支払う。提供した側は国民保険連合会に請求を行い、介護報酬を受けとるというものです。これは、医療保険と同じ仕組みと言えるでしょう。今回はそんな介護業界において、訪問介護における基本報酬について考えてみたいと思います。

報酬単位から感じる疑問

訪問介護は「身体介護」と「生活援助」の組み合わせにより、報酬単位が算定されます。1単位が10円に当たりますので、この部分は医療保険と同じ。このうち「身体介護」とは、利用者の身体に直接触れる行為を示します。例えば、おむつ交換や入浴介助、着替え、手引き歩行など。そして「生活援助」とは、掃除や洗濯、買い物や布団干しなど、身体に直接触れることはないものの、生活を営むうえで欠かせない作業です。

介護保険で定められている訪問介護の報酬単位は以下の通りです。

つまり、入浴介助を約1時間で行って、その後に洗濯や掃除など全部で1時間45分を要した場合、【(3)388+(7)134=522単位】という算定です。このような方法で算定される単位報酬ですが、「身体介護」と「生活援助」の単位があまりにも違うことに疑問と驚きがあります。そう感じるのは、私だけでしょうか?

「身体介護」が約1時間で388単位、 「生活援助」が約1時間で134単位。「身体介護」と「生活援助」、どちらも在宅生活を支える為には欠かせないもののはずなのに、同じ滞在時間で2倍以上も収入の違いが生じてしまうのです。

もっと言えば、「身体介護」に当たる入浴行為は、生きていくうえで“なくてはならないもの”とはいえないでしょう。対して、「生活援助」として調理を提供しご飯を食べるということは、生きていくうえで欠かせないことだと思うのです。

身体介護と生活援助に違いはあるのか?

例えば寝たきりの人がいた場合。日中は家族が出掛けてしまうので、おむつ交換や食事の介助、水分補給等の援助を行います。こういう状態の方は、ほとんど文句は言いません。そのため、ヘルパーは静かに淡々と「するべきこと」を時間内に行うことが可能です。命へのリスクはあるものの、他職種との連携や協力態勢が整えてあるため、穏やかに介護行為を行うことができるでしょう。

一方で、加齢と共に、今までできていたことができなくなり始めた利用者への生活援助を考えてみます。例えば、「今日はけんちん汁を作ってもらおう」とヘルパーの訪問を待っているとしましょう。

里芋の皮をむくと、「あら、そんなに厚くむいたらもったいないでしょう!」と言われる。あるいはこんにゃくを切ろうとしたら、「こんにゃくは、味がよくしみるように手でちぎるのよ!」と事細かに指示してきます。こんな調子では、70分という訪問の時間内に、ちゃんとけんちん汁が仕上がるのかヘルパーは不安になってくるはずです。

ここでは、寝たきりとけんちん汁の調理を例に挙げました。「身体介護」と「生活援助」は形こそ異なるものの、“他人の生活を気持ちよく支える”という点では、細心の注意を要するということにおいて大きな違いはないと思います。

プロによる介護への考え方

おむつ交換は汚い作業だから、あるいは、入浴介助は転倒等の高いリスクが伴うからといった意味合いで、高い介護報酬が算定されているのでしょう。しかし、以前に厚生労働省の方がおっしゃっていた、次の言葉が忘れられません。

「掃除や飯の支度なんてものは、昔から女が当たり前にやってきたことなのだから……」

これは、だから安くて良いのだということなのでしょうか。いや、それは違うでしょう。個人が自宅で自分の家族の分の家事を行うのと、プロとして、生きてきた歴史の違う人へ家事を提供するのでは大きく異なります。

日常生活の援助などは、家族でも代替えすることができます。そのため、医療と比較して専門性は高くないという見方がされてしまうのかもしれません。しかし、家族による介護と比較すれば、アセスメントや家族関係の調整など、より高度な専門知識や専門技術が求められます。つまり、決して誰でも実践可能なものではないのです。これは、訪問介護全般に言えることでしょう。

「身体介護」と「生活援助」。これらは、いずれも在宅生活を支える為にはなくてはならないものです。そして「身体介護」はケガや事故のリスクが高く、「生活援助」は本人のこだわりへの理解と受容が幅広く要求される。このような点に着目したのなら、冒頭に示したような介護報酬の大きな違いは、やはりおかしいのではないかと考えてしまうのです。

日本の社会全体も、例えば「男だから」「女だから」といった固定概念から脱却しつつあるでしょう。これと同様に、介護保険の報酬でも「昔から女が当たり前にやってきたことなのだから」といったものの見方・考え方は、方向修正されていくことを願っています。

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