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在宅介護の医療行為について

2016-06-13

在宅介護、つまりヘルパーの訪問を必要としている方は、そのほとんどが高齢者です。それも、後期高齢者がその大部分を占めます。さらに半分以上の方は、独居もしくは老夫婦二人世帯。この方々は大抵、薬を常用しています。最も多いのは血圧の薬。次に多いのは糖尿の薬になります。それらの薬は「一日3回『食後』『食前』『寝る前』に」と指示され、中には『食直前』や『寝起き』『食間』などという指示もあるでしょう。では80・90歳の方々が、これらの薬をきちんと“忘れず・間違わず”に服用できるのでしょうか。

訪問介護で服薬介助は行えない

薬の正しい服用。これは、高齢者に限ったことではありません、毎日当たり前に行う行為というのは、誰しも「はて、今日はやったかな」と忘れることがあるもの。それが記憶力の低下した高齢者となれば、『飲み忘れ』『重複飲み』があっても驚くことではないでしょう。

しかし医師は、きちんと飲めていると判断して投薬します。そのため、飲んでいても下がらない血圧に対しては、薬の量を増やしたり変更したりすることも。どんどん薬の量が増えて、「これはおかしい」と家族が気付いたときは大量の残薬が見つかる……なんていうこともあるのです。

そうした方のもとにヘルパーが訪問している場合、家族から「きちんと飲ませて貰えませんか」などと頼まれる事がしばしばあります。しかし『服薬介助』は医療行為になるため、ヘルパーは行ってはいけないのです。それは訪問介護ではなく、『訪問看護』の分野になってしまいます。

訪問介護の限界点

薬をきちんと服用できるように、訪問看護を依頼したとしましょう。介護保険で定められている訪問看護の単価・単位数は最小単位で《20分未満》310単位。もし一日2〜3回、確実に服薬できるようにと訪問看護を介護計画に入れれば、単純計算で310×2×30=18,600となります。もし要介護2の方ならば限度額が19,480単位ですので、これだけでほぼいっぱいになってしまい、他のサービスが受けられないということになってしまうでしょう。

そもそも薬を確実に服用できない方が、他の日常生活を心配なく行えるのか。そうと考えれば、当然それには無理があります。個人差はあるものの、長い間訪問介護の仕事に携わってきた中では、「要介護2」程度までが在宅で生活できるギリギリの状態ではないかと感じています。多少の失敗はあるものの、食事や排泄の部分はなんとか自立。ときどき物忘れはあっても、人に迷惑をかける程ではない。こうした方々を支えるのが訪問介護です。

介護現場での工夫

例えば火の始末に不安があり、一人では調理できないのでヘルパーが訪問して一緒に調理をする。あるいは足の運びが悪く「滑って転んだら大変」と家でお風呂に入れなかった方が、手伝ってもらうことでお風呂に入れるようになったなど。ちょっとした見守りや手助けにより、住み慣れた自宅で暮らし続けられる方々のお手伝いをします。しかしそこに「薬が飲めないから」と訪問看護を導入すれば、そこにヘルパーの枠はなくなってしまうのです。

では、こうした場合どうするのか。『日付を入れる』『名前を書く』『一包化する』等の工夫をしてもらい、服薬を確認したり促したりといった方法で、少しでも飲み忘れを減らすようにします。薬を服用するということは、ひとつ間違えば重大な事態に繋がりかねない医療行為。それは理解できますが、日常の中で当たり前の行為と考えた場合、介護保険では少し厄介になっている事です。

医療行為の制約による滑稽な状況

もうひとつ、厄介な事例を挙げておきましょう。

先述した自宅での入浴介助の場合、念の為にと血圧や体温を計るという行為も医療行為に当たります。デジタルの血圧計が普及し、今や血圧計は多くのご家庭にあるでしょう。しかし、これを使用した血圧測定でさえ、ヘルパーは行ってはいけないのです。ただし、本人が計っているのを見ているのは良いとのこと。なんだか滑稽に思えてしまうのは、私だけでしょうか?

在宅で暮らす方々の中には、口から栄養を摂ることができず“胃ろう”を増設している方や、寝返りができず褥瘡(床ずれ)のリスクの高い方、在宅酸素の方、人工呼吸器をつけている方など、重症と言われる方々も少なくありません。そういった方には、もちろん高度な専門知識を持つ看護師の訪問が必須なのでしょう。しかし、日常生活で当たり前に行っている服薬や血圧測定といった行為まで厳密に規制するとなると、在宅での生活継続をどんどん難しくしているように思えてなりません。

もちろん家族が行えていること全てとなれば、責任所在があるので難しいでしょう。しかしあまりにも「責任、責任」と言って制約していたのでは、自宅での生活そのものを諦めなければならない人を増やしてしまうようにも感じるのです。

これからも見直しが繰り返されていくであろう介護保険制度。私たち訪問介護員も自身の質を高め、こういった現場での意見を掬い上げてもらえるようになりたいものです。

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